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図書館の本(2022年12月)

「マリー・アントワネット」(上・下) 

シュテファン・ツヴァイク

「ベルばら」のinspirationとなった本です。

池田理代子先生は高校時代にこの本を読んで、物事を深く考えることが嫌いで浮ついた性格だったマリー・アントワネットが、革命に放り込まれた時から人間として女性としての成長と成熟を遂げ、王妃としての誇りと子供たちを守るために強く賢く思慮深い人物へと変わる過程に感銘を受け、これを漫画にしたいと思ったといいます。

確かに、原作に描き出されているアントワネット像は、「ベルばら」の中のアントワネットの姿や表情と見事にリンクします。

ツヴァイクはこの作品を書くにあたって、残されている資料の何を使うかよりも何を使わないかを熟考し、信用できる資料のみを採用したと述べています。ゆえに、今ではアントワネットの言葉ではないというのが定説の、あまりにも有名なあの言葉、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」が口にされる場面は当然この本には出てこないし、死刑執行人の足を踏んでしまった際に「わざとではありませんのよ」と優雅に謝ったという逸話も出てきません。この姿勢が、この本に出てくる人物像に説得力を与えているのだろう。

しかし、史実に基づいて描かれた実在する登場人物の人生に、架空の人物であるオスカルやアンドレを絡ませ、主人公にして、矛盾を感じさせないストーリーを構築し、50年後も色あせないメッセージを込めた池田理代子先生(しかも当時まだ24歳)、、つくづく偉大過ぎます。

ツヴァイクは、1939年、旧日本軍によるシンガポール陥落の報に接し、自分が愛したヨーロッパ的世界の終焉を感じて、滞在先で妻と共に服毒自殺したました。今、彼のもう一つの代表作である「メアリー・スチュアート」を読み始めていて、まださわりしか読んでいませんが、当時のフランス宮廷の描写には、騎士道精神と教養が等しく尊重されていたことに対するツヴァイクの賞賛の念が感じられます。これらの描写が生き生きとしたものであればあるほど、彼が作品の舞台とした時代から地続きであった「ヨーロッパ的なもの」が永遠に消滅する予感を感じたときの絶望が、窺い知れる気がしてなりません。

「図解で分かる ホモ・サピエンスの秘密」

むかーしむかしに「大地の子エイラ」を読んで以来、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人がともに生存していたという時代に妙に心惹かれ、それに関する記述がある本はつい手に取ってしまうのですが、この本を借りた理由もそこでした。が、一番興味深かったのは、前述のこととも関連する、「ヨーロッパ的な何か」にまつわる考察。

なぜ幸福度調査などにおける日本のランクは低いのか、に対して

「今、私たちの世界は、中世から近世にかけて、ヨーロッパの人々の頭脳で起きた、様々な経済的仕組みで動いています。」

“ヨーロッパ的な経済合理性の社会システムの中で、生身の1人1人の身体が発している「苦の情動」という目に見えない救難信号” が、経済的には成功した非ヨーロッパの人々の低い幸福実感度との“乖離値の大きさに表れている”のではないかとこの本は述べています。

興味深いわぁ、、、


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