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どこからこんなに人が

 『地方史のつむぎ方』刊行記念のトークイベントを計画したスタッフ一同には一抹の不安がありました。4月26日の前日打ち合わせでは、その話題が何度も登場しました。「お客さん、どのくらい来るんだろうね?」。

 「チラシをメールや郵送で送って、15人ほどから行くと返信がありました」と私。「数人の知り合いは来てくれる」と司会の東田秀美さん。「両親と友達で3人は来ます」と尚学社社長の苧野圭太さん。合わせれば、最低でも20人くらいにはなるか。しかし、チラシやSNSなどで募集していた事前質問はゼロ…。

 27日12時半に集まった我々がまた同じ話題をしていると、紀伊國屋の店員さんがおっしゃいました。「電話問い合わせが何度も来ていますよ。時間の確認もありましたし、本をすでに買ったけれど参加してもいいかという人もいました。サインをいただけるのですかという人もいました」。

 その言葉を聞き、がぜん力が入る私たち。そして、開演の1時間も前の13時頃からお客さんがぽつぽつと現れはじめ、席に座りだします。30分前にはすでに30人くらいに。来るはずの20人の顔はまだほとんど見えない。15分前には、用意していた60の座席のほとんどが埋まります。急遽、店員さんに椅子の追加を頼んで、あわてて並べはじめる。開始5分前、演壇に出ると、驚きました。こんなにたくさんの人が来てくれたのか。大学院の同期、サークルの仲間、気象庁OB、寿都や後志の関係者、ライター、研究者、今回の本に登場してくださった方など、多くの知り合いの顔が見えました。まったく知らない人も多い。受付に用意していた名簿をあとから確認すると、スタッフも入れて85人の名がありました。開演直前には受付が混乱し、名前を書いていない方もいたので、すくなくとも90人は来ていたようです。
 
 「地方史調査と私」「各地で歴史を調べる人たち」「資料を調べる」という3部構成の資料を用意して、1920年生まれの元鉄道員、佐藤喜悦さんとの出会いやその人生、私の自費出版の方法、今回インタビューしたなかから髙木崇世芝さんと菊地慶一さんの調査や発表方法、新聞の調べ方や人口の調べ方など、好き放題にまくしたてました。80分の独演会を終えると、質疑応答へ。法学系の一人出版社を経営しながら、なぜか地方史の本を出した苧野さんへの質問も複数ありました。後方にいらした苧野さんのご両親も喜んでくださったことでしょう。
 
 最後は、更別村からわざわざお越しくださった斎藤憲さん(第12章に登場)に今回取材を受けた側として挨拶をいただきました。「旅に行って、きれいな景色を見ても5分で飽きるでしょう。しかし、そこにも人がいて、生活がある。地方史をつむぐことはその土地に意味を与えていくことです」との説明に私も隣で納得しました。また、今回の本の装丁をしていただいた久須美英男さんは前日に出来上がったばかりの『BYWAY後志』第28号を20冊持ちこまれました。「山本さんとは第4号からの付き合いです」と、そもそもの因縁を明かし、「今日は取次に頼んで、特別先行販売です。売れ残りは持ち帰ることになっていますが、腰が悪いものですから、できるだけ減らしてください」と頭を下げて、笑いを取りました。
 
 10人以上の方にサインをして、紀伊國屋の店員さんに挨拶すると、「これほどの盛況は久しぶりです」とのこと。名簿を確認したら、札幌やその近郊のほか、余市、苫小牧、寿都、登別、豊富、中標津、北見、はては愛知県からお越しの方までいらっしゃいました。
 
 苧野さん、東田さん、久須美さん、斎藤さん、紀伊國屋の皆さん、ポスターやチラシ、新聞、SNSなどで告知いただいた皆さん、来客いただいた皆さん、ありがとうございました。こんなにたくさんの人たちの前で気持ちよくおしゃべりできたことに感謝申し上げます。
 
 ところで、会場の張り紙で、私の肩書が「作家」となっていましたが、こんな大胆不敵な自称はしておりません。あれを用意した紀伊國屋の店員さんの勘違いか、過大評価です。

作家?

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