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MNB連続詩集『放課後ホーロー』

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毎日投稿する詩集です。月ごとにテーマがあります。今月のテーマは、「恋愛」「過去」「他者」です。
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記事一覧

詩「海のたなごころ」

詩「海のたなごころ」

海を見ていた人がいた それを通して わたしもずっと海を見ていた 海を見ていた 黄金も真紅も濃紺をもまとった あなたも見ていた この海岸からは 遠くの島しか見えないはずだけれど けれどずうっと 見ていた
街の人達は 車でやってきては きれいね と一言残して 街へ帰っていく 何十何百何千と 聞いているうちわたしは海になった あなたに見られている 今日も明日も明後日も あなたに 見られている
わたしは 

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詩「満月は ふふ」

詩「満月は ふふ」

トイレの天窓から
君の尻しか見えない
ある高さのその枠から
君の尻しか見えない
左の尻が揺れたあとに
右は少し驚いたように見えた
月が反射している
君の尻は 月よりも少し
ふふ
トイレの天窓のそばに
もうひとつ窓がついており
そこからは見える
君の大切な人の喉が
痙攣するように動き続けている
喉の奥には
ふふ
満月は
わたしの胸には小窓があり
そこから皆入っては出ていく
映っては消えていく
身体を

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詩「アワーアワード通ります」

詩「アワーアワード通ります」

どうしよう関係はあと三分で終わります!

わたしはきみのてをてにすることができません ビールの泡を 口先のビールの泡を
大切にする時間をかぶって
照れ隠しをしているから

太陽が大きく見えた今日の朝
わたしたちは誰にも見られずに散歩をした

わたしはきみのあしをてにすることができません
魔法使いではない代わりに 御者となろう
荒野じみた路地を歩いて 
スキットル気分でペットボトル 口が歌う

朝だ

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詩「詩情最高の」

詩「詩情最高の」

ひとりきりでいるのが嫌なわけじゃないと思っていたが ひとりきりでいるのが嫌なようだ そう思って 夕暮れが引くのを辿って スーパーへ行く 行路であたる 湯気の数だけ 見たことのない人を感じて ポケットのチョコボールを食べた ひとりきりだったチョコボールをなめた 耳元がくすぐったく感じた
ひとりきりでいるのが嫌なわけじゃない 値引きの鍋セットを買った ネギを煮ながら自慰をする 
気持ちの上でじゅっと泣

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詩「甘さ→わたし→←あなた」

詩「甘さ→わたし→←あなた」

あなたの絶叫で終わっている土曜日 とうに終わった某落ち合いどころの営業時間のことを 思ったところで 葉は猛っては落ち続けるし わたしは英子とセックスを続ける 洋菓子店のサンシェードが緩やかに降りて 小声 低い小声は太陽よりも鈍く鋭角 も 叫ばせない 口では塞がずまあ 
大味 
水に這う蔦の夢を見る わたしたちを縛る精神の血管は 晩酌に浮かべれば様になる どこもそうなのに ここだけだと思ってしまう 

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詩「遠景脱妄症」

詩「遠景脱妄症」

見目麗しいだけでよかった 裏地までが研ぎ澄まされた薄さで整っていた 目に見える部分と見えない部分の境目が分からなかった 君だった
手を 触れさせてくれた 血が内側に滴る舌が綺麗だった 紛れもなく熟れていた 緑の木々の間を歩く間 見える八重歯を見つめていたことを暴かれて笑われた 季節は重力を失ってバラバラに漂い始める たましいは存在するのだ
欅が歌を歌ってからもう数年になるが 果たして来年は
夏に雪

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詩「百合人たちのかの季節」

詩「百合人たちのかの季節」

涙と百合がホロホロおちる 白に無色がからり重なる 恋に落ちるふりをする 衣をまとって君に抱かれる 図書館の入り口に立つ 傘を並べたカップルは 悟り気味に手をつなぎ始める 
はじめよう はじまる はじまった はじまっただろう はじめ! はじまりはじまり 端端の恥じらいの花弁は ぼっかりと地面に精神的な穴をほり死んでいく そのひとつひとつが 自分たちにないものを羨望する 安い弁当の包を閉じる音がして、

