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MNB連続詩集『さよなら恋愛個人商店』

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毎日投稿の刺繍です。月ごとにテーマがあります。今月のテーマは「他者理解」「水」「自覚」です。
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記事一覧

詩「春だね。桜だねえ。」

詩「春だね。桜だねえ。」

春だね。桜だねえ。そう言いながら指の付け根をそっと首に回す。喉仏。台所には水流とどこおりはじめ、でも音は優雅。言葉はいつもあて布で、本題にそっと届きはしない。不快指数が、指の数だけ高まっても、朗らかに、また、桜だねえ、春だね、とぼくらは同じ話題を続ける。コタツはたまにローテーブルでローテーション、同じ場所で同じやり取りをした人々が、きっといたはずだ。空間はずっとずっと夢見ている。現なのかも知らずに

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詩「イン・ザ・ルーム・イン、ザ・ルーム」

詩「イン・ザ・ルーム・イン、ザ・ルーム」

きみの家におばあちゃん家を見つけた。十五時のおやつをつつききながら、アパートの障子越しの光を浴びていた。目をとじると、過去が開いた。それから少し、やってきた習い事の話をした。笑ったときの初々しい皺が増えた。どうしたって心音双方近くなりにける。

皺、のはなし。おばあちゃんの、そして、隣りにいた、おじいちゃんの、それらは、たくさんの水気をはらいすぎてカサカサとしていたけれど、なにか磨かれたものの輝き

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詩「追いかけっこの内側で」

詩「追いかけっこの内側で」

春先に僕らは冬の糸を引いた、だから誰か布団の中に光をよんでほしい。こっちだって、そっちじゃないって、よんでほしい。というか昼のほうが明るいのになぜ夜の光のほうが気配を感じられるの、まだそこにいるような気がするの。どこへ行くにも布団を被っている。ばふ。ばふがかかったみたいな、暖かさ。夏は少しあたたかすぎるけれど、汗が出ては吸って乾いて、ほらまた光をよんでって騒ぎ出している。そこに存在感が、ある。

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詩「かけ算と地球のこと」

詩「かけ算と地球のこと」

鍋を火にかける。火に鍋をかける。僕にきみをかける。君は僕にかける?僕には僕がかけて、君は君にこそかけている。熱が来る。焦燥を思い出した。牛乳の香りがする。安アパートのフローリングは朝の光ですでに茹だっている。風は冷ややかで、後ろからの吐息を思わせる。刹那、木くずが窓から入ってくる。コンロに入って火が大きくなる。一瞬でからりとなくなっていった。小鬼火、という言葉が浮かんだ。

鍋底を責めるように、パ

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詩「ふるえる昼よ、抱きつくから」

詩「ふるえる昼よ、抱きつくから」

皮膚に灰色がふる昼は、心がかたく変わり切る。ものを知ったようなことを言うきみが、かわいいと思いながらストローをさす。いた。このまま吸いきってしまいたい。できることなら。いたいって。代わりに吸ったブラックコーヒーは宇宙みたいな苦味。どうして僕らは、こんなことをしているんだろうね。なにそれ。こういう午後を、過ごしていきたいね。なにそれ。

時間の経過を日と月に頼った日は、いつもより大きな砂時計を味方に

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詩「らせん2.5メートル、日々は」

詩「らせん2.5メートル、日々は」

目の前にある階段を登ろうか迷う季節。目の前にある半らせん状の石段を登ろうか、迷う夕方に。この先にあるものをわたしは知らない。図書館横の、その石段の、上の川辺の、遥かな学生街。ネオンサインはきれかかり、視線が宙で円を描く。月だ。満月だ。前月を見たのは新月の時だった。今日は月曜日。このまま夜にでかけたい。

繁華街は

学生街は

繁華街は

学生街は

シャボン玉が浮かんだ人は、正解かもしれない。

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詩「道を曲がればそこは」

詩「道を曲がればそこは」

ラーメン屋への道には、なにもない。風俗街以外は。おとめ座は幸運だとニュースで見た。おとめ座。わたしの歳は。起こったことを眺めるわたしの眼は、陽の光のもとでプリズム。してきたことは。産毛の中の一本の黒い毛を抜いたときに、細い魂が引き抜かれた。この毛、わたしが死んだ後にもこの街にきっとある。時期も時期、綿毛のように子孫を残したつもりで味玉の券を買う。売り切れだった。ということで、海苔はたてがみのようで

