神戸より:1


第一章 月詠邸へ

わたしのおばあちゃんは、海の見える高台のお墓の中にいる。そのお墓は、関空からポートアイランドまで一望できる、芦屋の山の中腹にある。子どもの頃から家族で、度々訪れていて、その風景を見るのが大好きだった。

中学生ぐらいまで、おばあちゃんとは一緒に暮らして、よく髪の毛をとかしてくれたり、わたしの長い髪を編んでくれた。ママと喧嘩して逃げ込むのも、いつもおばあちゃんの部屋だった。そんな大切な人が休んでいるところ、それがこの高台のお墓だった。

おばあちゃんは、ある雪が沢山降った日に、突然亡くなった。前日、パパにうつされたインフルエンザで寝込んでるママに変わって、何年ぶりかに台所にたって家族のためにご飯を作ってくれた。翌日、たぶんママのインフルエンザが今度はおばあちゃんにうつって、熱をだして寝込んでしまったのだった。

突然足腰の立たなくなったおばあちゃんの姿をみて、ママはこれから介護が始まることを覚悟したのだと思う。ママとふたりでポータブルトイレを買いに行ったとき、ママがすこし肩を落としてることが気になったのを覚えている。

ママにとって義母であるおばあちゃんは、一生懸命、嫁いできたよき嫁であるように努力した相手であり、緊張感のある関係だったのかもしれない。わたしにとっては、そんなことをわからず、やさしいおばあちゃんだった。

神戸の街が一望できる、このお墓にくると、いつもやさしかったおばあちゃんを思い出す。眼下にひろがる神戸の街は、実はあんまりいったことがない。住んでる宝塚から、神戸の手間の芦屋についたたら、豪邸街を抜けて市民霊園にくるのがいつもの道のりだった。長女だったわたしは、弟たちの手を引きながら、急な坂をのぼってお墓にいった。

そんな神戸一歩手前の芦屋への小旅行は、いつも家族と一緒だった。でも大人になって、東京にひっこしてからは、しばらくしてパパもお墓にはいってしまい、ママが軽費老人ホームにはいってからは、たまに足腰の弱いママを連れてくる以外は、ひとりでお墓に来ることが多くなった。

ひとりで見る大阪湾は、家族といっしょに見た風景とすこし違ってもみえる。子どもの頃より、高いマンションが増えて、新しい高速道路の高架橋がみえる。すこし凸凹した街を見ながら、昔とかわらない場所をさがすのがスキだ。パパが子どもの頃は、いまは埋め立てられたところで、潮干狩りをしたり、海水浴ができたらしい。

15時をすぎて、少し風が冷たくなってきたから、家路につくことにした。出張のついでで来た今回のお墓参りは、少し弾丸だったけど、一緒に関西にきて別行動をしてる彼氏(じつは上司でもあるけど)と新神戸の駅で待ち合わせしてる。

お墓のあるブロックからでて、急な坂をいちおう歩きやすそうだと思って選んだ、低めのヒールパンプスで注意しながらおりて、下の道にでた。登りのときは大丈夫と思った坂も、やっぱりスニーカーでくればよかったなと少し後悔する。霊園の各ブロックをつないでる車用の道をたどって、入口にでて、そこでTaxiGOをつかって、新神戸までのタクシーを呼び出す。しばらくしてアプリの地図画面にタクシーが表示され、あと5分ぐらいで霊園の入口に到着する旨をつたえた。

いつもお墓にいくときはタクシーを使う。阪急芦屋川からタクシーで霊園の中の展望台までいってもらい、そこから道なき道をあるいてお墓につく。普段はその展望台でタクシーに待ってもらい、簡単にお参りしてから帰る事が多いのだけど、今日はなんとなくお墓からの風景をゆっくりみたくってタクシーには帰ってもらったのだった。

のぞみは、ゆっくり東京駅についた。奥さんにばれないように、彼とはここで軽いキスをして分かれた。中央線に乗り換えて新宿にでて、小田急線で町田駅までロマンスカーで帰る。わたしはこのロマンスカーが大好きだ。だってロマンスだもん。もともと箱根に新婚旅行にでかけるための電車としてつくられたんじゃなかったけ。展望席を確保するのは至難のわざだし、ビジネス用の列車も嫌いじゃない。小田急線沿線に住む理由は、線路沿いを散歩してるときに、ロマンスカーを見たら、その日は1日良いことがあるって信じてるから。

