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【小説】蜘蛛の蜘蛛


        序

 今日も、巣を張ろうとして巣にかかった蜘蛛を食らう―。

「次〜、八太郎君」
 七月一〇日、水曜日。セミが鳴く木が窓のすぐ外にある教室。濃い青色の空には夏らしいくっきりとした雲がかかり、熱気をひけらかす風と大地を睨みながら八太郎は立ち上がった。

「また半分」
 八太郎は返ってきたテストの答案を見て、小さく呟いた。
 昔から同じ事だ。物心ついたときから、普通。普通でないことを誇りに思う兄とは正反対。何をしても普通。中庸。凡庸。

 下がりも上がりもしない。

 取り柄も欠点もない。

 ただ、無害。

 ただ、無益。

        丁

「八太郎なんぼやった〜?」
 ほうかになって早々、斜め後ろの席の猪高が絡んできた。
「半分」
「えっ、すご!俺三五やわ〜。あっ、そーいや八太郎、進路希望どした?」
 進路希望。高校二年の夏、HRは進路の話題やキャリア学習で持ちきりになっている。
「お前は」
「え?」
「お前はなんて書いたんだよ」
「ああ。第一が大学で第二はもう就職にした」
「就職?」
「おう。昔から運送やりたかってん。地元やし、西濃運輸にしといた」
 西濃運輸といえば、青と黄色のトラックが特徴的な"カンガルー便"の会社だ。

「何かの手違いで推薦取れたら大学行って、無理ならカンガルー」
「へえ」
 八太郎は興味なさそうに返す。
「俺は言ったぞ」
「は?」
「おめぇの番や。なんて書いたん?W=J÷s?」
「それ物理」

 八太郎は息を吸った。
「白川公園の周辺に写真のスクールがいくつかあるから、バイトしながら通えないか考え中」
「写真スクールって、写真家ってこと?」
 頷く八太郎。
「え!かっけぇ!!」
 猪高がやたら騒ぎ始めて鬱陶しいので、八太郎は席をたった。
「どこいくん」
「トイレ」

「猪高、あいつとなに話してんの」
 猪高が答案を机に突っ込み、スマホを開いた刹那、横で盛り上がっていた由美が入ってきた。
「なにって、テストやけど」
「いや、そうじゃなくて」
「え?」
「いや、まだわかんない?」
「なにが」
「八太郎と話してほしくないの」
 由美はなんとも言えない表情で言う。

「えっ、えーっ、えーっ!!」
「な、なに?!」
「もしかしてそういうこと?!お前ら、付き合ってんの?!」
「誰がヤキモチやねん」
 かぶせて由美が反論。
「関西弁上手ない?」
「あんたのせいやろがい、うっとここない訛っとれせんわほんま……怒るでしかし」
「関西やん」
 "うっとこ"は上級者やん。

「……なんにしても、もう話さんといてくれる?」
「なんでぇ」
「なんでって……だってキモいじゃん、あいつ」
「キモい?」
「なんか、いつも無表情やし、なんていうか、誰とも群れない感じ?俺はお前らとは違うーってアピールなんか知らないけど」
「そんなことないと思うけどな」
「夢のことなんか話してらんないよ。あんたももっと現実的に考えなきゃ」
「不景気っていうしな」
「……私ら世代ってさ」
「……?」
「生まれてからずーっと不景気なんだよね」
「……たしかに」
「だからかなぁ、なんか、嫌だわ。八太郎のことも、進路のことも」
「……」
「まあわかんなくていいわ。でもこの先八太郎と話し続けんなら」
 由美は席に戻りながら続ける。
「咲ともう話させないからね」
 猪高は言葉を失う。

 咲と話せなくなるのはしんどい。
 
 翌日。
 猪高は一日中八太郎の観察をしていた。

 確かに、無表情で無駄がない。高校生なんて無駄し放題なのに、ほうか中も行き帰りも一切無駄がない。お菓子も買わない、昼は屋上で孤食、授業はただ真面目に受けるのみで完全に陰側の人間。

