オウリム "Ensemble" (1988年、韓国)


オウリムはギタリスト・作曲家であるイ・ビョンウクを中心に80年代後半から活躍している音楽グループ。「オウリム」とは韓国語で「調和」「ハーモニー」という意味があるらしい。
彼らの音楽性は、韓国伝統音楽にアシッド・フォークを融合させたもので、この手のジャンルを「フュージョン国楽」と呼ぶそうだ。本国ではニューエイジ音楽の一環として扱われており、オウリムの他にもスルギドゥン、キム・ヨンドンといったアーティストがこのジャンルの代表格である。
オウリムのこのアルバムでは、韓国の暗く湿った「恨(ハン)」の情緒がアルバム全体を支配している。カヤグム(韓国の琴)やテグム(韓国伝統音楽のフルートのような笛)の優しい音色がアコースティック・ギターやシンセサイザーの音に溶け込む。A面の1曲目、B面の3曲目ではヴォーカルが採用されているのだが、前者の歌詞には「シベリア」、後者には「ヴァイオリン」という言葉が使われていることから、純粋な古典文学の詩を歌詞に採用したわけではないようだ。
海外進出を念頭に入れていたのか、裏のジャケットに英語の解説が書かれている。あまり美しい英語ではないのだが、紹介してみよう。
「このアルバムは我々自身の文化を保存したいという欲求の賜物ではない。(中略)ここに聴かれる音楽は新しい伝統と述べられてしかるべきものかもしれず、私たちの原点と現代的な性質を一体化するための音楽である」。
話は飛ぶが、現代のK-POPはどうだろうか。何もK-POPのアーテイストに伝統音楽を採用した歌を歌え、と言いたいわけではないがキム・テゴンやソン・チャンシクなど、ロックという現代の音楽と自国の伝統音楽を融合させてきたアーティストたちの作品を愛聴している身としては、ただ単に洗練を追いかけるだけではなく「キムチの匂い」のする韓国音楽をもっと聴かせてくれてもいいのに、と思う。
韓国の70~80年代のロック・ポップスの素晴らしい点は、オウリムのような「伝統」と「現代」が見事に融合した音楽が多いことである。しかし、グローバリズムも手伝ってどこの国もそうかもしれないが、「伝統」が忘れられ、「現代」しか残らない音楽が大量生産されている昨今の傾向に対して、筆者は少し淋しい思いをしている。

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