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僕の小規模な退職 その24

地元の人が勧めてくるお店には当たり外れがある。
そう思った出来事がいくつかある。
そのうちの一つを思い出した。

こないだの土曜日。
散歩がてらにランチを食べに行こうということになった。
冬の間にテレビで紹介されていた中華料理屋さんだ。
調べると駐車場は無い。
歩いて行くにしても冬道だと遠いな。
ということで春を待っていたのだ。

春らしい天気の中その店に向かう。
何らかの花も咲いているな。
ポカポカして気持ちいいな。
公園を抜け店に着いた。

ランチ時でも週末のためかランチメニューは見当たらない。
テレビで紹介されていた一品料理いくつかと気持ち良い天気につられてビールも注文。
歩いてきて正解だな。
料理を待つ前にグラスで乾杯。
店内も清潔感がある。
メニューの値段も相応だ。安くも無く高くも無い。
厨房からは調理している音と良い匂いが。
これは期待が高まる。

出てきた料理は予想以上。
いやそれ以上に美味しかった。
丁寧な味付け。
盛り付け方も美しい。
箸もビールも止まらない。

そのうちの一つに唐揚げがあった。
正確にはメニュー名は唐揚げでは無い。
読み方の分からない漢字で書かれていたが、説明書きにはしっかりと「唐揚げ」と書かれていたし、注文した際に「ハイ。唐揚げネ」と言われたので通称「唐揚げ」なのだろう。

その「唐揚げ」はとても美味しかった。
カリっとした衣にジューシーな鶏肉。
そこまでは唐揚げの定番だろう。
だが、その上に振りかけている粉がうまいのだ。
ごまをベースにしているのだろうか。
その魔法の粉のフレバ―ととても合う。
サイズも食べやすいサイズ感だ。
なんて美味しいのだろう。
僕は多幸感に満たされた。

お店を出たあと思い出した。
そういえば去年の今頃も唐揚げを食べに行ったっけ。
それは地元の人がやたらおすすめしてくる店だった。
「何回食べても飽きない。」
「急に食べたくなる時がある。」
そんな言葉を信じてお店に行った。

だが残念なことに僕らの口には合わなかった。
大きすぎるサイズに多すぎる量。
それゆえに油のギトギト感が口に残る。
最初の一口目は良かったが全部食べ終わることには胸やけがした。
胃ももたれてちょっと気持ち悪くなったくらいだ。

お店やお勧めしてきた人には悪いが好みではなかった。
「若い時に食べてたら違った感想になるのかな。」
そう思うことにし、そっと胸にしまい込んだ。
勧めてきた人にはお店に行っていないフリをし続けた。
そんな彼とも、もう会うことは無いかもしれないので自白する。

44歳。推定無職。あの店よりもこの店の方が100倍美味しいと感じた。


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