COVID-19 とそのワクチンに関して不正確な情報の記述のある漫画について

2021年9月5日 01:30

　新型コロナウイルス SARS-CoV-2 とそれによる COVID-19、またそのワクチンである新型コロナワクチンについては様々な情報が飛び交っていますが、不正確な情報（misinformation/disinformation/malinformation）も世の中に非常に多く流布し拡散しています。どう対応するかは WHO もいろいろ情報をだしたりしていますし、各国でも話題になっていますね。

　そういった中で、できるだけ正確な情報発信をしようと、私たち医師や研究者があつまって、こびナビという団体を立ち上げて、主に公的情報などを紹介したり一次資料を読み解いたりしながら情報提供活動に努めているところです。

　さて、そのこびナビは「ワクチン推進派」と捉えられることも多く、いろいろなご批判もいただきますし、多くの誹謗中傷も受けております。繰り返しますが、団体の目的は正確な情報の提供であって、ワクチンに対して特定の立場を全面に押し出すところではありません。

　さて、そんな中、扶桑社という出版社の出している週刊誌「週刊 SPA!」2021年8月31日・9月7日合併号掲載の小林よしのり著『「ゴーマニズム宣言」第136章河野＆こびナビの真相』という漫画で、こびナビを主なテーマとしながら、不正確なコロナ情報を含む情報がかかれていました。

　まぁ実際には誹謗中傷、侮辱、名誉毀損的な部分も多々あり、画力の問題もあって醜く書かれている部分も多くみられるのですが、特にコロナ関連情報として気になった部分を紹介したいと思います。

アメリカでは子どもでもコロナで亡くなっている

　週刊SPA! 8月31日・9月7日合併号64ページにおいて、こびナビ池田副代表出演のインスタライブ・YouTube 動画における発言をうけて「完全なデマである！」と断言しているコマがあります。

　池田副代表の発言として引用されているものは「何人もコロナウイルスで重症化したお子さんをたくさんみてきましたけれども、本当にかかって重症化したらとてもかわいそうな病気で、亡くなられる方も、若い人でもお子さんでもいます」というものです。

　これについてはアメリカの小児科学会が提示している資料等の通り、実際に死亡した症例があるとの明らかな裏付けがあります。アメリカでは 2021年8月19日までに累計402人の小児のCOVID-19による死亡が確認されているのです。「完全なデマである！」は明確に誤りですね。デマである！というデマです。

　もし前段の池田副代表本人の経験を否定するのであれば当然、根拠を提示する必要がありますよね。ここまで堂々とウソをかけてしまうのって漫画って気楽でよいですよね。この扶桑社という出版社には校閲部局はないんでしょうか、ないんでしょうね。

　※2021/09/08 日本でも10代の感染者の死亡が確認されています。

私の姿勢もわかっていないのに書いてしまう浅薄さ

　同64ページにおいて「2週間後には東京もニューヨークになる」のコマ内に副代表である私を描いているのですが（これがまた惨めな画力で似顔絵にも使えないレベルなんですが）、私は 2020年当初より同様の言動を繰り返す言論を継続的に批判してきています（下記は 2020年10月12日のツイート）。

　そもそもこれは、検査検査叫んでいた人たちが煽ろうとしていた言動で、私は検査の無制限拡大には批判的なわけで…。これはこの漫画家の完全なる事実誤認ですね。「煽るデマをしょっちゅうやっているのだ」と決めつけたがって、在米というか海外在住者を一緒くたにした雑な展開。考える力が無いのは仕方が無いとしても、最低限の過去の発言のリサーチなども出来ないのは誠に哀れですね。

　「新型コロナとワクチン知らないと不都合な真実」で言いたいことは述べてるので、ちゃんと敵視する人の発言も読んでいただきたいですね。ま、難しくて読めないかもしれませんが…。

名誉を毀損する発言を平気でかく

　さらに同64ページにおいて『「こびナビ」こそデマだらけ！デマで若者をだましまくっているのだ！』と具体例の適示を適切に行わず断定しているんですが…デマだらけというほど内容を挙げられていなくてなんだか可哀相になります。まぁ凋落一方の断末魔にも聞こえますね。

人体実験！と言い出すアレっぷり

　同65ページにおいて「人体実験に参加させ、何人殺すつもりなんだ!?」としているんですが、新型コロナワクチンは本邦で承認された医薬品です。「人体実験」が現在行われているわけでは当然無いわけです。治験（臨床試験）が続行中（市販後調査）のこと？いや、そうではないですよね、これは完全に気分で言っちゃってますね。扶桑社って、こういう不正確というかウソも許しちゃう会社なんですね。哀れ。

