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【特集】第26回参院選(2022年)日本維新の会――みんなそれを過剰に大きなものだと思い込んだ

 日本維新の会は第49回衆院選(2021年)と第26回参院選(2022年)で議席を増やしました。支持率も以前と比べて大幅に伸びており、一時は結党以来最高になったと言われていたほどです。こうした状況をうけて、立憲民主党などの他の野党のなかからも、日本維新の会への支持の高まりに注目すべきであるといった声が相次いで上がりました。そこで、この記事では維新の実力を、時間的に、また地域的に、できるだけ正確に評価して、現状認識の一助とすることを目指します。

 まずは2013年1月から現在にいたる維新の支持率を見てみましょう。

図.1.全国世論調査による日本維新の会の支持率

 世論調査は様々な新聞社、通信社、テレビ局によって行われており、それぞれ微妙に異なる支持率が発表されています。そこで各社の偏りを補正したのちに加重移動平均をとり、解像度を高めたものを図1に示しました。

 維新はもともと2009年4月25日に大阪府議会でつくられた自由民主党・維新の会にルーツをもち、国政政党である日本維新の会(旧)は民主党政権末期にあたる2012年9月28日に結成されています。次世代の党の分離(2014年8月1日)や結いの党との合流(2014年9月21日)をへて維新の党が発足し、後に分裂したおおさか維新の会が2016年8月23日から改めて日本維新の会を名乗るといった紆余曲折がありますが、ここでは一つながりのグラフを描いています。

 なお、現時点では2012年以前の政党支持率を正確に計算できていないため、日本維新の会(旧)が発足した直後の第46回衆院選(2012年)は図1には含まれていません。そうした事情はあるものの、確かにここ一年半の維新の支持率が、それ以前と比べて段違いに高くなっていることは明らかです。

 図1には衆参の選挙と統一地方選挙の時期を書き入れましたが、そのタイミングで支持率が伸びているのは選挙ブーストです。

選挙ブースト
 
定義は「国政選挙の公示から投開票に前後して政党支持率が急上昇する現象」です。これは、普段は無党派層である人たちが、選挙運動や報道をうけて各党の支持へと分解していくことを意味しています。ですから各党の選挙ブーストの大きさを合わせると、同期間の無党派層の減少幅に等しくなります。この現象は国政選挙では普遍的に見られますが、地方選挙ではほとんど見られません。

 維新は他の政党と比べて非常に鋭利な選挙ブーストを持っています。政党の持つポピュリズム的な性格や、熱しやすく冷めやすい支持者が、そうした特徴を与えているのでしょう。また、一般的に選挙ブーストは地方選挙では見られないものですが、維新に関しては例外です。これには統一地方選挙が地盤の大阪で四重選挙(府知事選、市長選、府議選、市議選)となっている影響がありそうです。


得票数との乖離

 ところで、政党の勢いを表すのには得票数という指標も存在します。政党支持率が単に世論調査で「支持する」と答えた人の割合であるのに対し、得票数は実際に票を入れた人の数のことですから、後者のほうが効力のある指標だといえるでしょう。その推移を図2に示しました。

図2.日本維新の会の得票数


 また図3には絶対得票率の推移を示しました。絶対得票率という言葉には慣れない人もいるかと思いますが、得票数とほとんど同じ形のグラフを描く指標であることを確認していただければ十分です。

図3.日本維新の会の絶対得票率

相対得票率と絶対得票率
 投じられた有効票のうち、特定の勢力が獲得した割合を「相対得票率」といいます。他方で、棄権者も含めた全有権者のうち、特定の勢力が獲得した割合が「絶対得票率」です。マスコミなどで断りなく「得票率」というときは相対得票率を指しています。相対的な票の量で当落が決まるため議席を論じる際には相対得票率が適しますが、同じ相対得票率でも投票率に差があれば得票数が異なってしまう欠点があります。前回選挙との比較など、時系的な検討には、投票率の変化に左右されない絶対得票率が適します。

