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老後は小さな家に住み替える。固く誓った、大家さんとネズミ事件

こんにちは。若橋未央です。
私たちは一家4人、夫の故郷・宮崎に注文住宅を建てて、2022年12月に移住を完了しております。

家を建てるにあたり前提条件としたのは、「15年後に手放せる」ことでした。
15年後に必ず売るというわけではなく、最短で築15年(末子高校卒業)〜最長で築30年(私が70代になる前)のどこかのタイミングで、売却または貸家にできる、という意味合いです。

子育て期~老後期 一生住める家の条件

「子育て期の家」兼「老後、終の住処として暮らせる家」を建てるには、ざっくり、以下のことが求められます。

【立地】
・子育て期→小学校や公園との立地関係、中・高校の選択肢の広さ
・老後→徒歩圏のスーパー、文化施設、医療機関等のアクセス

【家屋】
・子育て期→家族で過ごすLDK、子の成長に応じた個室
・老後→1階で寝起きと生活が完結できる間取り
 (理想は平屋。2・3階建の場合はホームエレベーターなどの計画)

子育て・老後、両方の条件をクリアする立地と家屋は、なかなか難しい…。

でも、「地方都市内での一等地」なら、少し予算を背伸びすれば…私たちの移住した宮崎の場合、土地と建物あわせて6,000~7,000万円程度出せば…上記をすべて満たせる立地と家が手に入りそうでした。

だがしかし! 私たちは、そうはしませんでした。
その大きな理由は、「老後1人暮らしの大きな戸建住まいは、リスクが大きすぎる」実感を持っているからです。

その価値観を強固にした、私たちの実体験をご紹介します。

最強条件なのに、ネズミにまみれた88歳独居の戸建を見て


私たちは、「最強条件の立地・作りの家にお住まいだったのに、どうしてこんな老後に…」と思える例を、間近で見ています。
私たちが東京で借家住まいだった時の、お隣の大家さん。
2022年に借家を出た時点で88歳、めちゃくちゃお優しい、お一人暮らしの女性です。

最強立地に、広い家

大家さんのお住まいは、東京都世田谷区、鉄道急行駅から徒歩6分。
スーパーも、コンビニも、保育園も、小学校も、銀行ATMも、町内会集会所も、各種病院もすべて徒歩5~10分圏内で、ハザードマップにもかからない最強立地
100坪はありそうな敷地に建つ瓦ぶきの和風住居は、1981年建築の2階建て5LDK+隣の借家が3DK。
大家さん住居の1階だけで2LDKありました。
「神社を作るような腕のいい棟梁さんに、総ヒノキで建ててもらったのよ」というのが、大家さんの口癖でした。

大家さんは資産家でもあり、息子さん一家のため、最寄り駅の反対側に戸建を買っています。息子さんの家とは徒歩10分で行き来可能。
私たちが住んだ借家のほか、アパートかマンションの賃貸経営もされているようでした(息子さんが管理)。
端的に言ってお金持ちです。

私たちが3DKの借家に入居したのは2015年。家はおよそ築35年、大家さん81歳。
家は、前の入居ご一家が10年近く住んだあとで、給湯器など一部住宅設備を交換して入居しました。

当時から、砂壁はボロボロしていたし、古いおうち、という印象はありましたが、お家賃が駐車場つきで15万円。周辺相場の類似面積物件+駐車場で20万円/月はしましたから、私たちにとってたいへんありがたい選択でした。

その当時の大家さんは「80歳を機に」と運転免許を返納したばかりでしたが、生活にはまったく困っていませんでした。

健脚で買い物がてら1日5kmも6kmも歩くし、しょっちゅう電車にのって新宿や渋谷の百貨店でお買い物に出かけます。
お得意様登録されていて、百貨店の優待券をよくもらいました。
たくさん作ったからと、手作りのお惣菜もよく分けてくれました。

近所の仲良し主婦さんとは毎週定例のお茶会をしているし、隔週で地域自治会の健康マージャンにお出かけ。
庭で私が幼子と洗濯物を干しているのを見かければ、毎日のようにリビングの窓から手招き・お茶に誘ってくださる…、社交的な方でした。

