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【読書記録】戦後の古書・古典籍業界を舞台にしたミステリーという設定と、戦後の日本で生きるのに必死だった人々の息遣いが感じられるディテールの描き方に引き込まれる導入と展開は秀逸。

、、、という一言(じゃないけど)に尽きるかな。

戦後間もない神保町で古本屋の主、芳松が崩れ落ちてきた大量の本の下敷きになって死亡しているのが発見されます。神保町で働き始めたころから芳松を知っている庄治は、古典籍を専門に扱う古本業者として、戦後の物資不足の中、世に出始めた古典籍をあちらこちらと買い集める忙しい日々を送りながら、芳松の死の謎を解き明かそうと動き始めたところ、GHQが接触してきます、、、

と、こんな感じで物語が始まります。

生活に苦しくなった戦前の名家たちが代々伝わってきた古書や古典籍を手放す中、それらを買い集める戦後の神保町の活気、その中を妻子を食べさせることに苦心しながらも、古典籍への愛着と自分の仕事に対するプライドを持って動き回る庄治。この二つの設定のディテールが非常にしっかり描きこまれていて、物語にリアルな現実感と臨場感を与えているため、最初の数ページで一気に引き込まれ、「これは、間違いなく面白い本だ」と確信しました。

が、、、すべての背後にあった「計画」「策略」が、ちょっとスケール不足というか小粒感が否めないというか、、、それがそんなに重大事なのだと納得させてもらえるだけの書き込みがちょっと足りないように感じました。(←あくまで個人の感想です)

ただ、誰もが知る有名人が、「こんなところでこの人!」という起用のされ方をしており、色々と面白かったです。

一つの時代の一つの業界とそこに生きる人々の生きざまや思いをリアルに知れたという点では、NHKの良質のドキュメンタリーを見たのに匹敵しますね。収穫収穫。

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