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詩「地下水仙深く深く」

詩「地下水仙深く深く」

水仙 水仙 深く深く アーケードに人 深く深く 小波が街まで聞こえるような静けさの中で 水仙 深く 人はの赤い蔦を絡ませて それぞれの世界がにぎやか 水仙は色と数を増して 深く深く 爪裏から鼻頭までもが 不健康で自然な色味 イメージから出たいと願う女の子は 下腹部から現実を飲み込む 
水仙 水仙 深く深く
運転手も誰もいないバスに乗り そっと塒へと帰りゆく時に 「どうして?」と連呼する 呼び止める

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詩「火星着陸PM10:27」

詩「火星着陸PM10:27」

火星に住むならこんな感じか こたつとラグの上で みかんを転がして部屋の明かりを見る わたしの恋は 未だ部屋を出ず からからっ風が通るだけの交差点が見える 交差点に なるはずのところに 二人手をつなぐらしい 手をつなぐらしい
こたつの 天板の上で目を覚ました 小動物が空回りの遊具の中ではしゃぐ 心臓がそういうふうに動いている 酸素が薄いような気がしてくる 部屋の壁は数ミリしかなくて 外までは ふれる

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詩「かたまりかけの部屋君」

詩「かたまりかけの部屋君」

歴史があった中で きみが倒壊した 時間が用意した釉薬は 真ん中で滲み出した そういう瞬間だった 笑う目尻が口角と混じり合っている 絵画とはそういうふうにできているのかもしれない きみは 毎日欠かさずに筆を入れてきた 入れる必要がないと誰もが思うところに 目を開いたり 閉じたり その中間だったりを保ちながら やっぱり必要がないと自らも 水鏡 そうやって歴史は崩しながらより強固になっていく きみの尻尾

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詩「永久も永遠もある季節」

詩「永久も永遠もある季節」

ふたりで生活をしながら 遠くの山を登る 生活ルートは自然 二手に別れながら伸びていく 片方が目に入れば もう片方は透明な土台 すべりだいみたいな 稜線 撫で下ろす輪郭の内側に 見たことのないものが眠っている 仮面の芽の多面的枝分かれ
山が前景に来るとき 夢中になってしまうのだが 途中からは白い峰の奥に更に白い峰があり お茶でも飲みたくなってしまう 同棲は 同じ家に住むというのは 長い死のはじまりで

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詩「記憶は記憶以上になって」

詩「記憶は記憶以上になって」

シャボン玉を飛ばそう 生協の二階に百均ができた 寝間着にカーディガンをはおって向かおう 単位ごとシャボン玉を飛ばそう 今みんな机に向かっている きみはわたしに向かっている だからわたしも きみに向かおう あとはふたりで空を向き 落ちた単位の数 シャボン玉飛ばそう 必死さを覆い隠して笑うより 困り尽くして霧雨の中 目に目をためていよう 溢れる迄
左手を尖らせる 口でお菓子を持っていく 耳元で秘密を破

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詩「長雨の部屋」

詩「長雨の部屋」

粥を煮る どんなロジックもとけてゆく あなたの粥を煮る 塩をふる 天気の加減をみる 夜の予定をすり合わせる 朝が好きだ
と思うわたしを 昼のわたしがたしなめる
わたしはあなたをなめる
あなたはわたしをなでる
なめているあなたを
なめているわたしを
なめているあなたを とか なんとか
とか
して 粥を煮る 雨宿りだから水気が多い やまない雨がないなんて なんて寂しい世の中か 大きな吹き出しにため息を

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詩「七十二時間」

詩「七十二時間」

白けるときには親の顔 もしくはそれに 近い顔 君の顔は? 萎んで見える朝顔に水をやる昼の 一番高いところから涙が降ってくる わたしの世界の 外側からの涙 殻に包まれたわたしに質感で挨拶をする ぴとぽと と 視線で殻の裏側に走る 光のゆら幕を絡め取って
わたしは君に指を挿入しながら 起きた
この部屋の外には大きなトラックが何台も走っていく 得体のしれないものを運んでいく 常にどこかが揺れている 家ま

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