 でもだからこそ、由美がキモいと避ける理由がわからない。

「なに?」
 昼休み。八太郎が前を向いた儘強く言った。
「なに。猪高」
 そのまま振り返る。勿論そこにいるのは猪高。
「いや……ごめん。ちょっと気になってさ。八太郎が何考えてるのか」
「俺が何?」
「ああ……いや、ごめん。コソコソつけたりして」
「俺が何してるか気になるんだ」
「おう……だってそうだろ、八太郎いっつも無表情っていうか、あんまり自分のこと教えてくれないしさ。でもなんとなくわかった気がするんだ、俺、写真家もかっこいいと思うけど、写真家になりたいって胸張って言えるのすげえって思うんだ!……ああ何いってんだろ俺、だけどさ、なんかお前凄くかっけぇ大人になれそうだよな
「俺は」
 
 八太郎が強く低く言って、猪高は硬直する。

「大人になんかなりたくないよ」

 八太郎は薄笑いで続けた。

「いや、既にもうなりたくない存在なのかもね。俺は俺でいたくなかった」
「どういう……」
「ねぇ」
「……?」
「寝る時間って、もったいないと思わない?」
「は?」
「食べる時間も、トイレの時間も、そういう時間。もったいないって思わない?」
「……思わない」
「そっか。だけど俺は、夢のことなんか話してらんない。それが恥ずかしいうちは」
「……」
「……まあ、じゃあ俺帰るから」
「は?!」
「今日、もともと早退なの」

 八太郎はすぐに無表情に戻って帰っていった。

「喋った?」
 それから二単位授業を終えて、教室の掃除を始めた頃。担任が消えたのをいいことに、また由美が話しかけてきた。
「八太郎と、喋ったでしょ」
「だから?」
「嘘ついても無駄。あいつの服についてる柔軟剤のキツイ匂いがプンプンする。ああ、気持ち悪い」
 由美は大げさに身震いしてみせた。
「なんでだよ」
「え?」
「なんで、あいつが気持ち悪いと思うの」
 猪高は問う。

「はっ!あんたにとって咲ってそんなもんなんだ、咲よりあいつのほうが大事なんだね
「答えろよ!」

「なんで咲を出すんだよ。卑怯だよ。そんな、脅しみたいなことしてさ」
「……わかってない、わかってないわ!なんにもね!」
 由美は高笑いし始める。
「そうでもしなきゃ、人は操れない。卑怯にならなきゃ生き抜けないでしょ?そういう世界にしたのは誰?あんたでしょ?あんたが馬鹿みたいにピュアだから操らなきゃいけなくなるんでしょ?!ああ、もう、なんなの……」
 由美はほうきを乱雑に片付ける。
 
「由美ちゃん?」
 するとその時、扉の向こうから同じクラスの咲が現れた。
「大きな声が聞こえたけど……なにかあった?」
 由美は焦ったように訂正する。
「ううん、そんなことないよ」
「そう……ならいいのだけれど……あっ」
 そこで咲が猪高の存在に気づく。
 猪高は会釈で済まそうとしたが、咲はその気はないらしく、ぐんぐん近づいてくる。

「私の目、見える?」
「え?」
「目」
「……見える」
「どう見える?」
「……普通」
「普通?」
「……色が薄いんだね」
「そうだね」
「……で、それが何?」
「薄茶に、見えるんだ?」
「は?」
 咲が目を見開く。
「ほんとうに?」
「ほんとだよ」
「……寝不足」
「え?」
「猪高くん、疲れてるでしょ。ちゃんと寝なよ!」

 咲はそのまま由美とともに去っていく。

 ひとり、妙に爽やかな風が吹き込む教室に取り残された猪高は、ほうきを片付けて黒板を消し始めた。

 帰路につき、少しモヤモヤした気持ちを抱えながら歩く。
 八太郎は大人になんかなりたくないと言った。猪高は少なくとも大人になってみたい。
 由美は八太郎を気持ち悪いと言った。猪高はそうは思わない。
 咲は自分の目は見えるかと言った。猪高はその質問の意図を読み取れない。
 この夏は情報過多だ。一体どこからこんなことになったのか。大きく壊れたわけじゃないのに、どこか知らぬ間に血を抜かれているような恐怖と焦燥がこだましている。

「は〜いもう始めるよ、座って!」
 翌朝。一限から古文はなかなかにヘビーである。
 教室に、生徒が四〇人。同じ空間にこれだけの人がいるのに、みんなひとり。
 そこに繋がりなんてない。

五月待つ 花たちばなの香をかげば
昔の人の 袖の香ぞする

 教科書通りに読み上げる。
 よみ人しらず。
 この歌もまた、ひとり。

 みんな、みーんなひとり。
 青い春にかぶさる夏の、その真ん中に独りぼっち。

 聞いて。

 聞けよ。

 だれか。

 だれだ?

