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読書メモ|ルポ 誰が国語力を殺すのか|石井 光太

でも今の子は知識の暗記や正論を述べることだけにとらわれて、そこから自分の言葉で考える、想像する、表現するといったことが苦手なので、国語に限らず、他の教科から日常生活までいろんな誤解が生じ、生きづらさが生まれたり、トラブルになったりしてしまうのです。言って仕舞えば、子供たちの中で言葉が失われている状態なのです。

序章 P18

本校(「課題集中校」の1つ。「課題集中校」とは偏差値40台前半以下の普通科の学校「底辺校」「教育困難校」などと呼ばれている)は以前から学力レベルが低く、昔も今もいろんな問題が起きます(中略)昔はヤンキーの生徒が多くて、起こす問題もケンカ、喫煙、窃盗などわかりやすいものが大部分で、彼らも彼らで自分が悪いことをしたと自覚していました。でも、20年くらい前から、それがだんだんと変わってきました。わかりやすいヤンキーが減ったのもありますが、生徒たちがトラブルを起こしても、それを悪いことだと理解できないケースが増えたのです

第一章 誰が殺されているのか 格差と国語力 P46

欧米では子供の生活環境がとても重要視されていて、法律によってそれを保障しようという意識が日本より高いのです。(中略)子育てに優しい国として知られてているフィンランドでこれを担っているのが「ネウボラ」という子育て支援制度だ。1944年に法制化されたもので、利用率はほぼ100%といわれている。
この制度では親の妊娠が分かった時期から小学校入学まで、一家族に一人の保健師が担当について、妊娠、出産、子育てに関するアドバイスを一貫して行う。原則として担当者は変わらないので助言がブレることはないし、家族の変化にも対応できる。(中略)日本には、子育ては親がそれぞれの考え方ですることであり、成功も失敗も親の責任という風潮があります。一方欧米には子供は国の宝物なのだから、社会全体で育てていこうという空気があります。

 第一章 誰が殺されているのか 格差と国語力 P66

有名な教育者の樋口祐一も『「頭がいい」の正体は読解力』のなかで、新聞記事や教科書をほぼ誤読なく読めるのは、難関校の大学生(MARCHや関関同立)以上だと述べている。ただし、新聞記事や教科書に書かれているのはあくまで日常的かつ基本的な文章であり、それとて誤読しないのは全員ではなく「ほぼ」なのである(中略)うちの学校は毎年有名大学へ生徒を送り込んでいますが、将来のことを考えるとすごく心配です。英検1級を取っている子が日本語では800字の読書感想文さえ書けないとか、本を1冊読み切ったことがないとかいう状態なんです

第二章 誰が殺したのか 教育崩壊 P101

教員の能力に差があるのに学年全体で物事を進めていかなければならないので、有能な教員一人にあらゆる仕事が集中しがちです。そのため、無能な人ほど時間が余っているのに何もせず、有能な人ほどたくさんのことを背負わされて本来やりたいと思っていることができなくなってしまう。でも給与体系は年功序列なので、有能な人も無能な人も同じ。これじゃ、まじめにやっているのがバカバカしくなります

第二章 誰が殺したのか 教育崩壊 P106

不登校になった子供達の半数近くが「無気力・不安」が原因だとしている(中略)不登校になったきっかけは答えられても、根本的な原因を自分でも把握できてないケースが多い(中略)「彼らは『生きる』というところで精一杯なんです。その日、その時をなんとか生きているだけで、広い視点で物事を考える余裕がない。だから、周りが『これからどうするつもりなのか』とか『将来どうするのか』と訊いても、そこまで先のことを考えて答えることができないのです。(中略)周りがきちんと子供達の言葉に耳を傾けてこなかったことも影響しているかもしれません。子供の発言や行為が取るに足らないことのようにされる。そういう積み重ねの中で、彼らは語ろうとしなくなったり、語っても聞いてもらえないという意識が生まれたりしているのではないでしょうか」こうした状況に陥った子供たちが、自力で言葉を取り戻すのは簡単なことではない