わたしが暮らすシェアハウス「月詠邸」は、町田駅ひとつもどった玉川学園駅から徒歩8分ぐらいいったところにある。町田駅といっても、小田急町田駅と、JR横浜線町田駅があるんだけど、ロマンスカーが着くのは小田急町田駅。JRの駅からだ少し歩いて乗り換えることになる。

町田駅前は、地元密着の小さな店から、ハンズやルミネ、マルイ、小田急百貨店といった大型店舗の両方がそろっててとても便利。だれかがリトル渋谷っていってたけど、街をあるく高校生の姿をみると頷ける。だいたい渋谷で遊んでる子たちは、町田あたりの郊外から電車のって渋谷に来てる可能性があるのだから、当然といえば当然かもしれない。たぶん西麻布あたりに住んでる高校生は渋谷では遊ばないんだとおもう。

そんなリトル渋谷もよるになると雰囲気がかわる。道にはガールズバーの女の子や客引きがならび、ちょっと怖い。だれかが町田はリトル歌舞伎町でもあるっていってたけど、夜の姿をみると分かる気がする。幸い歌舞伎町とちがって、ホストの客引きはいないので、女の子のわたしは何か被害があるわけじゃないけど、シェアメイトの男の子いわく、よるあの通りを歩くと声をかけられたあげく、手を引っ張られて連れて行かれそうになるのでになるのでめちゃくちゃ怖いっていってた。昼と夜の顔が違うのが町田っぽいのかもしれない。」

そんな町田駅前をうってかわって、一駅、新宿側にもどったところにある玉川学園駅はとても静かで、落ち着いてる、名前のとおり玉川学園というこじんまりした大学があるのだけど、生徒もそんなに騒がしくなく落ち着いたすこし、お上品な子が多く通う学校で、駅前も学生街にありがちな大盛りご飯をたべさせるようなお店がならぶ、ばんからな感じではなく、少し落ち着いた店が多いのは、学校の校風から来てるのかもしれない。

駅について、キャリングケースを引きながらしばらく歩いたら、シェアハウスについた。途中、コンビニによって、今晩の分のノンアルコールビールとつまみを買った。お酒が弱い割に、呑み会とか晩酌とか雰囲気だけが好きなタイプ。今日のチョイスは吞んだら体脂肪も減るって言うお得なビールと、ミミガーの組み合わせ。完全のみためはおじさん。わたしなかみはそうだから。

たぶんお家には、俊子さんしかいない。今日は平日だから、ほかのシェアメイトは学校や仕事にいってるはず。わたしは旅行にいってもお土産を買って帰らないタイプなんだけど、俊子さんには必ず買っていく。べつに俊子さんが大家さんだったり、管理人ではないのだけど、なんとなく、わたしからすると大先輩のお姉様である俊子さんにはよろこんでほしい気持ちがあるから。

俊子さんは、月詠邸がシェアハウスとしてリノベされたときから住んでると聞く。もう10年を超えてるのじゃないかなとおもう。わたしはまだ暮らし初めて1年ちょっとだけど、その間にいろんな住民がこのシェアハウスで暮らし、卒業して言ったんだと思う。

「あら、お帰り。疲れたでしょ。よくヒールで旅してきたわね。」

俊子さんが、家路についたわたしを労ってくれる。

「ただいま、俊子さん。神戸にいってきたんですよ。ヒールだと坂のぼるの大変でした。あ、たいしたものじゃないけど、お土産ありますよ。」

俊子さんは、にっこりしながらお土産をうけとった。

「神戸のゴーフルね。わたしこれ大好きなの。あとで紅茶でもいれて、みんなが帰ってきた頃にお茶にしましょうか。」

ショートのグレイヘアーで、黒いハイネックのリブセーターと細身の黒いパンツの俊子さんは、とても84歳には見えない。いつもこのカッコに真っ赤なコートででかける俊子さんはわたしが目指す姿だ。

俊子さんがシェアハウスに最初からいるには理由がある。まったく姿を見せないシェアハウスのオーナーさんと俊子さんは古い友達で、俊子さんのパートナーが亡くなって、広い家を引き払ったとき、友達のすすめでここに住んだらしい。その時二人ではなしあってここをシェアハウスにした。そして月詠邸という名前をつけたみたい。

