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MNB連続詩集『加熱される生活者』

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マガジン第二弾です。2023/03末まで更新します。テーマは「具体性」「学生」
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記事一覧

詩「さよなら恋愛個人商店」

詩「さよなら恋愛個人商店」

こんばんは。お体にお気をつけくださいね。

うるせえよ。

わたしゃたった今失ったんだ。

もう、気をつける必要もない。

夜道はプリズム上になって先へ。

足跡をつけていく星たち。

エスイストグート。

いつかカントが唱えて絶えた語群を。

今は唾の要門が通さない。

こんなの、よくない。

なんで最後に街の明かりを数えたのだろ。
消えていくものたち。
また、点きはじめるものたち。
夜の、ほの

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詩「この別れのあとに」

詩「この別れのあとに」

もうひとつの散歩道を夢想する
恋人でもないあなたと同じ部屋で過ごした
時間には 音があった
きしんでいたそこかしこから
そうっと 命あるものが生まれるようだった
食事をする際には
互いの上流の音が聞こえた
スポンジに 水の音
それは始めたときから片付けのようだった
服を選ぶときには
もうずっと奥のほうが気になった
心臓はやや 厚手のフランネル
をまとって 歯茎を見せるようだった
「そういう顔を見た

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詩「すべてのきみは春の」

詩「すべてのきみは春の」

「手水鉢のところの」
うん
「手水鉢のところの水さ」
うん
「飲んじゃいけなかったんだ」
そうなのか
気がついた頃には風にまでなってる
きみの言葉の一片に触れた
「足水鉢って言葉があったら、きみはなんて読みたい?」
ふっずばち、とか、付かない格好をつけてみる
(特段格好良くはない)
そこかしこのアルバムの紙片に吐息で
テープ貼りを続ける
だまり続ける手水鉢の中に
身の程知らずの小豆
としての右足先

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詩「その時わたしの手は」

詩「その時わたしの手は」

水晶が割れた
白色の花びらが舞った
その下でわたしは膝をやや
ありえない方向へ曲げて
そうっと
呼吸の数を数えていく

てのひらのちいさな
あかぎれに
市販薬をなかなかの量塗って
顔に す と てをはわせてみる
今は真昼なのにとても静かだと
こめかみの汗筋を感じた

昨日の記憶に滲みがあった
金魚鉢に静脈血を
一滴 二滴 三
垂れ切る前に螺旋描く黒朱色
瞳孔がすこし ひらき
耐えられない柔らかさを

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詩「波の音はまだ?」

家庭用洗濯機は
23時50分を越えると
波の音
揺られれているのが1100円(税抜)のウィスキーのせいなのか
どうなのか
わからなくても 嬉しいよ
家庭用洗濯機は
少しずつ古くなるのがわかるね

アパートの外には
無機質なランプが並ぶ
日本製の 多分
なんか和名の会社が責任者って以外はさ
わかんないけど
無機質ださ

自分の部屋の位置関係がばらばらになるよね
このときは
このっと
この時だけ

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詩「ぼくはきおく」

詩「ぼくはきおく」

木の海を眺めている
はるか昔からあるのだろう

いつからその塊のような塊は
液状 あるいは霧状だと
判断よりも早く
思わ
れるようになったのだろうか
昼行の急行列車に
線形の煮詰めた感情を乗せ

なんだっていうんだろう
こっちは 毎晩の騒ぎで
まだ頭がいたいというのに
ここは多分 高畠のあたり

転がせるほどに軽くはなく
かと言って持ち運びできないほど重くなく
もうひとつ重ねてかけられる
あやふや

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詩「よかったです」

詩「よかったです」

路傍の缶の六年目、桜を見ることができたのはあなたがあの夜酔いにまかせてわたしを思い切り蹴
り  飛ばしたからです。視界のずっと外にあったそれに、吐露すれば憧れていたと言えるでしょう。と言って何ができるわけでもなく錆びていく身体を感じながら寝そべっていました。
みなさん春は温かいですね。
冷めやすいわたしですが、春は一番心地よい。水の音がする。車が、走っています。口がひとつしかなかったところに、今は

