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MNB連続詩集『どどめ色』

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毎日1〜2つずつ更新する詩集です。ジャンルあれこれです。よかったら読んでね。いや絶対読んでね。
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記事一覧

詩「麦酒月夜」

詩「麦酒月夜」

ぼろ雑巾を月光でねじり切るようなあなたの視線を感じて、そうでありながらこの白いダイニングに帰ってこよう。

ビールを飲むのだ

精神の弓を小指で引けばささやくように幕が上がる。幕の色は。

私は彼女とビールを飲むのだ

泡は一心に天動説を唱える。
間接照明の支柱を確かめる。
歓喜は白い布に包まれてやってくる。
下腹部の白い布はくしゃり となる。
私のものも 彼女のものも綿ではない。

二杯目の赤い

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詩「さく さくと手」

詩「さく さくと手」

耐え忍びました
かたく なりました
ふくらみました やわく
なりました
淡い てのひらが咲きました
握手握手握手握手握手
四月が終わります
寂しがる女の子をみています
たくさんのてのひらを携えます
(彼女も気づくかなあ)
五月になりひとびとが
勝手に休みだした頃
てのひらが 更に咲きます
むしろ つよく
女の子はさみしそうです
ええ 離さなければいいというものではない
ですよね
てのひらが淡くも咲

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詩「海/記憶/過ち」

詩「海/記憶/過ち」

鎌倉に来た
ほんとうにあなた
美男子におわす
駅と人の見える
ビール 喫茶店
晴れる気がした これからと
鎌を持つおじいさん
道草を刈る数年
窯を持つおじいさん
土塊を繰る数年 いつかの
麦わら帽子のわたしを追
うわたしを負う母は
日本海側の出身だった
大仏は鉛色
飴玉は薄荷
感情は修羅
貴方は斜視
私は頓珍漢
(なぜ「私」は漢字一字なのだろう)
ぼけた海を愛好し合った
砂浜には海星無し
(だから

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詩「会話回廊」

詩「会話回廊」

「古城をめぐるツアーの最中彼女に別れを告げられた男の話を知っている?」
「それ三回目。」
「アサヒィースゥープァードゥラァァァァイ…」
「それも三回目。」
「そうこれはドイツ語の」
「そうそれも三回目。」
「とりあえず飲もうよ。日も高いし。」
「日高屋だし?」
「日高屋ではないよね。」
「ハイ乾杯こぼさないで。」
「こぼれた。」
「あーあ。(『買ってあげたセーターが』と思った)」

「なんで外見て

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詩「ツアーファイナル」

詩「ツアーファイナル」

廃車場見学へ行ったときのこと
思いの外 墓場の空は
広い
風に錆の音がまじる
りりりぎん
くいしばられた銀歯たちのプロージット
タイム
アウトプットが進むキャンバスでは
あの人と自分の距離がまた
一層わからなくなっていく
りりりぎんんん
廃車場には
かつて乗客を包んでいた大きな
車体が
青い沈黙を囲って今日もご満悦
未来のなさ
ひとは暇なら打ち上げる 身体を
外部にして
歌い上げる――
甘いつぶや

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詩「楽園(果)実際」

詩「楽園(果)実際」

ぼんぼりが光る
半明半闇の店内で
煙が立ち上る
半白半灰の
これは
縮図
故に引き延ばす と
これは
現実
絵本をとじるには
まず両側の壁をば
たんとたおさねば
なるまい
(今日は おもちゃの お祭りだ)
お通しが きて
乾杯を して
談笑 した
花を つんで
時に 涙し
そうだ おもちゃの お祭りか
割れるような 音が
人か
ジョッキか
心か
身体か
それは
眉毛の根本の動きでわかる
どの人の額

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詩「電車が参ります。」

ここには毎日たくさんの電車が来ます
わたしはそれを北側から眺めます
東西東西西東東
目をつぶると電車が増えます
風が吹きます
地下鉄もやってきます
生温さ 決して
爽やかでないまどろみを
連れてきます 流れですから
サーチライトが心を照らす
そして南にはもちろん あなた
視線の動きが見えます
自分を守るようです
空間の中に空間ができます
わたしは
それをまた 眺めるばかり
時折思い出します
何を思