子どもたちもとても懐いていましたし、私たちも、大家さんとのご縁と借家の住まいを喜んでいました(引っ越した今でも、その感謝の気持ちは変わりません)。

加齢+コロナ禍で、問題が表面化

ようすが顕著に変わってきたのは、2020年のコロナ禍、大家さんが85歳にさしかかったころ。
外出・会食自粛で、お茶会や自治会の集まりも無くなり、隣家の私たちもご自宅にお邪魔することはなくなりました。
その影響もあってか…大家さんの認知力はどんどん落ちていきました

庭先、玄関先で子どもに分けてくださるお菓子は、賞味期限が大幅に切れていることが増えました。

フライパンをガス火にかけたまま忘れてしまい、黒煙が家に充満する事件が発生しました。すぐ、隣の我が家と連動する火災報知器をつけさせてもらい、その後2年間で2回、ガス火忘れ→警報機作動でかけつけました。

玄関前で「屋根の修理屋さんが来るっていうから、待ってるの」という大家さんを見かけ、なにかおかしい、と持っていた見積書の電話番号を検索したら屋根の修理詐欺と注意喚起されている業者!
私が慌てて駅向こうの息子さんに電話して緊急招集、いかにも怪しい工事業者さんを追い返してもらいました。ほかにもいろいろ…。

コロナ禍で在宅時間の暇を持て余すからか、もともと多かったテレビショッピングの量が増え、毎日のように、通販のモノが届きます。調理器具、健康器具、美容器、健康ドリンク・食品類……

「私が電話して返品しますよ?」と申し出ても、「いいのよ、すぐダメになるわけじゃないし、使わなければ誰かにあげれば」と言って、未開封のまま、5LDKの広い家にしまいこんでしまいます
ウォーターサーバーの契約があるのに、ペットボトルの保存水のダンボールが定期的に届き、家にしまいこまれていきます。

大家さんの息子さんも事態を放置していたわけではありません。
主要通販会社に電話して「この番号で母が注文してきたら、受け付けないでほしい」と交渉したり、週末はマメに様子を見にきて注意したり、気にかけていました。
そして、息子さんは、古くなった家を取り壊して収益用マンションを建て、その一室に入居することを強く勧めていました。

でも大家さんは「今の暮らしで何も困っていない」「この家でいいわよ」の一点張りで話し合いは平行線

そう、1階だけで暮らせているし、徒歩圏に何でもあるし、身体的に健康だし、…大家さんは一見、困っていません。

しかし、その間に、家屋の傷みは確実に進行していました。
私たちの前・入居者さん時代から、築25年以降~築40年で、外壁も屋根も雨どいも配管も…メンテナンスすべきものを全然メンテナンスしていないのです。

息子さんは、話がまとまれば家を取り壊すつもりなので、壊す家にメンテナンスをするつもりがない。
大家さんは、目も見えにくいし認知力が落ちているので、メンテナンスの必要性に気づかない。私たちがメンテナンスしたほうがいいのではとお話ししてみても、実感が薄いし、手配などが億劫になっていて実行力がありません。

築40年が近づくと、私たちの借家部分の玄関ドアがゆがみで?閉まらなくなったり、ダイニングの床がしなって抜けそうな状態になったりと、不具合が増えてきました
私たちの暮らす範囲で困った部分は、夫がDIYしたり、息子さんに許可を取って修理業者さんに来てもらったりと、応急処置を繰り返してしのぐことが続いていました。

ついにネズミ事件へ

2022年夏。事態は決定的に悪化します。
床下換気ガラリの隙間から侵入したネズミが、モノにあふれて食品管理ができていない大家さんの家で大繁殖したのです。
ネズミは、隣の私たちの借家にも侵入しました。そして室内にも出入りするようになってしまいます。

夜になると天井裏でガタガタと激しく走り回る音がする。
夜中に台所で食品が毎晩かじられ、朝にフンが点々と落ちている。
ネズミは閉めてある引き出しや開き戸の中まで、わずかなスキマから侵入し、レトルトパウチの箱・アルミ袋も食い破ります。

台所だけではなく、家の至る所をネズミは探索しています。

居間に置いていた私のマザーズバッグ。

外出の支度をしようと中を開けると、子ども用のたまごボーロがバッグの中に散らばっている。えっ?とひっくり返すと、未開封の小袋たまごボーロがかじられ穴があいていて、バッグの中にネズミのフンが数個…!
凍り付いてバッグを放り出しました。
夜中に、マザーズバッグの中にネズミが侵入してたまごボーロを楽しくかじって、お腹を満たして用を足しているのです。

