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自由と逃走 4

どうにも最近覇気がない。
病んでるとか凹んでるとかではなく、覇気がない。
生活が弛緩している。

ある友人が俺にこんなことを言った。

「大ちゃんは今はのんびりとしてなよ。どうせまた怒涛の日々が来るんだから」

またある友人はこんなことも言った

「大ちゃんは先読みをしすぎて考えすぎて行動をしないように見える」

どれも当たっているような気がする。

自分では今は動けない理由があると考えていて(ここでその理由をハッキリと書けないことも、少し辛い)、『動くべきではない』という判断を自分に下しているのだが、この『何もしない』というのは本当に苦しい

元来がせっかちな人間なので、『待つ』ということがかなり苦手だ。

ここまでの人生も反射神経と脊髄反射で乗り越えてきたような人生だった。

考えるよりも、動く。

それが俺だったはずだ。

それがとある友人から

「先読みをしすぎて行動しない印象」

とまで言われるのだから、俺のモヤモヤとした感情は人にも伝わっているのだろう。

初めての逃走

24歳で湘南に辿り着いた。
というよりも友人の部屋に荷物を送りつけて押しかけた。

これが人生初の逃走…だった気がする。

あれ?他にもあったかも?

まぁいいや。

湘南に行ってみたかったわけではなく、石川県以外だったらどこでもよかった。

たまたま湘南だっただけだった。

湘南に行けば感じのいいレゲエバーでもあって、そこでバーテンダーの真似事でもしながら

「ヤーマン!」

とか言っておけば月に15万円くらいもらえるやろ…

とか甘すぎることを考えていた俺に待っていた友達は厳しかった。

俺は初めての辻堂駅で友人の仕事の帰りを待った。

改札から出てくる友人の姿が見えたので俺は満面の笑みで手を振った。

「おーい!モトイ!来たぞー!!」

俺は友人のモトイ(今は京都で11年連続ミシュラン一つ星のフレンチレストランのシェフ)が歓待してくれると考えてきた。

「おぉ、よう来たなぁ。ほなまず飲もうや」

みたいな流れになると考えていた。

予想を反して彼の表情は怒りで満ちていた。

開口一番、彼はこう言い放った。

「おい!お前今貯金いくらあんねん!」

俺は面食らってしまい

「え?!50万円くらいかな…」

と素直に告白をする。

「お前なぁ!その金あるうちに部屋と仕事探せよ!!」

えぇ!!

そんな!

俺は何も考えずにやってきて、ゆるくレゲエでヤーマンするつもりやったのに…

「アホ!そんなんあかん!なんか手に職をつけろ!」

彼は激怒していた。

「なんやねん…こいつ…感じ悪いねぇ…」

と俺はぶんむくれていたが、しばらくは住まわせてもらうのだ。

なるべく彼を刺激しないように生活しなきゃいけない。

今後のことはおいおい考えよう。

とりあえず…

飲もうや。

と俺は彼の分もしこたま酒を買い込んでご機嫌を取った。

しかし彼の怒りは本気だった。

俺のダメっぷりは東京で働いていた彼の耳にも入っていて、俺が石川県での生活に嫌気がさして逃げ出してきたことをよく理解していた。

そんな『ダメな友人』の俺をなんとか独り立ちさせたかった。

彼は自分の仕事の帰りに就職情報誌を何冊も購入してきた。

もちろん彼が転職を考えているわけがない。彼は子供の頃から

「俺は世界で通用するコックになる」

という明確なビジョンを持っていたのだ。

方や俺はやりたいことも見つからず、トラブルと問題だらけで石川県に居場所をなくして友人宅に転がり込み、開き直ってビールを飲んでいるのだ。

当時は今のようにスマホひとつで仕事を探せる時代ではない。

彼は自分の(それはそれは少ない)収入の中から俺のために何冊も何冊も就職情報誌を買ってきてくれたのだった。

今思えば彼の想いに感謝しかないが、その時は

「めんどくさ!」

くらいにしか考えてなかった。

俺は就職情報誌を読むフリをして

「明日はどこへ行こうかな?横須賀まで行ってみようかな?」

くらいにしか考えていなかった。

実際に彼の自転車を借りて日中海まで出掛けたり、電車に乗って知らない街でビールを飲みながら散歩をしたりするのは開放感があって気持ちよかった。

俺は自由と逃走を満喫していた。

しかしいつまでも彼のアパートに居座ろうとしている俺の魂胆を見抜いた彼は激怒した。

「お前なぁ!!ええ加減にせぇよ!!」

…ったく…めんどくせぇなぁ…

でも仕方ない…

仕事を探すフリをしなければここにはいれない。

よし、ほないっちょ面接受けてみるか。

どうせ俺みたいなよくわからない住所不定無職なんかどこも雇ってはくれないだろう。

ギリギリになって住み込みの仕事でも探せばいい。

そんなことを考えながら就職情報誌のページをめくっていたら、彼が何箇所かに赤ペンで◯をつけている職業があった。

なんと彼は俺のために俺が働けそうな仕事を選んでいたのだった。

これは俺がいかにダメ男だとしても流石に申し訳なさが沸き起こってきた。

その彼が◯をつけていたいくつかの仕事の中のひとつにこんな文言を見つける。

【今人気の家系ラーメン店!】

これが俺とラーメンとの出会いになる、

(次回に続く)

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#日記
#思い出
#ラーメン
#あの頃俺はアホだった

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