月詠邸って言う名前は、大きな庭とベランダから、お月見ができることから名付けられた。1階リビングには縁側があり、その縁側の外に大きな庭がある。お月見のときはシェメイトみんなでその縁側に座り、お団子をそなえて静かにお月見をする。その時に心のなかで浮かんだ言葉を、みんなで話合う、ほんとは俳句や和歌として詠めればかっこいいのだけど、普段やってないから季語とかわかんないし、そこは自由詩でよいということになってる。ここで暮らす密かな楽しみのひとつだ。

しばらく俊子さんとお話してたら、夕飯の材料を買ってくるわねといって、お出かけになられた。今日は佐枝ちゃんが帰ってきたから、ひさしぶりにみんなでご飯にしない? だからちょっと多めに買ってくるわねっていって出かけていった。

俊子さんの得意な料理はクリームシチューだ。骨付きの鶏肉と一緒に煮込んだ濃厚なシチューは、少し肌寒くなってきたこの季節のお腹を満たしてくれる。ひとり暮らしだと沢山出来て余ってしまうし、ぽつねんとひとりでご飯を食べないといけないけど、シェアハウスぐらしだと、なんとなくみんながリビングあつまってきて、それぞれのご飯を食べたり、たまにみんなでご飯をつくって食べたりしながらお話できる。ただいま、おかえりから始まるご飯なんて、まるで家族みたいだって思う。

月詠邸は、7LDKという大きな一戸建てだ。一説によると2世帯住居として建てられたらしい。でも、水周りは1つしかなく、洗濯機だけがシェハウス用として2台置かれてる以外は、全くふつうの戸建て。

4畳半か大きくて6畳しかないシェアハウスが多いなか、小さくても8畳、大きな部屋は15畳もある。その大きな部屋は、女性が2人でルームメイトとして暮らしてる。シェアハウスのなかのルームメイトって不思議だけど、部屋が広いからもったいないものね。家賃も半分こできるし。わたしの部屋は大きな庭がみわたせる東側の8畳の部屋。この部屋からはベランダにでれるので、満月の夜はベランダにでて、月を見るんだ。

その他のシェメイトは演劇やってる男の子と、大学生の男の子の2人。ふたりとも忙しくってなかなかリビングで会うタイミングが少ないんだけど、その分、たまに合うといろいろ情報交換する。とくに大学生の男の子とは、ポケモン仲間なので、あってないけどよくオンライン対戦で遊んでる。いまどきリアルだけじゃなくってバーチャルでも連絡とれるからいいよね。

そう、バーチャルというかネットというか、月詠邸にはちょっとした仕掛けがある。ネット上に住んでるメンバーや、昔暮らしてた人たち、たまに大きなリビングでイベントやったりするときに遊びに来てくれる近所の人や、友達たちが交流できる場がある。だから仕事中でも誰が今日早くかえるか、遅くなるかなんとなくわかるのがいい。そこで今日ご飯一緒にどうなんてことを情報交換してる。

さらに、そのネットの交流場には簡単な投票機能がついてて、たとえば洗濯機が壊れたんだけど、新しい洗濯機はどれにするみたいなことが、みんなの投票で決められる。オーナーさんは、決まったことが予算内なら、お金を出してくれるだけで、基本的に月詠邸の運営は自主的に任されてる。そこも普通のシェアハウスとはちょっと違うところ。

俊子さんは昔タイピストだったこともあり、年齢のわりにパソコンやスマホの操作が得意。ちょとだけ教えてあげれば、すぐに覚える。わたしが仕事がら、MacBookとiPhoneを使ってるから、俊子さんにもApple StoreでiPadとiPhone SEを一緒に買いに行ってあげて、設定を手伝ってあげた。だから教えるのも簡単だし、俊子さんもすぐになれたみたい。そうやってバーチャルな世界な月詠邸と、リアルな月詠邸がシンクロしてることで、住んでる人の人数以上にコミュニティがひろがってるのが、ここの魅力だと思う。

月詠邸の部屋には、それぞれ星座の名前がついてる。俊子さんの部屋は双子座で、わたしの部屋は乙女座、2人暮らししてる女の人の部屋は水瓶座、演劇やってる男の子は天秤座、大学生の男の子は射手座だ。

俊子さんがクリームシチューを作ってる横で、自分がお土産でかってきたゴーフルを食べてるうちに、車の音が聞こえてきて、駐車場にバックで、赤いボルボ240が入ってきた。後のドアが下のほうが少し絞ってある240は、ボルボ好きにはすごく人気のオールドボルボだ。これは水瓶座に暮らす、真希さんの車だ。