 ただ、真面目に。

 ただ、普通に。

「猪高君?!どうしたの?!」
 突然、女教師が叫んだ。
 猪高は顔を上げる。
「突然何を言い出すの?!どこか……なに?」
 教師が狼狽する。

 頬。
 猪高の頬に、小さな蜘蛛が止まっている。
 それを手で取り、窓の外に放る。
 そのまま、すぐ下にあった大きな蜘蛛の巣にかかる。

 ずっとひとりだった。

 そう、ずっと―。

        半

 朝起きて、時計を見ると、少し遅い。
 身体を起こし、パジャマを着替えた八太郎は階下へくだった。

「おはよう八太郎」
「おはよう」
 父の平治が新聞から一瞬目をそらして挨拶する。
 八太郎は朝食をいただいてから、皿を流しに起き、窓ぎわにおいてある爬虫類用のケージに向かった。
 
「おはよう、シロッコ」
 シロッコは、母が飼い始めた蜘蛛だ。種類はアシダカグモで、名前の由来は母のマイカー。車にある日突然現れたというのがこいつ。
 シロッコの水を替え、ケージを締めて洗面所に向かう。顔を洗い、歯を磨き、制服に着替え、トイレを済ませて鞄を背負う。
 初夏の爽やかさも失せ、蒸し暑い梅雨明けの日差しを浴びる。自転車を出そうとしたとき、カゴに蜘蛛の巣が張っていることに気づいた。

 八太郎は自転車を諦めて徒歩で駅まで向かうことにする。別に蜘蛛の巣が怖いわけじゃない。でも、壊すのは気が引けた。

「次〜、八太郎君」 
 七月一〇日、水曜日。セミが鳴く木が窓のすぐ外にある教室。濃い青色の空には夏らしいくっきりとした雲がかかり、熱気をひけらかす風と大地を睨みながら八太郎は立ち上がった。

「また半分」 
 八太郎は返ってきたテストの答案を見て、小さく呟いた。 
 昔から同じ事だ。物心ついたときから、普通。普通でないことを誇りに思う兄とは正反対。

 何をしても普通。
 中庸。
 凡庸。
 下がりも上がりもしない。
 取り柄も欠点もない。
 ただ、無害。

 ただ、無益。

「八太郎なんぼやった〜?」 
 ほうかになって早々、斜め後ろの席の猪高が絡んできた。
「半分」
「えっ、すご!俺三五やわ〜。あっ、そーいや八太郎、進路希望どした?」 
 進路希望。高校二年の夏、HRは進路の話題やキャリア学習で持ちきりになっている。
「お前は」
「え?」
「お前はなんて書いたんだよ」
「ああ。第一が大学で第二はもう就職にした」
「就職?」
「おう。昔から運送やりたかってん。地元やし、西濃運輸にしといた」 
 西濃運輸といえば、青と黄色のトラックが特徴的な"カンガルー便"の会社だ。

「何かの手違いで推薦取れたら大学行って、無理ならカンガルー」
「へえ」 
八太郎は興味なさそうに返す。
「俺は言ったぞ」
「は?」
「おめぇの番や。なんて書いたん?W=J÷s?」
「それ物理」

 八太郎は息を吸った。
「白川公園の周辺に写真のスクールがいくつかあるから、バイトしながら通えないか考え中」
「写真スクールって、写真家ってこと?」 
 頷く八太郎。
「え!かっけぇ!!」 
 猪高がやたら騒ぎ始めて鬱陶しいので、八太郎は席をたった。
「どこいくん」
「トイレ」

 本当はトイレなんか行かなくても良かった。
 けど、猪高のあの視線が辛かった。
 自分は夢なんて追いかけられる器じゃない。他の何を捨ててもいいって思えるほどの夢じゃない。蜘蛛の一匹も殺せない。
 汚れなきゃ手には入らないけど、八太郎に汚れる勇気と覚悟は無かった。