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詩「日々是微除幕式」

詩「日々是微除幕式」

思い出と靴底では
どちらが早く削れるだろう
どちらが大地を感じるだろう
どちらにせよ削れてるのは君だ
今日もネジを巻く手がおれたろう
大げさな音にも慣れた
夕方のベルに紛れて
街中に響きわたる
干した布団がそれをうけとめて
安眠者たちに耳鳴りを届ける
自分では決して
そうなりたくはないと
思うような人間であるような
鰹節の一粉でも入れば
進んで味噌汁など
吐き出すくらいの潔癖さなのに
そうでなくて

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詩「海と 盲目と」

詩「海と 盲目と」

海はあまりにも豊かであった
わたしの嫉妬が泳ぎきれぬ程
海はあまりにも豊かであった
ここですれ違う遠泳の表情達
浜辺の家々では鉄板がならぶ
焼けた鉄板の上で踊るような
砂浜で繰り広げられるが如き
少量の火薬を握りしめる布
 片
絵画に没頭する日々の回想記
長期的に運用する窓辺の香草
ちぎり纏わりつかせる獣から
離れ安心しきった両手両足よ
海は豊かだが静かではないよ
絵を見る客達にはそう答えた
キャ

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詩「カタコトドケイ」

詩「カタコトドケイ」

イ チニチノ オワリニジュウ エンダマ ヲカゾエル
イケノオモサ ヲモカンガ エテミル
ユビ サキデフ レルモノスベテ
クダケテシマ ウホドノヨウ ジンブカサ
イチニ チノオワリニ ジ ュウエンダマヲ カゾエ ル
ボクノカ ラダヲサワ ルノハダレオマエ
ヘヤノフンイキハオノ ズカラカワリツヅケル
シュウネンブカ サヲバンシャクニウカベ
イチニチノオワリニジュウエンダマヲカゾエル
ニガワラ イヲミル

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詩「小脳回転体:Me」

詩「小脳回転体:Me」

かん
かんらんしゃが
空を割り
海ばかり がゆれる
カモメ LED 生爪が光る
ここは 恋人の街
足元だけに注意を向けて
空に首根っこを掴まれた
海ばか りがゆれる
船雲 細麺 足音と環
 わ
    わ

ここは仮死人がランプに舞う
愛しく 濃い

散りすぎたものたち
マフラーに絡まり落ちる
こ こは恋人の街
レン レン
連歌が小火を起こす
眼しか 動いてないよ
カフェオレの中身たちと一緒に

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詩「1 century chocolate day」

詩「1 century chocolate day」

お客様にはこちらがおすすめです
ええ そうです
こちら直輸入で
――元々は緑の多い国でできたと
ええ きいております
はい すぐにご用意できます
しばしおまちを
あ ベンチに腰掛けて
はい 音楽でも聞きながら
ショコラショパン
なんでもございません
ガラス細工を眺めていて
透かして過去を見通して
煙のように意識を宙に
らん らん らん
ああ なんでもございません
今温めてますから
それはもう
とろ

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詩「はい送屋」

詩「はい送屋」

――はい
――はいを運ぶ神経細胞中の煌めきのような刺激です――はいを運んでいます――キリストを―――いやイエスではなく――はいです。
脊髄うぜえ
――はい、を、運ぶ神経細胞中の煌めきのような汚泥です。速い汚泥。はい。はい、
句読点を打ってみて存在を、だしていく
はい、を運んでいますはや
速くてさ
あ 顔

 bu
あれはそれで
 そ
――この肯定で吹き飛ぶんでげす
はい、の教養
――はい、はいで

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詩「全国脱集団下校組合」

詩「全国脱集団下校組合」

十六丁目の
十六時の十六歳のこと
出囃子太鼓にはり付いた
バチ持つてのひら広げて見せた
ふあむふあたる
綿菓子薫れ
大雲をはるか
夏の土用水路にはなぜか
細草が二組ずつゆく
旅路はキスでもどうぞ
ここでねじれていく
クロスカウンターみたいな下校途中
三組の木村を殺す夢を見る
細草で何千時間もかけて
からだの形をこころにかえていく
ミイラ木村
細草で空の風呂桶
屋上は指輪をつくる
恋をした
未遂した

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