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小麦と彼女。


 何と関係性を結ぶのか。
 それは、この世に生まれてきた限りは自分で決めなければならない必須項目であると思う。

 彼女の場合は、小麦。

 彼女が作るパンを初めて食べたのは20年以上前のこと。勤め先の近所に小さなパン屋ができたので、たまにお昼に買いに行っていた。
 小さめのパンは、どれもぎゅっと凝縮されたような、それでいて無骨で、『お洒落パン』とは明らかに違うものだった。
 作る人のこだわりを感じたものである。
 あまりメディアなどにも出ず、当時も知る人ぞ知るみたいな感じで、でも作るパンは一部の人たちに高く評価されて、職人気質なパン屋さんだったのだけれど、いつしか店をたたんで、近くの駐車場に週3回、ワゴン車で販売するスタイルになった。
 彼女は結婚して子供も生まれ、六甲山の麓に家族で住んでいるらしかった。
 彼女が焼いたパンを週に三回、ワゴン車で彼(旦那様)が売りに来る。彼女のパンにはファンがついているので、売り切れることもしばしばだった。
 そうこうするうちに、コロナ禍に突入。彼女のパン販売もお休みになってしまったようである。…と思っていたが、お休みしていたのはここ一年ほどのことだったようだ。
 私自身がしばらく行けなかったのと、出店を見かけなかったので、勝手にコロナ禍のせいだと思い込んでいたようだ。

    🍞ー🍞ー🍞ー🍞ー🍞

 そのパン販売が再開したのを知ったのはついこないだの事だった。今年の二月からワゴン車販売をしていたらしい。
 ただ、以前作っていたパンとは全く違うパンを、今は作って売ってるらしい。
 もともと小麦の風味をかみしめる感じのハード系のパンだったが、更に突き詰めて、材料の小麦にこだわって作っているらしい。
 以下、彼女の営むパン屋さんのHPからの抜粋である。

休業するきっかけとなった『小麦への疑問』は「全て解決」には至っていません。
小麦と人との関係が、今現代のようになってしまったのはなぜなのか。

 『小麦への疑問』を感じたのが休業の理由だったようである。さらに、彼女の思いが綴られる。

世界中の小麦の歴史は面白く、ー中略ー でもちょっと、その歴史事情は小麦にとってらんぼうだと思うところも見えてきます。
らんぼうにあやつられ姿を変えてしまった小麦は、やっぱりらんぼうに私達のからだに作用してしまうことがあります。

 小麦アレルギーや遺伝子組み換えなどの事情を言っているのかどうかはわからない。そういう事はいっさい書かれていない。
 けれども、小麦に限らず、私たちの食べているものが、大量に生産され、管理され、先物取引などで世界経済にも大きく関係し、それが為により扱いやすく、利益をコントロールするための品種改良が日々行われているだろうことは容易に想像できる。
 以前から彼女の作るパンには、小麦と対話しながら作られているようなイメージがあったが、いやはや、ここまで繊細な作業だったのか、と正直驚いた。

・姿を変えてない小麦
この中間辺りの小麦
・人為的にものすごく姿を変えられた小麦

それぞれの良し悪しを決定することはできないけど、できるだけありのままの姿でここまでやってきた小麦を食にとりいれることができたらなという気持ちが大きくなっていきました。

 そうして、新たに『姿を変えていない小麦』でパンを作りはじめ、試行錯誤の中で再びの販売再開となったようである。

初めてさわる姿を変えてない小麦は、昔から存在してたのに、今頃になって歩みよってもこちらの思惑通りになんてならないぞ、とまっすぐな厳しさがあり、特にのびやかな気泡たっぷりもちもち食感のトーストを表現するなんてこと、この小麦にとっては全くもって異次元のことなんだと痛感しました。今頃になって。

 『姿を変えてない小麦、人為的にものすごく姿を変えられた小麦、それぞれの事情を抱えた小麦に対してきっぱりとした線引きができない』と彼女は言う。それはそう。やはり人間だもの。人間が生きている事情がある。
 小麦には小麦の事情も、ある。種の存続…
 だが、それは既に人間の事情によって、かなり失われてしまってからの、今なのだ。
 
 そんな彼女の新たな挑戦?ともいえるパン。

左は「61ごとうレーズン」、右が「61ごとう」
長崎の五島列島で作られた小麦
『農林61号』を使用。

 食べてみた感想は。すごくもちもちしている。口の中で噛んでいるうちに、パンを食べている感じでなくなる。なんというか、こねた小麦のかたまりを食べているみたいな。
 まず口に入れた時に感じる味も、パンの味とは少し違って、なんというか、穀物の匂いをそのままというのか。いわゆる小麦の味とか、香ばしさとかでは全くなくて。
 味を言葉で表現するのはやはりむつかしいが、たとえば田舎に遊びに行って、そこの農家の納屋にお邪魔した時に感じる草っぽいような土っぽいような、どこか懐かしいような匂いを味にした感じ?って、、、伝わらんなあ~💦
惨敗😞💧


気泡が多め。
かなり弾力があり、切りにくい。

 これは食べてみるのが一番なんだろうけど、一人で作れるぶんだけ作って売るスタイルのお店なので、お取り寄せとかは無理。
 なのでお店の情報などは書かない事にします。(調べればある程度は解っちゃうけど)

 話題をふるだけ振っておいてすみません。
 この記事は、珍しいパンの食レポではなく、世の中には、こんな風に人知れず自分が疑問に思ったことを、素直に追求し、探求し、考えて実践している人がいるのだというその事が嬉しくて書いたものなのです。
 そうして、そういう彼女の試みに、食べることを通じて関われるのも嬉しく、その事にとても励まされたという、それを言いたかったのでした。

 ここnoteでも、独自の視点で、その人ならではの記事が沢山読めるのは、やはり励まされることですね。自分の記事もそうありたいものです。精進します~☺️




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