第四章 19万人の不登校児を救え フリースクールでの再生 教育崩壊 P163-4

「2-30年前に比べると、ゲームの負の側面が語られることが少なくなっているように感じています。ほとんどの子供がゲーム機を持っていますし、親の娯楽にもなっているので、別にいいんじゃないかという雰囲気がある。でも、医者としての立場でいえば、昔より今のゲームのあり方の方が深刻だと思っています。というのもゲームそのものが、かつてのゲームと比べて依存症になりやすいものになっているのです。終わりがないのでエンドレスに続けられるとか、プレーヤーの神経を興奮させるような仕組みが豊富にあるとかです。ゲームを始めた時は無料でも、課金によってレベルを上げていける仕組みなど、トラブルを起こす要因もたくさん仕込まれている。そうした中で子供たちが自分でも気がつかないうちに脳にダメージを受けたり、いろんな能力を失っていったりしています。」(中略)世界のゲーム市場が20兆円にまで膨らんだ現在、ゲーム業界がユーザーを取り込もうとして繰り広げる手法はかつてないほど巧妙化している

第五章 ゲーム世界から子供を奪還する ネット依存からの脱却 P214

これだけ簡単に開始できるゲームにも関わらず、近年の研究で特に子供の脳にさまざまな悪影響を与えることが明らかになっている。大人より子供に有害だと言われるのは、脳が発達途上である上に、理性をつかさどる前頭葉の働きが弱いので大人に比べて依存症になりやすいからだ
ゲーム依存治療の第一人者である樋口進によれば、脳への悪影響としては次のようなことがあるという
◆前頭前野の機能低下 衝動のコントロールが効かなくなる、(感情や記憶)、(距離や顔の認知)、(色、単語、数字)の各部位の機能低下も現れる
◆きっかけへの過剰反応
◆報酬欠乏症 線条帯ののドーパミン受容体(多幸感、意欲、運動機能)の数が少なくなる。つまり、激しい刺激に慣れて快楽を感じなくなる、頻繁にさらなる刺激を求めるようになる
◆脳細胞の破壊 理性的な行動をとることが難しくなる

 第五章 ゲーム世界から子供を奪還する ネット依存からの脱却 P216

マスクを着用した生活一つとっても、表情を見分けられないことによる脳の認知能力の低下が指摘されている。米ブラウン大学の調査研究によれば、コロナ禍前に生まれた3ヶ月から3歳の幼児の平均IQは100程度だったが、コロナ禍で生まれた幼児の平均IQは78程度まで下がっているという

 終章 P320

「今の日本の社会には、格差の中で恵まれない立場にある人たちが十分な教育を受けられないまま若い年齢で社会に出る構図があります。こうした人たちは高いコミュニケーション能力が必要な『感情労働』に従事することが多いように思います。現在の状況を正確に把握し、自分を抑制して、その場に応じて正しい行動をする仕事です。特に、日本の感情労働は他の国と比べても非常に高い能力が求められます。(中略)海外の人が驚くようなところまでやらなければ、サービスとして認められません。だとしたら、弱い子供ほど社会に出て自立するのが難しいということになるのではないでしょうか。(中略)感情労働とは、労働者が感情をうまく抑制して働くことが求められる職業のことだ、具体的には、ヘルパー、コールセンター、飲食サービス業、美容師、ホテルスタッフ、保健営業員、保育士、観光案内といった職業である。彼らは仕事の中で理不尽な状況になっても自分をコントロールして、物事に対処していかなければならない。客からの無理な要求を笑顔で応じてこなす、激しいクレームを受けても紳士的に対応する、(中略)つまり、相手の立場に立ち、状況を読み取り、自分を抑制しながら働く能力が必要なのだ。日本では、こういう職業が低学歴の人たちによって担われているという現実がある。

終章 P323


「対話」って大切なのだと、改めて思いました。
この本とあわせて「生まれが9割の世界をどう生きるか 遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋 (SB新書)安藤寿康 (著)」を読むと、親にできることがクリアになるので良いと思いました。

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