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詩「間奏芸会」

詩「間奏芸会」

問い詰められる場面からはじまる。クリスタル・ブルーの道をゆく。と、教室でこの時間に書き綴る。月はくらくらと道をつくる。みちを歩いて欲しい人に、つくっている。小人がつくるらしい。遠くの物音が聞こえる。図書館の本のページひとつひとつを縫うように音が。キスだ。合わせる音が聞こえる。キスだ。小人では、ないだろう。わたしのシャープペンシルは相変わらず詰問に対応している。気圧。風圧。人圧。むずむずを見ないよう

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詩「日線たちの行方」

詩「日線たちの行方」

立ち返る海はうちの玄関先
砂浜色のサンシェードが揺れている
春は日差しが強かっただろうか
火星の土を思わせる
水性のシャツを脱ぎ捨てた
ぼくは
自転車を漕いでいた
あの春ちょっと先の
電信柱の先端の分かれ目にかかった
夏を車輪で踏みつける
ぼくは春を愛していたんだ
その切り傷に思えるパスタ上の髪の毛―――

例えば美術館に一枚の、大きな絵が飾ってあったとする。
ぼくは描く観客で、描いたものは直ちに

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詩「忘れられる」

詩「忘れられる」

ぼくらは忘れられる
ひどい言葉も
足の小指の痛みも
ぼくらは忘れられるから
狭い家の中を心を持って
闊歩し続ける
 だから助けて
どうして
それでも問い続けることができるのだろう
ぼくらはやっぱり忘れられる
同じラーメンを晴れた顔で食べながら
繰り返される夕焼けに波をとかす
 でも助けて
どうして
音楽はなり続けるのだろう
どうして
それでも問い続けることが
 スカートのはしっこは
 冬の 日みた

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詩「いまもそう」

詩「いまもそう」

こわばりのじごてきなにんしきの
こわばりのじごてきなにんしき
きっさきがめのまえにあるということ
こわばりのじごてきなにんしきの
こわばりのじごてきなにんしきの
こわばりのじごてきなにんしき
たとえばここでいま
なきさけびたいということの
こわばりのじごてきなにんしきの
こわばりのじごてきなにんしきの
こわばりのじごてきなにんしきの
ちょっとしたかなしみなどを
こわばりのじごてきなにんしきのなかで

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詩「ルーニビに悲しみを入れて」

詩「ルーニビに悲しみを入れて」

神はペンキをこぼすのが好きだ
それにしても空間いっぱいの木棚に
大量の缶缶缶缶

一日が始まった

もぐれ

広範囲に悲しみのひだが展開された
ぼくの表面積と
世界が一致した

だから もぐれ

痩身の その
人型の精神は きみを襲う 
これから

ぼくにはわかるよ



ほら

だから もぐれ

指は 右が下 左も下

鉱脈を探し当てる旅だ
もちろん
死ぬ

だから もぐれ

当てたって 死ぬ

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詩「どう思う?」

詩「どう思う?」

実のところ心に雨など降りはしない
溶けてく夜を冷やす僕
ふーってする、ふーって
君を狙おう下腹部の上
それほど冷えはしない
いじわるでしかないでしょ
かたまるこりかたまるかたまり
ほぐしたり、かためたりが僕
胃にからん とくるやつが夜
噛まずに飲み込まされるもの
としての、ふたりの、夜
人工的電子的幽霊的存在
としては
現代もいる夢追い人
君を狙おう下腹部の上
ラブソングを歌いたいやつが
ェラ(ゥ

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詩「デッドビート/ショートソング」

詩「デッドビート/ショートソング」

そうか、だから
君はアーケードを走る
(季節よ死んで行け)
尺尺尺尺尺春尺尺尺!
カフェでひといき、とか
ひとつの煙筋を眺め切ることもなく

でも、お茶を飲もうか。

アーケードを走る
尺尺尺凍れ夏尺尺尺尺いくよ尺!
でも未だ春風のせせら笑いは
君には聞こえない
だからか
アーケードを走り続けられる!
尺尺尺
尺 尺尺尺
尺!

夢と胸と透明玉を、膨らませて。

歩くことなく
額に(も) 汗
この

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