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日記やエッセイを綴る場所

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日常の何でもないできごと、心を震わした瞬間を残したい。そんな想いでつらつらと文章を綴るマガジンです。
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#小説

星と、月と。本当は花火

星と、月と。本当は花火

夕日に染められたぬるい風に、締めつけられたお腹。浅い呼吸が混じる。浴衣を着て、巻いた横の髪を揺して。ちょこんとベンチに座り、イヤフォンを耳にした。

もう駅のホームで、かれこれ30分以上は待っている。それなのになぜか、ホームの時計の針はどんどん進み、次の電車に乗らないといけない、とおもむろに立ち上がった。

何本も電車を見送りながら、

「ごめん!浴衣、着る時間なかった!」

「スマホの充電器持っ

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お前が、そのお前だけが、お前やねん。

お前が、そのお前だけが、お前やねん。

サザエさん症候群とはよく言ったもので、社会人になってから本当に週明けの夜が怖くなった。前職にいた頃は、起きたら会社に行かなきゃ行けないと思うと部屋の電気を消すことも目を瞑ることさえもできず、ポロポロと涙をこぼしてベッドに横たわる日曜の夜が当たり前だった。

「わかる。行っちゃえばいいんだけどね」

そう共感してくれる友達に、それでも「行ける」のだからすごいと、心の底から尊敬する気持ちは今も変わらな

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生きづらさが詰まった小説の中に

生きづらさが詰まった小説の中に

欲しい小説は?と聞かれてパッと答えが出てこなくても、自分の中で欠けてしまった何かを埋めるように本屋に足を運ぶ。ここに来ると、安心するのだ。

隙間なく同じ背の中さに揃えられた文庫本を眺め、ただ歩くだけ。手に取るわけでもなく、そうする。

世の中にはこんなにも物語があるのだと思うと、息をふーっとやわらかく吐くことができる。ああ、大丈夫。生きていける。なぜかそう思えるのだ。

“書く”という行為だけで

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“わたしだけの世界”に出会った瞬間。

“わたしだけの世界”に出会った瞬間。

まだ眠い、朝の電車。窓からは途切れ途切れに太陽の光が差し込むんでいた。キラキラした木漏れ日が眩しい。

“なんとなく”つり革を掴んでスマホを見る色白のひょろりと背が高い男性。どうしてそれを選んだのだろうと悪気なく聞いてみたくなる色と丈のスカートを履く、真っ赤な口紅を塗った女性。初めて見るひとばかりなのに、毎日同じ風景に見えてしまうのはなぜだろう。

キョトンとした顔であたりを見回し、こちらをちらち

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