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僕の好きなアジア映画09:薄氷の殺人

『薄氷の殺人』
2014年/中国/原題:白日焰火
監督:ディアオ・イーナン(刁亦男)
出演:リャオ・ファン(廖凡)、グイ・ルンメイ(桂綸鎂)、ワン・シュエビン(王学兵)

中国の映画も変わったなぁと、この映画を観たときにはつくづく感じたのであった。大雑把に言えば、今までの中国の映画は、中国の地方/辺境の伝統的な風俗の中での、メロドラマ的な物語であったり、あるいは中国共産党の施作により激変する歴史の中で、不条理に翻弄される市井の人々を大きな物語の展開の中で描いたり、というじっくりと骨太で、しかし素朴さを残して描くというのが、中国映画に対する勝手な僕の印象であった。もちろん例外はたくさんあるけれど、チェン・カイコーやチャン・イーモウの初期の映画に、まだ僕の中国映画に対するイメージは固着していたのだと思う。

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しかし、この映画は中国北部の地方都市を舞台にして、未解決のバラバラ殺人事件を追う、元刑事を主役としたスリリングなクライム・サスペンスである。そこには過度に政治的な匂いや、中国の伝統的な風景や風俗はほぼ存在しない。光と影を有効に使った、美しい映像が極めてスタイリッシュで、僕はその当時までの中国映画にはない新鮮な魅了を本作に感じたのだ。

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しかしながら映像の素晴らしさもさることながら、この映画を支配しているのは台湾の女優グイ・ルンメイの存在感ではなないだろうか。殺人犯の妻と思しき疑惑の女性を演じる彼女。儚く透明な美しさ、そして疑惑そのものがますます彼女の危うい魅力を際立たせている。どこまで突き詰めても、追い求めても、秘めているものが全く浮かび上がって来ないような、謎めいていて、青白い炎のように哀しみを体現した彼女の存在が、この映画を覆い尽くしているように感じる。

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ちなみにグイ・ルンメイは同じくディアオ・イーナン監督の『鵞鳥湖の夜』にも出演し、物語の鍵となる「水浴嬢(水辺で客をとる娼婦)」を熱演している。

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そこでの彼女も重要な、謎めいた、そして魅力的な役柄なのだけれど、個人的には本作『薄氷...』の彼女の方に圧倒的にひきこまれる。主役の元刑事がどんどん彼女のミステリアスな魅力に耽溺して、後戻りできなくなっていくのが、理解できるのだ。だから本作はグイ・ルンメイの魅力なしでは成立していない映画だと思う。

最後の元刑事が踊るシーンは大事な場面ではあるけれど、その踊る姿の垢抜けなさ素朴さに、そういえばこれは中国の映画だったなぁと思い直した次第です。

ベルリン国際映画祭でグランプリと男優賞の2冠を受賞。

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