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詩「プレプロローグプレイ」

詩「プレプロローグプレイ」

問い合わせ:REさっきの件

空の青は相変わらず、画面切り替えの度真っ黒な画面に映し出されているのだが。

どうしてあの時喫茶店でお金をおいて去ったのかと聞かれれば、分からないというしかない。今でも。試すような行動を取る癖があったか。

そういうときほど夢現な頭をしているのが素敵なように思えるのは、わたしだけだろうか。
眼の前になにか集中すべき対象があるときこそそれ以外のものが図地反転!迫ってくる

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詩「なんて名前の常緑樹なら」

詩「なんて名前の常緑樹なら」

形見とて何を残さん
最初で永久の形見とて
たとえばそれはカレーライス
雨色の玉ねぎ
喧嘩の匂い
透き通りそうな肌
涙でできた浴槽に
朗らかな別れのあいさつ
雨様なら いや 左様なら
すべて雪がれてしまうだろうか
桜は遅れてきた寒さに散った
そういう朝の物語 だった
こう語ることもできるかと思った
それは雨切れの悪い朝のせいで
君が明日について語るとき
僕は納豆を一粒余分に落としてしまう
季節が代わ

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詩「=(つまり)死(し)ってこと」

詩「=(つまり)死(し)ってこと」

ここは反響の部屋
入って最初に呟いた言葉が
反響する
生卵を踏んだ僕は為す術もなく
「もー」 あ
も ももも も もも も
もー ももも も ももも
もも もももももも も
も も も も も も
ももももも もも  も も
ももももももも も も
もーーー もも  もも もも
(「もーーーーーーーーー!!」)
も ももも も もも も
ももも ももも ももも もも
も ももも も もももももも

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詩「もしも、世界が」

詩「もしも、世界が」

もしも世界が一本の糸でできていたとしたら
わたしは嬉しい
もしも世界が一本の糸でできていたとしたら
ほころびは二番目に水田に落ちた桜
もしも世界が一本の糸でできていたとしたら
千夜一夜は玉結び型

そふろり ほろひ はひらるり

もしも世界が一木の
糸でできていたとしたら
わた糸とあなたは真ん中で
調和とはらりを見物す

もしも世界が 本の
糸でできていたと糸たら
ラーメンと汗は
どうえがく

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詩「今宵あなたの肉を」

詩「今宵あなたの肉を」

今宵あなたの背中を頂いてひとり水瓶の横におりますわたしは産卵中、明後日目覚めてはそこかしこを覆う悲しみの配達者たち、今は元気と判断が付く付かないのずっと手前をその身にたたえてベッドサイドランプを明、滅、明、滅、明、してると、もう少しで五月の明るさが来るね。

緑はそれこそずっと手前でわたしたちを待っている。予感。それは靄がかるところの靄でしかない、それって、実際のところとしては、あるの、ないのって

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詩「毎夜プロローグ」

詩「毎夜プロローグ」

雨 黒く吹き付けるところから夜が始まった
濃い歓楽街が煙を上げている
口紅を千切り舌の根
染め上げた
幕開け
ひらひらと雨の中を舞う蝶を
追う
枯れた酒瓶を片手に
確かな足取り
唐揚
雨 黒く吹き付けるところから夜が始まる
世界隅々まで濡れゆく最中
最後の昼として
私雨に濡れるあなたのコートを見ていた

ショート。

詩「あるもの探しの日に僕は窓を開け空気を呼び込む」

詩「あるもの探しの日に僕は窓を開け空気を呼び込む」

君の七帖の1Kは僕のよりもずっと広いのは何故と聞くと心の広さ分じゃないと返ってきた夜に僕らは別れた。

流れる血液の速さ分だけ息が詰まって涙までが窒息死しそうな夜に僕らは別れた。

チューブ生姜が切れると決まって買ってきてって言われるからそう言われる前にようやく買えて名前の分からない魚を煮付けた夜に僕らは別れた。

ティッシュを買い忘れた夜に。

僕らは。

テレビをテレビとして使いたくてチャンネ

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