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【特集】第26回参院選(2022年)公明党――組織票の実像に迫る

 公明党の票が減少傾向にあることは過去に幾度か取り上げてきましたが、はじめにもういちど確認しておきます。参院選の選挙区と比例代表のそれぞれについて全国で集計した得票数を図1に示しました。

図1. 公明党 得票数の推移(参院選・全国集計)

 党勢をより良く反映するのは、赤色で示した比例代表の側です。選挙区の票は候補者の擁立状況によりますが、公明党は現在、全ての一人区と二人区で独自の候補の擁立を控えて自民党に協力しているため、全国の票を集計しても不完全な結果しか得られません。対して比例代表は全国が一区とされており、各党が日本の隅々まで票を拡大しようとするので党勢のバロメータとみなすことができます。

 昨年の参院選では、公明党はその比例票を618万票まで減らしました。これは2000年以降ではじめての水準にあたります。


「票重心」の東進

 公明党の票の減り方には、何か独特の傾向はみられるのでしょうか。それを明らかにするために「票重心」という概念を取り入れることにします。

 まず物理的な重心ですが、これは物体を載せたシーソーが釣り合う点にほかなりません。重心は質量の大きい物体が乗っている側に偏ります。

 ここで、地理学には人口重心という概念があります。これは全ての人が同じ体重をもつと考えた場合にシーソーが釣り合う点にあたります。すなわち人口重心は、人口の多い側に偏ります。

 この考え方を拡張して、「特定の党に投票した人」について求めた重心を「票重心」と呼ぶことにしましょう。

 2010年から2020年までの日本の人口重心(青)と、2013年から2022年までの公明党の票重心(赤)の計算結果を下の図2に示しました。国政調査は5年ごと、参院選は3年ごとに行われるため、時期がきちんと重ならないものの、これがおおむね最近10年の状況です。

図2. 日本の人口重心(青)と公明党の票重心(赤)

 日本の人口重心は岐阜県の関市にあり、2010年から2020年までの10年間で南東方向に3.7km移動しています。対して公明党の票重心は、2013年から2022年までの9年間で東に13.9km動きました。公明党の票重心が人口重心よりも西側にあるのは、この党に西日本で強く、東日本で弱い傾向があることのあらわれです。

 もっとも、このように集計したところで、票重心の移動距離は小さいと感じられる方も少なくないかもしれません。しかしここでは、人口重心との位置関係が重要となります。

 もしも票重心が人口重心と重なるならば、その政党は総じて東西・南北の偏りを持たないことが示唆されます。公明党の票重心が人口重心に接近したことは、西高東低の傾向が埋没し、全国的に均質化に向かう形で、票の減少が起きていることを意味しているわけです。


<人口重心と票重心の正確な定義>

 念のために正確な定義を記載します。この部分は検証する方に向けた記述なので、飛ばしていただいても構いません。

 人口重心の定義は以下の通りです。

 ここで、基本単位区とは、市区町村やどこの町の何丁目といった区割りを指しています。総和は求めたい地域全体について行います(この記事では日本全域です)。基本単位区を細かくするほど精度は上がりますが、そのぶん計算が大がかりになります。

 票重心の定義は以下の通りです。

 この記事では、公明党の票重心を計算して人口重心と比べましたが、厳密には人口重心ではなく「有権者重心」を計算して、票重心と比較するべきです。ここでは人口重心と有権者重心は十分に近いという仮定をおいています。



西側の地盤沈下

 票重心の検討からは、かつて強かった西日本の地盤で弱体化が起きたことが示唆されました。

 実際に第23回参院選(2013年)と第26回参院選(2022年)について、公明党の絶対得票率の分布を比較してみましょう。

図3. 第23回参院選(2013年)比例代表・公明党絶対得票率


図4. 第26回参院選(2022年)比例代表・公明党絶対得票率

 図3と図4を比べると、この10年間で全国的な沈下がみられるものの、とりわけそれは西日本で強烈であることがうかがえます。

 自公協力のもと、これまで公明党は参院選の一人区や衆院選の小選挙区で自民党の候補に票を集中してきました。西日本の公明党の地盤は、小選挙区では自民党の鉄壁の地盤と化して、野党の進出をガードしてきました。しかし今、そのガードは緩みつつあり、野党の闘い方によってはパンチが入る条件が作られつつあります。野党としては、東日本をおさえたうえで、西日本にも果敢に踏み込んでいくという姿勢が必要となるはずです。

 また最近では、内閣支持率や自民党の支持率が低下傾向となっています。ですから明確な対立軸を描くことによって政権批判層の支持をとりこむことが一層有効となるはずです。岸田政権や自民党に対する失望を、新たな希望へと転化することが必要です。対立軸の形成がとりわけ有効に働くのが、与党か野党の一人だけを選ぶことを突きつける小選挙区制なのですから、まず制度的な利得を受ける野党第一党の立憲民主党に、その最大の責任があると言わなければなりません。

 そうした視野を持って候補者を立て、一発が入りうるという十分な展望を見出すのであれば、どのような姿勢で政権と対峙し、また人々と向き合い、何を訴えかけるかということも変わってくるのではないかと思います。


 以上が前半部分でまず指摘することです。後半ではもう一点、議論を行います。それは、公明党の個人票と政党票の比率が大きく変化しているということです。

表1. 参院選における公明党の個人票と政党票の内訳

 参院選の比例代表では、政党名か候補者の個人名のどちらか一方を投票用紙に書くことができます。政党名が書かれた票を「政党票」、候補者の個人名が書かれた票を「個人票」と呼ぶことにすると、議席はその合計によって決められます。したがって特に断らずに各党の比例票について言うときはこの合計を指すのが一般で、ここまでの議論の得票数の推移や票重心、地域分布などでもそのようにしてきました。しかし個人票と政党票を別々に検討すると、また異なるものが浮かび上がってくるのです。

 直近の9年間でも、第23回参院選(2013年)から第26回参院選(2022年)にかけて、合計は757万票から618万票へ2割弱の減少なのに対して、個人票は423万票から213万票とほぼ半減となっています。これはどういったことを意味しているのでしょうか? 公明党の票の統制力が落ちているのでしょうか? そうしたことを票割りなどをまじえて論じます。また、第26回参院選(2022年)の比例代表で公明党が擁立した17人の候補者の票の分布を地図として収録しています。

 みちしるべでは現在、各政党の選挙分析をとりあげていますが、個別の選挙や政党に限る話が内容の全てではありません。それらを通じて、今の社会はどのように見えるのかといった全体像の把握、何をすれば変わるのかといった展望を描くことを目指します。ぜひ各政党の記事を読んでみてください。

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