 図1から図3は同じ期間のグラフですが、図1の支持率が第49回衆院選(2021年)で最も高くなっているのに対し、図2の得票数や図3の絶対得票率はそうなっていません。支持率が最高水準であるのにもかかわらず、なぜ獲得した票がそれに応じていないのでしょうか。たとえば第46回衆院選(2012年)や第47回衆院選(2014年)と比べて少ないのはなぜでしょうか。大きな疑問が浮かび上がるのです。

 そこで図1と図3から新たに次の表をつくりました。これは図1から投票日当日の支持率の平均を抜き出して、図3の絶対得票率と比較したものです。

表1.日本維新の会の投票日当日の支持率の平均と、選挙結果の絶対得票率

 第24回参院選(2016年)のおおさか維新の会までは、絶対得票率が支持率の平均を1ポイント以上上回っているものの、現在につながる日本維新の会が臨んだ第48回衆院選(2017年)では両者の差は1ポイント未満に縮まっており、第49回衆院選(2021年)では絶対得票率が下回るという逆転が起きています。

 絶対得票率を基準とするならば、これは以前の支持率が維新を過小評価していたことを意味します。また、現在の支持率は維新をやや過大評価しているといえそうです。


乖離はなぜ起きたか

 なぜそのような乖離が生じてしまったのでしょうか。なにか維新の支持層の性質が変化したのでしょうか。あるいは維新をとりあげるマスコミの姿勢が変化して、実際の選挙の実力以上に維新が大きく描き出されるようになったのでしょうか。これは難しい問いですが、一つの可能性として、世論調査の手法の変化が影響したことが挙げられるかもしれません。

 もともと2001年4月に朝日新聞がRDD(Random Digit Dialing)を導入して以来、世論調査は固定電話にかける方法が主流でした。しかし携帯電話が普及するにつれて、それでは多くの有権者を置き去りにしてしまうという声が上がるようになってきます。そこで読売新聞が先んじて携帯電話にも対象を拡大し、これに日経新聞や朝日新聞、NHKなどの各社が続きました。こうした転換が始まった時期が2016年だったのです。

 もちろん携帯電話への調査の拡大は慎重な検討のものとでなされました。また、当時は固定電話と携帯電話で得られる回答には大差がないという見解が主流でした(ただし共産党の支持率が携帯電話で低く出るということは2015年に報告されています)。しかし最近の政党支持率は現に固定と携帯で大きな差があるものも見られるようになっており、この点はあらためて検証が必要となるかもしれません。特に、固定電話ばかり使う世代と、携帯電話が主流の世代のどちらかに支持者が偏る政党は注意が必要となるでしょう。

 以下に示すのは最新の国政選挙である第26回参院選(2022年)の出口調査ですが、①高齢者層にかけて支持率が高くなるタイプ(立憲・共産)、②現役の労働者世代に膨らみを持つタイプ(維新)、③若年層にかけて支持率が高くなるタイプ(国民・れいわ・参政・NHK党)があることがわかります。①は固定電話で十分に捉えられますが、②や③は携帯電話のほうがうまく捉えられる傾向を持っています。

図4.第26回参院選NNN全国出口調査 比例代表の投票先(年代別)20%未満
(自民党は20%を超えているのでグラフの範囲にありません。出典をご確認ください)

 ③にあたる国民、れいわ、参政、NHK党は、いずれも携帯電話が対象に含められた後に結成された政党であるため、時系列で検討するうえでの問題は起こりません。しかし維新は時期をまたぐため、長期的な検討をする際は注意を要する可能性があるわけです。


選挙の実力を評価する「実効支持率」

 携帯電話と固定電話に関しては、世論調査の分野ではややデリケートな話にあたることもあり、現時点では支持率と絶対得票率の関係が変化した主因だと断定できるわけではありません。けれどいずれにせよ、支持率と絶対得票率の対応関係が変化したことは事実であり、それは問題であるはずです。