「ね」
 階段の踊り場で立ち尽くしている八太郎に、咲は話しかけた。
「猪高くんさ、最近変じゃない?」
 前置きがなかったのは失敗したが、べつにまあいいか。
「まあ確かに、独り言が増えたっていうか」
「だよね。前は私にもたくさん話しに来てくれたけど、最近はそれどころじゃないって感じ」
 猪高は咲に好意を寄せていた。それはバレバレで、本人も認めていた。
 
「知ってる?」
「え?」
「蜘蛛って"必要悪"って意味があるんだよ」
「……つまり」
「私、あの教室に"蜘蛛"を放っているの」
 咲は瞳を見開き、八太郎のほうに一歩近づく。
「私の目」

「私の目、見える?」
「……見える」
「どんなふうに?」
「……綺麗な茶色だね」
「ありがと」
 
 そのまま、咲は去っていく。
 まるで忘れ物を取りに帰るかのように、いそいそと。

 翌日。 
 八太郎は一日中視線を感じていた。
 授業中、斜め左後ろの席からの威圧感を背に受けながら、ほうかはほうかで遠距離からレーザポインタでも当てられているかのように見られ、屋上での孤食さえもはや孤食じゃない。

「なに?」 
 昼休みまでついてくるもんだから堪らず八太郎は前を向いた儘言った。
「なに。猪高」 
 そのまま振り返る。勿論そこにいるのは猪高。

「いや……ごめん。ちょっと気になってさ。八太郎が何考えてるのか」
「俺が何?」
「ああ……いや、ごめん。コソコソつけたりして」
「俺が何してるか気になるんだ」
「おう……だってそうだろ、八太郎いっつも無表情っていうか、あんまり自分のこと教えてくれないしさ。でもなんとなくわかった気がするんだ、俺、写真家もかっこいいと思うけど、写真家になりたいって胸張って言えるのすげえって思うんだ!……ああ何いってんだろ俺、だけどさ、なんかお前凄くかっけぇ大人になれそうだよな
「俺は」  
 八太郎は強く低く言って、猪高は硬直する。

「大人になんかなりたくないよ」 

 八太郎は薄笑いで続けた。
「いや、既にもうなりたくない存在なのかもね。俺は俺でいたくなかった」
「どういう……」

「ねぇ」
「……?」
「寝る時間って、もったいないと思わない?」 「は?」
「食べる時間も、トイレの時間も、そういう時間。もったいないって思わない?」
「……思わない」
「そっか。だけど俺は、夢のことなんか話してらんない。それが恥ずかしいうちは」
「……」

「……まあ、じゃあ俺帰るから」
「は?!」
「今日、もともと早退なの」

 八太郎はすぐに無表情に戻って帰路につく。 

 猪高は俺に憧れているのか?
 なぜ?
 悪意でのし上がることも、善意でつけ入ることもできやしない、浮遊する惨めなこの刺胞動物に。
 大人になんかなりたくない。
 やる気のない、夢に敗れることを恐れて何もしない今の自分も嫌い。
 "人間"である時間がもったいないと思えるほどに、何かが足りていない。
 蜘蛛みたいに、八本も自由に使える手足があって、何でも取りこぼさない巣を張れる力があればいいのに。

 早退の理由は曽祖父の通夜だ。
 七月一〇日。生理学の日に亡くなった、ペットショップオーナーの曽祖父。
 死を目の当たりにしながら生き物とともに生きた彼の死。
 八太郎はまた複雑な気持ちになった。
 死にたくはない。でも、このままダラダラと生きていたくもない。ただ、何も考えたくない。自分でも気づかないうちに、そっと消えたい。
 
「は〜いもう始めるよ、座って!」 
 翌朝。一限から古文。今日は楽しめそうだと思う。
 八太郎は曽祖父の葬儀に出ることを許されなかった。そこまで親しい間柄ではない父方の曽祖父のためだけに単位を落とす是非を両親は優先した。