欄外にもトンチキな記載　

　変異ウイルスデルタ（delta variant）については、伝播性（transmissibility）も病毒性（virulence）も上昇しているという報告が学術ベースにおいて複数報告されており、本邦および海外の公的機関より注意も発出されています（CDC、国立感染症研究所、論文も）。

　CDCは　“Some data suggest the Delta variant might cause more severe illness than previous variants in unvaccinated people” としていますし、国立感染症研究所も「カナダのグループによる研究では、非VOCsに比べ、デルタ株が毒力（Virulence）を増していることを示した。」「スコットランドにおける研究でも、アルファ株（S遺伝子陰性例）に比べてデルタ株（S遺伝子陽性例）で入院のオッズ比が高いことが示されている」としていますね。

　また日本での新型コロナウイルス流行の第5波下において、ワクチン接種後の高齢者の致死率は低下しており、ワクチンの効果も考慮されているということはアドヴァイザリーボードの資料にもあります。「高齢者のワクチン接種が進んだことにより、感染者数の増加に比べて、重症者数は低くなる傾向にある」。
　実際、ワクチン接種者と未接種者での感染率は全く異なることも本邦での報告としても明確になっているんですよね。

　この漫画66ページ欄外において次のように書いちゃってます。「デルタ株は感染力が強いが、弱毒だから、死者が増えない。死者が増えないのをワクチンのおかげと言う馬鹿が発生している。日本はまだそこまでワクチン接種してないよ。」と。… 馬鹿とか言っちゃってますけど。笑。本当にアレなんですね。事実否認をしだすと末期。

相手の主張や姿勢も見抜けぬ哀れさ

　さらに『副反応をすべて「自然死」と言い張るつもりらしいが』と述べているんですよ。副反応を、どのような手段でどのように評価するかについても、日米の仕組みを比較しながら、こびナビではその活動内で常に議論し公開しています。「言い張る」なんて誤認も甚だしいですねぇ。
　こびナビホームページ FAQ 項目4-8等などや、こびナビ note にそこら辺は沢山書いてあります。

破れかぶれの罵倒

　突然、こびナビに対して「大量殺人」という語を用いているんです。ビックリしますよね。所有のブログにおいても「殺人ほう助」等の表現を用いていてビックリします。どういう論理の飛躍なんだ…。
　このように、何らかの行為等を犯罪行為であるかのように指摘することは名誉棄損になりうることを認識しているんでしょうかね、しているんでしょうね。ぎりぎりでやってきた漫画っぽさがにじみ出します。

前後即因果の誤謬

　「ワクチンではすでに6人死んでいる」と断言しているんです、この漫画。実際には本邦においてワクチン接種との因果関係が判明した死亡者は発表されていない（2021年9月1日現在）。

　アメリカ CDC においても9月1日現在、ワクチンとの関連があると断定された死亡は報告されていないですね。
　漫画家が一人で因果関係を断定したんでしょうか。6人も？症例を診て？なんだかあれですねぇ…本当にこういう断言主張してしまうあたりにトンデモさを感じてしまうところではありますね。

行き詰まっているのはまぁわかる

　というわけで、多くの事実誤認をわずか一回の漫画に詰め込んでくるという高度な煮詰まり具合を披露しているんですが、それ以外にも侮辱表現や、変な人を持ち上げたり、とエンタメ要素は抜群です。扶桑社は顔にクソ塗ってるようでまたエンタメ会社ですね。
　氏の YouTube アカウントがバンされたようです。本人は「『真実』を言っている、しかも『影響力が強い』ことが原因でしょう」と寝ぼけたことを言っています。コミュニティガイドラインに違反してるからですよ、と誰か教えてあげられないのでしょうか。

　なんでトンデモな人たちや陰謀論の人は論理が反転するのかわかりませんが、煮詰まっていますねぇ…人気凋落や追い込まれっぷりが、もう典型的。

　そしてもう一つ大事なのは、まっとうな専門家にアクセス出来るか否かということです。政治家にしても漫画家にしても同じ。やはりトンデモにはトンデモがよってくるというか、類友というかね…そういう意味でも複数の専門家をしっかりつけて、現在のコンセンサスをしる、というのは重要ですね。