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僕の好きなアジア映画10:長江 愛の詩

『長江 愛の詩』
2016年/中国/原題:長江図
監督:ヤン・チャオ(楊超)
出演:チン・ハオ(秦昊)、シン・ジーレイ(辛芷蕾)

なんと幻想的な映画なのだろう。

亡くなった父親が所有していたボロボロの小さな貨物船を譲り受けた主人公は、船内で父親が20年前に遺したと思われる手書きの詩集「長江図」を発見する。彼はその詩集に導かれるように、違法物資を運び、上海から長江を遡るミステリアスな旅に出発する。

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極端に言ってしまうと、この映画の物語はそれが全てで、劇的な展開は存在しない。逆にそこを追いかけようとすると、極めて難解な映画、ということになってしまうかも知れない。本作のヤン・チャオ監督は「この映画はストーリーを追う映画ではなく、観て感じるタイプの作品です。観た人の感性で自由に感じて欲しい。」と述べているそうなので、言われた通りに感覚的に身を任せて観た方が楽しめると思う。

旅の途中、行く先々で主人公はアン・ルーという、謎めいた女性と遭遇し恋に落ちる。その女性は明らかに同じ女性ではあるのだが、その都度別の存在の様でもある。そして長江を遡るにしたがって、その女性は若返っていくようだ。どうやら彼女こそは長江そのもの、ということなのであろうか。長江の悠久の流れを、時空を超えて遡っていく遥かな記憶の旅だ。それは主人公の記憶であり、アン・ルーの記憶でもあり、父の記憶でもあり、人知を超えた長江の歴史でもある。川を遡行する主人公の時間軸は、アン・ルーにとっては逆の時間軸ということなのだろう。

ミステリアスな女性アン・ルーを演じる、シン・ジーレイが儚く、そして美しい。

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幽玄で壮大な長江の風景が息を呑むほど圧倒的で、美しい。撮影は多くのホウ・シャオシェンの映画などで撮影監督を担当したリー・ピンビン。そしてヤン・チャオ監督は、なんと10年に及ぶ製作期間を経て、壮大なる長江を中心にオールロケを敢行して完成させたそうだ。

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長江といえば2009年に完成した三峡ダムの問題がある。巨大なコンクリートの建造物であるこのダムは、長江の美しくも壮大な自然の景観と、遥かなる時の流れや物語を破壊するものとして本作にも登場する。人間の為すことの近視眼的な愚かさは、怪異なダムの映像に自ずと明らかである。監督は政治的な問題としてではなく美の破壊としてこのダムの存在を映し出している。

まるで夢の中にいるような、美しくでもどこかもどかしい、そんな感覚の映画です。

第66回ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞

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