真希さんは、詳しくはないけど、どこかの団体職員だっていってた。普段リモートワークがおおく、よくリビングで仕事してるので、わたしもリモートワークの時はおしゃべりしたりお茶しながらすごしてる。外に仕事に出かけるのは珍しい。それも平日車で出かけるのはとても珍しい。

「真希さん おかえりなさい! 今日は俊子さんのシチューだって!」

わたしが、元気よく声をかける。

「あらほんと? それは疲れてたからご飯つくらなくてよくって嬉しいわ」

スレンダーな足にロングブーツをはいた真希さんは、器用にブーツを脱ぎながら玄関からリビングに入ってきた。真希さんも、いっつもお綺麗でわたしの憧れ。

「今日は、結婚式だったの。それの裏方。もう疲れちゃって…」

「裏方? お祝いするほうじゃなくって?」とわたし

「ううん。参加する人を誘導したり、何でこんな結婚式をするのか展示物をはったりとかそういうの」と俊子さんが答える

「結婚式するのに説明とか意味とかあるの?」

「うーんとね、同性カップルだったの。今日はゲイのカップル」

「へー、そういうのあるんだ。たしかにそれだとその意味とか知ってもらわないとね」

「まだ、法律婚はできないから、パートナーシップまでなんだけど、式はちゃんとやろうっていってね」

「うーん なんでできないんだろうね法律婚、おかしいよね」

「あたま固いおじさん、おばさんがまだ政治の世界にいるからね−」

真希さんは、あきれた顔というか、疲れた顔で吐き捨てるように言った。

「今日は、何人ぐらいご飯に間に合うのかしら、取り置き分も作ってはいるけど」エプロン姿の俊子さんがすこし心配そうにいう。外も寒くなってきて、心が冷えそうな日はできるだけ集まって食べたたいものだ

「悠くんからは、LINEで間に合うように帰るって連絡あったから、もう向かってるんじゃないかな。圭くんはあいかわらず連絡なし。たぶん今日もお芝居の練習で遅くなるんじゃないかな。でも取り置きは食べそうだけど。」

リビングからわたしは、きっちんにいる俊子さんに大きな声でつたえた。ちゃんと席をたって伝えれば良いのにいい加減なわたし。

ちなみに大学生の悠君はめちゃめちゃかわいい。一見女の子にみまちがえるぐらい、きゃしゃで背が男の子にしては低く、本人はそれをすごく気にしてる。高校のときバスケにはいって背がのびないか頑張ったらしいけど、全然だめだったっていってた。ふんわりとした雰囲気で顔つきも女の子っぽく、声も男の子しては高いので、あれで胸があったら絶対女の子と間違えられるとおもう。

圭くんは、もう一歩でガリガリくんって言いたくなるほど細くて長身長、マッシュルームっぽい髪型で前髪を気にしてる。「ボクなんて所詮前髪なんでもてないんですよ」っていいのが口癖なんだけど、なんで前髪だからもてないのかがよく分からない。昼は、ちかくのコンビニでアルバイトして、夜、劇団の練習をしてるって聞いてた。

しばらくして、悠くんが帰ってきた。ただいまの声だけは元気がいい。今日はなんの授業だったのって聞いたら、フェミニズムとかジェンダーとかの授業だったって言ってた。理系でもそんな授業あるんだねって言ったら、特別授業だから学科関係なしに受けないといけなくって、大講堂満室だったよって言ってた。イマドキの大学も大変そう。

みんな、部屋着に着替えたい人は着替えて、ちゃんと手を石けんであらって、キッチンの定位置についた。圭一くんと弓子さんだけが遅れてくる感じかも、たぶん弓子さんはもう少しで帰ってきそう、圭一君はおそくなりそうだから、おとりおきだ。そろったところで、みんなで「頂きます」をいってご飯をため始めた。

会社について、ドリンクブースでエスプレッソをダブルでれて、席についた。朝はソイジョイ一本しか食べてないからお腹がすく。俊子さんに昨日ののこったシチューを食べて行きなさいっていわれたのだけど、もう遅刻寸前だったから急いで出かけた。いくらフレックスタイムとはいえ、1番遅い11時に間に合わないのはまずい。

昨日は、結局シチューをあけたあと、あとから帰ってきた弓子さんが、帰りによってかってきた美味しいチーズと、まえからキンキンにきひやしてあったカヴァや白ワインやリモンチェロをのみんなでしこたま吞んでかたりあった。ホワイトチョコレートも白ワインにすごくあった。遅くに遅れて圭くんもかえってきて、ひさしぶりにシェアメイト全員が揃った。

