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今年の桜は白っぽかった


 「今年の桜は白っぽかったわ」

 昼間、訪問先のKさん(95歳)がそう言った。
 Kさん宅のすぐそばに小学校があり、小学校に沿った道沿いには桜が植えられている。
 人工の水路があり、桜は阪神大震災の後に植えられたらしい。

 今年の桜はいつもより咲くのが遅かったため、入学式の子供らは桜と一緒に写真を撮ることができた。先週のKさん宅訪問の帰りには、ちょうどそんな家族連れを桜の下に幾人か見かけた。
 Kさんは多分40年以上はこの桜を毎年見ている。そんな人が今年の桜はいつもより白っぽかった、と言う。
 そう言えば、私も電車の窓から見る満開の桜の木が、なんだかふわふわした白い雲みたいに見えた気がする。


 今年は花の咲くのが遅かったから、時期が遅くなると花の色が薄くなるとか?
 遅く咲くと、太陽の光の具合がいつもより強くなり、ハレーションみたいな作用で花が白っぽく見える?
 桜の木の栄養状態や雨、寒さなどの気象条件により、桜の花の色が微妙に変化する?


 色々考えてみたりしたが。
 Kさんは、同居の妹さんが突然入院したことで生活が変わり、いつもと違う春を迎えて、その心情が見る桜の色に影響したともいえないか。
 私は私で、3月に身内を見送ったあとの桜は、やはりいつもと違って見えた気がする。

 
 いったい、日本人が桜に心を寄せるのは、DNA的というのか、何かしら特別な因縁でもあるのか。

久方の光のどけき春の日に
   しづ心なく花の散るらむ(紀友則)

 毎年の春に咲き、咲いて散るそのピンク色の花びらは、なぜか私たちの心に訴えかけるものが大きいなと思う。
 だからこそ、毎年春になるとどこそこで桜が咲いた、今年の桜は早い、遅いと、桜前線の便りを気にかける。

 今年はあの人と桜を見られなかった。
 今年の桜をあの人は見られなかった。

 桜だって、私たちが見ていることを、色々感じていることを、ちゃんとわかっているからこそ、毎年春になると咲くんじゃないか。
 そんなことをふと、思ったりしたのだった。

(ヘッダーの画像は、その小学校横の桜です。
やはり、白っぽいかも…)


あめかぜに たへて桜は咲きほこり
     やがて散るとき 白雪のごと

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