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ミナベ2.0

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半年くらいサボって後また書いてる詩集。基本恋愛しか興味ないです。
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記事一覧

詩「思想史:春」

詩「思想史:春」

ナツメグを振る右手を思い出す石段
笑顔だった
振る右手 胸元を
遠い昔のことじゃあなかった
ハンバーグ 肉 彼のことを
無責任な 白い糸
魁の肉塊
生意気な言葉ばかりを
思い出しついでに消していく
3歳児の世話をしている夜明けに
ギザギザの少しの歯に
当てる空想は具体的
やはり肉
ふ ふふ ふふふふー ふふ
鼻息に気がついておさめるのだ

ふん う
うううーうう う
重ねるのだ 泣き顔ばかり

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詩「卵朝」

詩「卵朝」

割れている卵がすべて
語っているような気がした朝のことです

その前の夜をつたって夕方にたどり着くと
ふわり 眼前の風に似た匂いが

記憶 落ち葉 その類
頬杖 榊 引いた籤

さざなみの中で君が言います
「ここは井戸なの とても深い」

季節の緑は濃いはずだった
忘れられてる窓際の熊

切符いらずの旅の終わりに
指をちぎってふたりで食べた

物語は喪失から始まり
失ってはいけない物語がある

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詩「夕暮れは十五年後に見直す」

詩「夕暮れは十五年後に見直す」

夕べに許された例がない
だから朝は涙に濡れている
コーヒーの湯気はもう出口がない
この部屋には空中も文字だらけだ
窓を開けている

ひとつ
毛布に包まりながら
下流の砂みたいに報告を
もう少しで息はとまる
だから聞いてくれないだろうか

ぼかす癖
氷菓子
季節外れの何もかもを
あなただからとうけとめて
冷蔵庫から卵を取り出す

わたしは
かたくなったスクランブルエッグ
弾みきらない会話
予想された

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詩「角待ち街唄」

詩「角待ち街唄」

夕べに音を聞いたんだ
あれはストリート
ミュージシャンの居場所で
その日は誰もいなかったのに
あの角では確かに草木が揺れた

街中の言葉が流れ込むようだった
丸い耳が少し毛羽立った
雑踏にはまるで
情緒を解さない人間ばかり
バスがそれを吸い込んでいき

音は 明滅した
その中には確かにてのひらを
叩く音がした
小さな男の子の手だ
それを握るお母さんの目のとじひらき

フラッシュシーンが流れ落ちてく

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詩「ラテラル・デイ」

詩「ラテラル・デイ」

今日わたしが死ななかったなら
明日はスタバにラテ飲みにいこう
死ぬ予定があるの
特に ないよ
雪が降り続くだけ

そうやって親指と
薬指で話していた十二月は
静かな知らせを待って
少し表情を変えた
いや 変えた気がした

部屋のテレビからは
関係のない笑い声が
漏れ続けているため
密かな行為の連続は
能天気な雰囲気の中

わたしが死ななかった明日
能天気なラテは
煙り続けた
私が死んでしまった明日

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詩「そうだねえ 冬」

詩「そうだねえ 冬」

滅びたのは ぼく
丁寧に編み込まれた布片
のこされたもの
そこらじゅうの窓辺では
だらしなく煙る水滴が
ワイパーによって薙ぎ払われていく
ぼくのTシャツみたいだ
擬音が入る余地もなく
きみの乳房を吸わせてほしい
指先から指先までで
ぼくらが歩いた日々をはかる
割れそうな爪が朝を呼ぶ
泣きそうなきみに生を還すが
毎朝起きれば大海が
まばたきの旅に花を添えた
そうだねえ 冬
心凍りつく 別れであった

詩「水槽は実に丁寧に清掃されている」

詩「水槽は実に丁寧に清掃されている」

水槽は実に丁寧に清掃されている
呼吸を続けるわたしは
手の先から水になっていく
すう と
ぱら と

水槽は居心地が良かった
蛍光灯の明かりがわたしを
幾重にも折り重なり
通り越していった
端っこだけ手を繋いだ

しかしこの部屋には音がない
完ぺきな音響設備が
整っているというのに
(やれ歌ってやろうか)
そそのかされずとも 声は

また清掃される
また清掃される
わたしの番はここまでだ
唾でもは

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詩「もぐりくるものがたり」

詩「もぐりくるものがたり」

わたしは
海だ
ある日そこに死を見つけた
砂の中には銀河
みたいなことを言う
あなたみたいなひとが
好きな
わたしは
ブランコに
乗る
海だ 海だ
崖が崩れ落ちていく
言葉は葉
秋の葉
落葉
わたしは
すう のだ
砂の中の銀河は
するすると するすると
乾く 乾き切る

スノードームの憧憬

あなたに「もういいかな」と聞く
わたしに「そうだねまた」と言う

塵は積もって
海に溶けた

わたしに潜っ

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詩「某青」

詩「某青」

エッフェル塔みたいな
地元の塔で
あの日のペットボトルを落とす
真冬の道で
身体いっぱいを水にひたす想像をした

それは
手元の時計の針が
いい形をした時間だった
草木はずっとずっと歌っていた
青い日が目に見えて昇っていく

プールのゆらゆらは
あれ
光は
まるごと心と言っていい
それくらいの複雑さの空虚

やってくる電車の窓 窓と
わたしの眼鏡
携帯電話と携帯電話
すす 
 と吐息が線を引く

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詩「夜と素晴らしさ」

詩「夜と素晴らしさ」

どうせ素晴らしいものをそろえて
どうせ素晴らしいものをそろえて
きみときみの唇をのせて
くだらない夜が駆け出していく
パターンとパターンと口癖が
柔らかに前奏をはじめれば
ぼくはまた小麦の夢を見る
一面にその
麦の粒 麦の粒
のような思い出の断片
夕焼けなんてなかった
今日も昨日も一昨日も
くだらない夜は弱くて強い

どうせ素晴らしいものをそろえて
どうせ素晴らしいものをそろえて
ぼくの歌をただ聴

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