真希さんはよっぱらって、なんで同性婚出来ないのよってグチグチいってた、弓子さんがまぁまぁとなだめるすがたがはまるでカップルか夫婦のようだった。聞くところによると、真希さんは、フェミニズムとLGBTQ+を研究する団体の職員らしく、そういうイベントのによく出るらしい。大学時代にフェミニズムの授業をうけて、そっちの方向にいきたくなって勉強しているうちに、フェミニズムとLGBTQ+は地続きだってことに気がついたんだそうだ。なんでもいまどきはLGBTQ+っていわず、SOGIESCっていうんだよって教えてもらった。その意味はまだよく分かってない。

弓子さんとは、中学校時代からの友達で、ずっと親友でなかよく、高校まで一緒だったんだけど、真希さんは大学で学びたいことがあり、弓子さんは保母さんになりたかったので、そこでいったんお別れしたのだけど、同窓会でばったりあって、どっちも1人暮らし先を探してるってことで意気投合して、このシェアハウスにはいったそうだ。

ゴホン。実はそんな人の紹介をしてる状態では、実は自分はなく、もうグダグダの二日酔い状態。とりあえず苦いエスプレッソを胃にみたして、コンビニでかったソルマックをグビッとと吞む。そしてとりあえずのメールチェック。こう言う日にかぎって、普段より返信しないといけないメールが多い。

重要なメールにフラグをつけつつ、急ぎのものっぽいものは短文で「了解です」とか「かしこまりました」と返信していく、意見もとめてるっぽいものは後回し。うえからつぶしていくとなかに彼氏(というか上司)からのメール。「今晩どう?」って内容。「ごめん、二日酔い、今日は無理」とだけ、なげやりに返信した。冷たいわたし。たまにはこういう冷たさが相手を燃え上がらせるものなのよとか勝手に思ってみる。

彼とは実は職場でこう言う関係になったわけじゃない。とあるマッチングアプリで条件いれて検索してたら、何となく気になる上司に似た人がいたので、友達申請してみた。上司は嫌いじゃなかったし、あこがれではあったのだけど、奥さんも子どももいるので、ある意味向こうから対象外だった。なので上司似のこの人はわるくないかもっておもって申請したのだった。

何回かやりとりして、夕ご飯を食べることになった。当日、おめかしして待ち合わせ場所になってるカフェレストランについて待ってたら、そこに来たのは上司だった。

最初、そっくりさんかと思ったけど、向こうも驚いてるのを見てパニックになった。しかしお店のひとが彼に着席を促し、メニューを置いて選ぶようにさとしたときに、もう二人とも逃げれないことを察知した。とりあえず、どうもと挨拶をして、お互いにどうしてここに居るのかを確認した。結局、お互い諦めて、最近の職場の話や、抱えてる仕事のはなしをした。

わたしは仕事でなかななか上司に言えなかったこととか、たまってたことが、こういうシュチュエーションだったせいか、この時とばかし吐き出してしまった。それは頼んだカヴァのアルコールのたすけもあったのかもしれない。気がついたら自分ばかりべらべらとしゃべってしまったような気がする。そして何本目かのワインのボトルが空いて、そこから記憶がなくなり、気がついたら、どっかのラグジュアリーホテルのベッドの中で目覚めた。となりには裸の上司がいた。

そして私たちの秘めた関係がはじまった。事実上もなにも、そのまま浮気だ。でも上司は本気だって言ってる。とはいえ、子ども小さいので分かれることなんてできるわけなく、ずっと側室決定だ。ま、それでもいい。以外とだれかの本妻でいるより自由で気楽かもしれないと思った。職場でも奥さんにもバレないように関係を続けるその緊張感がまた燃え上がらせる原因になるような気がした。

あ、また脱線してしまった。仕事だ。メールの事務的返信を終えてから、今日は最低限の仕事をする。わたしなんで二日酔いだったんだっけ。そうだ、シェアメイトと久しぶりの夕食だったので、またがっつりカヴァをのんじゃったんだ。わたしはカヴァだと何杯でもいける。普通ならガス入りだからお腹パンパンになるはずなのに、たぶんわたしは得意体質。そして大体気持ちよくなって記憶がなくなるパターン。いい加減学習しなきゃ。

続く

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