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【連載小説】「執事はバッドエンドを導かない 」第一話(創作大賞2024・ファンタジー小説部門応募作品)

あらすじ
ある孤島の屋敷に執事としてやって来たカインは、祖先から呪いを受け継いだ娘・レイラによって「とある本」に書き込まれた物語が不可思議な事件となって現れていると、依頼主のウェスト卿から聞かされる。
早速、翌日から厄災に見舞われ始めたカインは、裏社会で培った経験と能力を生かし、いくつもの危機を乗り越えていくが……。
悪魔に命を狙われる呪いを持つ娘・レイラ。屋敷で十年働く使用人のセオ。新しいハウスメイドのアメリア。
彼らと関わりながら、カインは遠い昔に忘れた「何か」に触れる。
カインは一週間を生き延び、正式な執事となれるのか。そして、彼がここへやって来た目的とは──?
【ファンタジー×ダーク×ミステリー】


※この小説は、創作大賞2024「ファンタジー小説部門」応募作品です。

目次
プロローグ   
Ⅰ 新しい執事   
Ⅱ 始まる物語   
Ⅲ セオという男  
Ⅳ 彼女の命日
Ⅴ 新しいハウスメイド
Ⅵ 天使の呼び声
エピローグ


プロローグ

 遠い昔、村に魔女がやって来ました。

 村の少女が「病気の母を助けてほしい」と懇願すると、魔女はこう言います。

「かわいいお前のためだ。その願いをきいてやろう。けれど、お前も相応のものを払わねばいけないよ。私が持っているいくつかの呪いのうち、一つをお前が代わりに引き受けてくれるかい」
 
 少女は何だかとても恐ろしい気持ちになりましたが、母親に必要な薬を買うお金がすでに尽きていることを思い出すと、魔女に向かって大きく頷きました。

「そうだ、かわいいお前には特別な『本』をやろう。この『本』をいつも側に置いておかなければいけないよ。そうしなければ、悪魔がやって来てお前を攫ってしまうだろう」

 呪いを引き渡すのと同時に、魔女は真っ黒な「本」のプレゼントを贈りました。
 初めて「本」というものを見た少女は、中身がただの真っ白な紙であっても疑問にも思いません。

「さあ、その『本』を開いて、私の字を真似て書いてごらん」

 魔女に教わった「まじない」を少女がそのまま「本」の中に書き写すと、なんと翌朝、ベッドの上で寝込んでいたはずの母親が自ら起き上がれるほどに元気になっていました。

「奇跡が起きたんだわ! 魔女は、どこにいるの?」

 お礼を言おうと魔女を探すと、どこにも姿が見当たりません。
 少女は魔女の言いつけをすっかり忘れて、魔女を追って家を出ようとしました。すると、扉に手を掛けた瞬間、恐ろしい気配を背筋に感じました。
 振り返ると、「本」の中から得体の知れないものが這い出そうとしていたところだったのです。

 それから、魔女は二度と村に戻って来ることはありませんでした。少女は恐ろしいものが再び現れぬよう、眠る時もいつ何時も、魔女からもらった「本」を肌身離さず持ち続け、出掛けることもほとんどしなくなりました。

 時が経ち、少女が娘となった頃、彼女の噂を聞きつけた青年が村にやって来ます。
 優しい青年と恋をした娘は、やがて女の子を産みました。

 自分とよく似た漆黒の瞳と髪を持つ小さな赤ん坊を眺めて「とても愛らしい」と幸せを感じていると、その時、「本」の中から恐ろしいものが頭を半分出して話しかけてきました。

「この本は、どちらのものか。お前か。それとも、赤ん坊のものか」

 この時、娘は初めて気づいたのです。魔女から引き受けた呪いは、自分だけでなく自分の子にも引き継がれるということに。そして、悪魔から命を見逃されるのは、「本」の所有者たった一人だということに。

 娘はすぐに「本」を破り捨て、燃やそうとしました。しかし、どんなに力を加えても、火を点けようとしても、「本」は元の姿を変えません。

 どこまでも白紙が連なるだけの不思議な「本」。母から娘にそれを託すことだけが、小さな命を守る術でした。


 
 あれから五百年。
 現在も、その「本」と生きる娘がいます。

 上空に暗雲渦巻く、嵐の海に囲まれた小さな島にあるお屋敷で、彼女は父親と暮らしておりました──。


(第二話(Ⅰ 新しい執事)へ続く)


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【第二十一話】https://note.com/minatose_haru/n/n1d7cbebf5dac

【第二十二話】Coming soon…

エピローグ
【第二十三話】Coming soon…


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