 夏の間、この街はどう変わるのだろう。
 体育館の向かいの家は完成するだろうか。
 蝉の声が聞こえなくなったら、今度は誰が騒ぐのだろうか。

五月待つ 花たちばなの香をかげば
昔の人の 袖の香ぞする

 猪高が読み上げる。
 よみ人しらずの歌だ。

「みんな、みーんなひとり」
 席についた猪高が、結構大きめの声でそういった。
「青い春にかぶさる夏の、その真ん中に独りぼっち」

「猪高君……?」
 先生も困惑している。

「聞いて」

「聞けよ」

「だれか」

「だれだ?」

「ただ、真面目に」

「ただ、普通に」

 生徒たちが静まり返る。
 ぶつぶつとうわ言のように、意味もなく、反応も求めず、溢れる考えをこぼすようにつぶやく猪高を見て。

「猪高君?!どうしたの?!」 
 女教師が堪らず叫ぶ。 猪高は顔を上げた。
「突然何を言い出すの?!どこか……なに?」 
 教師が狼狽する。

 頬。 猪高の頬に、小さな蜘蛛が止まっている。 それを手で取り、窓の外に放る。
 そのまま、すぐ下にあった大きな蜘蛛の巣にかかった。

 あいつは、ずっとひとりだった。

 いや、みんなひとりだった。

 ひとりでみんな、何かと戦ってた。それはただ一匹の虫かもしれないし、自分の心かもしれないし、他人の悪意かもしれない。

 毒のない牙に苦しみ、エントロピーに怖がり。   
 簡単なことなのに、いちいち戦ってた。

 僕たちは蜘蛛の子。
 ここから散っていく。
 会えない日が来る。
 そのために孤独だった。
 そのために戦ってた。

 ひとりで。

 そう、ずっと―。

―次に三番線に参ります電車は普通 咲城方面 新猪高行です―
――――――――――――――――――――――――――――

 ねぇ、何処へ帰るんだよ
 僕さ、何も祝っちゃないんだよ
 ねぇ、誰が間違っても
 僕ら、いつも笑ってたんだよ

 君は曖昧だ
 夜の街に泡立ったからだろうか
 生命が溶けるように孤独を抜け出した

 なんとなくで行こう
 僕ら、なんとなくで生き抜ける筈で
 ただ泣き直した 少しばかりの反抗期だ
 何度だって行こう
 僕ら、青い空捨てて帰る時が来る
 だから今を忘れたくない 生きているから

 ねぇ、僕は好きだったよ
 君の不完全なところも
 ねぇ、これが死だとしても
 僕ら、明日を生きたいかな

 今や完璧は
 忘れ去られて割れてしまったさ
 愛したいは心の中だけじゃ苦しい儘

 なんとなくで行こう
 僕ら、いくらだって蘇る筈で
 そう履き潰したくたびれた足元にも気づかず
 何度だって行こう
 僕ら、いつも通りを忘れてないから
 贈り物は風と雨の中の月灯

 雨とともに流されて行かないで
 夢を黒い闇と別けて守り隠さないで
 泣きたくなる夜はいつも君の幻界
 たぶん、それは夜の闇が少し浅すぎるせい
 僕たちは蜘蛛の蜘蛛
 この春が明けて花びらと同じように散る
 僕たちは明日の物
 ただ縛られだけはしないよ

 何度だって いくらだって なんとなく行こう
 前だけじゃちょいと不注意なもんだとしても 

 僕ら、 なんとなく行こう
 時がどんなに朽ちて廃れてもさ
 紐結び直して 結い上げて行きてこう
 最後だったんだ 終わってから気づくの勿体無いだろう
 だから今日こそさ、赤色を

 何度だって どんなだって なんとなく巡るよ
 だから悲観しないで 僕らだって胸張っていこう
 僕ら、何度だって なんとなくで笑ってこうよ
 僕ら、最後だって泣かないで笑わないで

 行こう。
――――――――――――――――――――――――――――

       あとがき

 こんにちわ。MIQYでございます(^^♪

 フォロワー一〇〇人突破記念で小説を投稿いたしました✨投稿遅れて申し訳ありません🙏

 「蜘蛛の蜘蛛」は、高校二年生の主人公たちが必死に戦う夏の日常の物語です。
 八〇〇〇字にも満たない短い作品ではありますが、三部構成で、それぞれのキャラクターの感情を描けたかなと思います😊

 まもなく夏本番。みなさまも体調に気をつけてお過ごしくださいね!
 それではまた次の記事で〜;)

 ☟表紙絵完全版
 

2024/05/03制作
アナログ・オリジナル


                        MIQY

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