無理。ほんと無理。

ネズミの体液や糞尿が部屋中に残って、幼い子供たちに病気などの影響がないか心配になりました。

息子さんに許可を取り、私たちが電話して、大手ハウスクリーニング系列のネズミ駆除サービスに来てもらいましたが、借家、および大家さんの母屋を見た作業員さんが息子さんに非情な告知。

「言いにくいのですが、母屋のほうは、ネズミ駆除を頼むより先に、断捨離というか、処分業者を頼んで片付けをしていただかないと、作業すらできないです」

私も、これを機にとダスキンさんにくっついて、大家さんの家に入りました。コロナ以来、約2年ぶりにまじまじと見る大家さんの部屋。

リビングもかなりモノが増えていましたが、続く和室がひどい汚部屋になっていました。
座卓の周り、人が歩く部分だけドーナツ状に床が見えます。ほかはモノです。座卓の上は、化粧品やお菓子の缶でぎっしり埋まっています。壁面は、通販商品が積みあがっていて、地震が起こったら崩れて下敷きになってしまいそうです。

和室の窓際の掃き出し窓は、窓際にモノが積み上がり、窓を開けることが不可能になっていました。そして、そのモノたちの下は温かく格好のお休みどころなのでしょう、ネズミのフンがたくさん落ちているのが見えます。

リビングに戻ると、昔は素敵だったはずの出窓が、ほこりをかぶったクラシックCDとネズミのフンばかりです。(そして、出窓の前にモノが置かれているので出窓に近づけない。)

コロナ禍前、私の子どもがポロンポロンと弾かせてもらっていたアップライトピアノには厚くほこりが積もり、その上にネズミのフンが落ちています…。

大家さんご自身は戦前の生まれで、ネズミに慣れているようです。
「あら、ネズミが出たなら、捕まえましょうか」とネズミホイホイを仕掛ける程度で、おだやかにされていました。

ご本人だけおだやかにされているのが、なんとも悲しくなってしまいました。
認知力が落ちる前、お友達や地域と関係が濃く、社交的に過ごされていた頃の大家さんがこの状態を見たら。
自分の家のモノとネズミのせいで隣家が困っている、家族が困っている状態を、良しとしただろうか…?これが、本来の大家さんが望む老後の過ごし方なんだろうか…?
大家さんはその瞬間の大家さんしかいませんから、本当のところはわかりませんが…大家さんが望むような老後のありかたじゃなかったのでは、と私は思います。

このネズミ事件が起こった2022年の夏は、すでに私たちが宮崎移住の決意を固め、土地購入・新居着工を済ませていた時期です。

ネズミ駆除業者さんには、私たちの借家部分だけ、ネズミ侵入穴の特定と補修、薬剤散布などをしてもらいましたが…、「ネズミは一度味をしめたら諦めません、また穴をあけます」という情報、そして変わらず天井裏や壁内を駆け回るネズミの音に、おびえる日々をすごしました。

「あと数か月、新居竣工・引越しまでなんとかしのぐ」という一念でビクビク暮らし、無事に引っ越せた時には心底ほっとしました。

退去時、息子さんは「もう取り壊すつもりだから」と、原状回復を不問にしてくださいました。
その後…大家さんと息子さんの建て替えの話し合い、そして大家さん宅のネズミがどうなったかは、……まだ確かめていません。

***

子育て期から老後期まで暮らしやすい最強立地であっても。
1階で寝起きが完結できる作りの戸建であっても。
リフォームできる資金が潤沢にあったとしても。
私は、認知能力があるうちに、子どもと話し合い、老後に適したサイズの住まいに移りたいと思っています。

そのサイズの家が、賃貸なのか、持ち家なのか、マンションなのか、小さな戸建なのかは、まだわかりません。

でも、大きな戸建に独り暮らしすることはものすごいリスクであり、そのリスクをとりたくない。

それが私たちの実感です。


この記事は、加筆・再編集して、2023年秋までに、若橋家の家づくり記録としてkindle本にまとめようと考えています。

興味をもっていただけましたら、そちらもぜひご覧ください。

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