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「声優なんてただ読むだけなのに!」と言われた私は・・・

事務所にまだ所属していた頃。
どこかのお食事会でお話しした企業の方が、

「この間クライアントから動画にナレーションつけてほしいって話が出て、ナレーションお願いしたらたった1時間の収録なのに2万円もかかってさ~。こっちはプラスでスタジオ費用とかもかかるし。声優なんてただ読むだけなのに何でこんな高いの?」

と仰せに。

じゃあ自分でやってみろよ。と思ったが、いかんいかん私はいい大人だと自分に言い聞かせてグッと堪える。
A4ペラ1枚をさっと来てちょちょっと読んで1時間で帰って行くのが気に食わない、割に合わない、時給2万とかなめてるのか等と言っていて驚愕。

時給2万なわけねーです。

さっと来てちょちょっと読んで1時間で収録が終わるのは、事前に原稿チェックしたり、日ごろから訓練していたり、今までの研鑽の賜物であって!
仮に初見原稿だったとしたら、よりすごい技術なのであって!
なんなら2万のナレーションって!安い方!!!
そもそもそれを、声優である私に面と向かって言うなんてどういうつもりなのか。
かなりピキピキだったけど、私はいい大人。声を荒げたりしない。
でもちゃんと訊いた。ええ、訊きましたとも。

「へ~!じゃあ○○さんはその場で渡されたA4ペラ1枚を、さっと来てちょちょっと読んで1時間で収録終わるんですね!」
「僕には無理だね~w」

無理なんかーーーーい!
オメェ、ブっ飛ばすぞ!?と心の中の悟空が代わりに叫んでくれた。
ありがとう、悟空。

これは技術や芸術に対してお金を払えないというタイプ。
残念なことに日本人にすごく多い。
路上パフォーマーのパフォーマンスを観たのに投げ銭をしない、テーブルマジックをしてもらったチップが小銭・・・というのも遭遇したことが。
そういう感覚が養われていないだけのことだけど、なかなかもやもやする。

実はこれ、技術や芸術に限ったことではない。

ある時、少し年上の友人たちとカフェに行きたいという話になった。
旬のイチゴがたくさんのったケーキが食べたいという話に発展し、食べログで調べた近くのカフェに行くことに。
いざ入店!という時になってお店の外に掲示されていたメニュー看板を見た私以外の人たちが「待って!違う店に行こ!」と言う。
何事かと思えば、「ケーキなのに高い」と。
メニューを見ると、イチゴのナポレオンケーキ2,000円と書かれていた。
確かにケーキワンカット2,000円は高いかもしれない。
でもこのワンカット、両手のひら程のサイズ。
写真で見る限りでも大粒のイチゴが10粒くらい上に並んでおり、間にもこれでもかというほど挟まっている。
イチゴの値段を考えればこのケーキで2,000円は安い。

私は、
「食べログを見て選んだのに値段を見ていなかったの?」
「ケーキなのに2,000円は高いではなく、私の感覚ではケーキに2,000円は出せない、じゃないの?」
「使われている材料や作り手の技術に支払う対価を高いと思うなら、単に身の丈に合っていないというだけではないの?」
と思った。

年齢は関係ないかもしれないけど、私より年上の人でもそういうことを正しく言語化できないことに驚いた。

私だって値段を見て思わず「高い!」と言ってしまうことはある。
そういう時はちゃんと理由を言うようにしている。
今は給料日前だから私には払えない、まだ私がこのレベルに達していない、タイミングの問題、私はここに重きを置いていない・・・など。
理由は何でもいいけど、「高い」と思うものに出会ったら、「自分にとってなぜ高いと思うものなのか」が重要じゃないか。

昨今はフリーランスでも働けるようになった。
それと同時に、相場を知らない人も増えた。
「ただ読むだけ」に対価を払うことに抵抗がある人とはお取引できない。
これは声優に限ったことではないだろうと思う。

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