 しかしよく考えてみるならば、同じ支持率とは言えど、かつての支持は地域に根差し、労働組合などの組織とも結びついた固いものでした。それに対して現在は、人々の気分や期待に依存する弱い支持が多くなっています。時代が変化していけば、世論調査の手法以前に、支持率の意味そのものが変化することは避けられないというわけです。

 そこで、そうした変化の影響しない指標を考えてみることにしましょう。たとえば選挙の時に得た得票数は、時代によらない指標となるはずです。しかし有権者数が増減すれば、同じ100万票であったとしてもそれが持つ効力は異なります。そこで得票数を有権者数で割ったもの――つまり絶対得票率をそのような指標として使うことを考えます。全国の絶対得票率は数年に一度の衆院選や参院選のタイミングでしか明らかになりませんが、絶対得票率と整合するように政党支持率を補正すれば、日々の政党の勢力を同様に評価する指標になるはずです。そのような指標を、これからは実効支持率と呼ぶことにしましょう。

 実効支持率を求める最も簡単な方法は、表1より、投票日当日の支持率の平均を説明変数、選挙結果の絶対得票率を目的変数として回帰分析をすることです。データの数が少ない点は、党史の長さや、国政選挙が頻繁に行われないという事情によるため、当面は目をつぶることにします。まずは表1の第48回衆院選(2017年)以降の、日本維新の会について補正した結果を以下の図の黄緑の線で示しました。実際に得た絶対得票率も赤丸で表示してあります。

図5.日本維新の会の実効支持率(2017年10月22日から現在まで)

 ここで、まず第48回衆院選(2017年)以降のデータを用いたのは、世論調査が携帯電話に拡大した後の時期であることと、この維新が現在に直結する「日本維新の会」であるためです。

 図5では、この結果をおおさか維新の会以前にまで延長したものを灰色の線で示しました。このようにすると、それ以前の国政選挙の絶対得票率がいずれも上に外れることが明らかです(つまり当時は当時で、支持率と絶対得票率の間に異なった対応関係が存在しているというわけです)。

 なお、図5では第49回衆院選(2021年)の絶対得票率が合っていないように見えますが、拡大すると実効支持率の曲線に乗っています。

図6.日本維新の会の実効支持率(2021年9月1日からの1年間を拡大)

 これとは別に第24回参院選(2016年)以前も計算を行い、その後に図5と統合したものが次に示す図7です。

図7.日本維新の会の実効支持率(2013年1月1日から現在まで)
なお実効支持率については改良の途上にあり、結果は今後わずかに修正される可能性があります。
また今後の衆院選や参院選の結果を反映して、係数は再計算されます。

 これは選挙における維新の実力をもっともよく表すように補正を行ったグラフです。たしかに今の維新は強いかもしれません。けれどその強さは適切に評価される必要があります。図1と図7を見比べたとき、かなり印象が異なると感じる方も多いのではないでしょうか。

 ここからは維新について、歴史と地域の両面から様々な検討を行っていきますが、そこでの議論のポイントは「等身大の維新の評価」ともいうべき点においています。それというのも、今は多くの人が維新を過剰に大きなもののように評価しているきらいがあるからです。野党第一党である立憲の議員も決して例外ではありません。

 もちろん先の参院選のとき、維新は比例票で立憲を超えたわけですから、大きく見えるのもうなづけます。しかしそれはどこまで本当なのでしょうか。たとえば次期衆院選を考えるうえで今の維新の実力はいかほどなのでしょうか。――そういったことを、いちど詳細なデータをもとに一緒に考えてみませんか。

 この記事には2012年の(旧)日本維新の会の結党以来に行われた全ての衆院選と参院選について、市区町村別の絶対得票率の地図を収録しています。また近年の維新票の増減や、立憲と維新の票差の推移も詳細な地図を用いて示しました。記事の最後では、新型コロナへの対応で維新の支持率が伸びたことを、野党の支持拡大といった観点から改めて議論します。ぜひお読みください。

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