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僕の好きなアジア映画 07:ソンランの響き

『ソン・ランの響き』
2018年/ベトナム/原題:Song Lang
監督:レオン・レ
出演:リエン・ビン・ファット、アイザック、スアン・ヒエップ

東南アジアの映画も注目ですね。特にベトナム映画の進化はこのところ目を見張るものがあります。新しい才能も現れています。本作の監督レオン・レも、なんとこの作品が初の長編映画とのことです。

この映画、基本的な物語は古典的ともいうべき普遍的な悲劇の形態をとっています。孤独な人間同士の魂の共鳴、そして叶いそうになった夢が、ラストで理不尽な形で奪われてしまいます。悲劇としては十分に想像できるものです。ストーリーとして斬新である、という部分は特にありません。しかし本作は露骨なそれではないのですが、ボーイ・ミーツ・ボーイの映画でもあるのです。

タイトルの「ソンラン」とはベトナムの民族楽器(弦楽器)の名前です。1980年代のサイゴンを舞台に、京劇などとそのルーツの関連を感じさせる伝統歌舞劇(カイルオン)の人気役者役にはアイザック。ベトナムのポップスターで、ノーブルな感じ。

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彼と、過去にソンラン奏者を志したことがあると思しきヤクザの借金取りとの出会いを描いています。ヤクザにはちょっとワイルドなリエン・ビン・ファット。いい役者です。ソンランはカイルオンの音楽にも使われる楽器の一つのようですね。

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率直に言いますと、僕は同性愛を描いた映画って結構苦手だったりします。例えばペドロ・アルモドバルの『ペイン・アンド・グローリー』。素晴らしい映画であることは認めていますが、男同士の露骨なラブ・シーンがあると、ちょっと本能的に観るのが辛いのです。申し訳ありません。しかしこの映画、主役二人の視線や態度でそれを匂わせていますが、同性愛をことさらに強調することを敢えて避けて、孤独な人間同士の普遍的な愛情として表現しています。だから特に同性愛を意識しないでも観られるし、同性愛という設定に気付かなかったという人も居ると思います。

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特筆すべきは、映像の美しさでしょう。これは僕の偏見なのでしょうが、今まで東南アジアの映画には(トラン・アン・ユンの映画は別として)、映像に泥臭さのようなものを時に感じていたのです。しかし本作では夕焼けのような暖色を中心に使って、南国らしいむっとするような空気感が画面から溢れ出てくるような、洗練された端正な映像が極めて印象的です。

とても真っ直ぐで、良質で、美しい映画だと思います。僕自身の反省も込めて、どうかベトナムの映画だからと言って食わず嫌いをせずに、ぜひ観て頂きたい作品です。

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