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投資が怖くて定期預金100%だったメーカー法務の女性が、投資信託を始めたきっかけは、趣味のアウトドアサークルとの出会いだった

少しずつ長期でじっくり投資に取り組む人たち(コツコツ投資家)の姿をリポートする、コツコツ投資家さんインタビュー。今回はメーカーの法務部門で働く、芦尾みずきさん(仮名・43歳)にお話をうかがいました。

みずきさんも、前著『臆病な人でもうまくいく投資法-お金の悩みから解放された11人の投信投資家の話』に登場したおひとり。約9年前にお話をうかがったときは、投資を始めてまだ半年ほどでした。それから9年ほど経ち、みずきさんはどんなふうに投資を続けてきたのか、心境の変化はあったのか--などを知りたくて、わくわくしながら、待ち合わせ場所である東京・銀座のカフェに向かいました。


――お元気でしたか。お仕事はお変わりなく?

みずき:はい。今も、同じ会社の法務部で働いています。

――お茶やボルダリングなどの趣味も続けているんですか?
みずき:コロナ以降、お茶のお稽古やボルダリングはお休みしています。コロナでテレワークになり、運動不足になったので、スポーツジムでトレーニングをしているくらいですね。最初の半年はパーソナルジムに通って、マシンの使い方やトレーニング方法を教えてもらいました。今はひとりで近所のスポーツジムに通っています。

屋久島の縄文杉に。筋トレをして「今なら歩けるかも」と思い参加。
往復22キロ、約11時間!
コロナをきっかけに、
マンションのベランダでトマトやバジルを栽培するように

企業型DC加入も7年定期預金に

――改めて、みずきさんが投資をはじめたきっかけを教えてください。

みずき:28歳のときに、新卒で就職した会社から今の会社に転職しました。入社時に、退職給付制度の一環として導入されていた、企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)について人事部の方から説明を受けたものの、制度も商品もよくわかりませんでした…。

当時は株は怖いものだと思い込んでいたため、運用商品は100%定期預金を指定。そのまま、7年間、放置してました。

漠然と将来に不安を感じてはいましたが、そのために自分で何をしたらよいのかがわからず、何もしないまま月日だけが過ぎてしまった感じです。

きっかけは勉強会への参加

――そこから、「投資する」という行動に移せたのはどうしてですか。

みずき:転機はネットで趣味のアウトドア関連の情報を収集していたとき、ある会(サークル)と出会ったことです。レンタサイクルを借りて都内一周に出かけるなど、定期的に面白いイベントを企画・開催していました。

参加者はあるメーカーのエンジニアの人たちが多く、何度か顔を出すうちに、その会社も企業型DCを導入していることがわかりました。しかも、半年に一度、投資の勉強会も実施してると聞き、参加してみることにしました。

ある日の勉強会では、課題図書を読んで、参加者がプレゼンする、みたいな感じでした。理系の人が多いこともあって、一人ひとりがパワーポイントを使って、「このポートフォリオ(資産配分)にした理由」「保有している商品やその商品を選んだ理由」「証券会社を決めた理由やそのプロセス」「積み立て投資のメリット」などを理路整然と語るので、圧倒されました。

――アウトドアサークルと思ったら、そんな勉強会まであるとはビックリですね。

みずき:はい。それまで実際に運用している人たちの具体的な事例を聞いたことがなかったので、「自分もやってみよう」という気持ちになりました。

定期預金から投資信託に預け替え

――具体的にはどんなことをしましたか。

みずき:まず企業型DCで、定期預金100%の状態を何とかしようと思い立ったのですが、パスワードを忘れてしまい、すぐにログインすることができませんでした(苦笑)。

パスワードの再発行をしてもらい、配分変更(これから積み立てる掛金の運用方法を変更)を行い、国内株式、先進国株式、新興国株式、外国債券の4つのインデックスファンドを25%ずつの設定にしました。また、定期預金を解約し、投資信託に預け替え(スイッチング)をしました。積み立てと同様、4本の投信に25%ずつ割り振りました。

せっかくやる気になったので、企業型DCだけではなく、2015年1月にネット証券に口座を開設しました。そして、国内株式、先進国株式、新興国株式、国内債券、先進国債券のインデックスファンドを、20%ずつ積み立てることにしました。

――配分と商品を決めたら、後は順調に続けられましたか。

みずき:当初は企業型DCとネット証券での運用をバラバラに捉えていたのですが、2015年7月に行われた「インデックス投資ナイト」というイベントに参加して考えが変わりました。

登壇者が「資産配分は金融資産全体で考えたほうがよいこと」「海外の株式に投資するインデックスファンドは、一般で販売されている商品に比べて運用管理費用(信託報酬)が安いので、DCでは優先的にそちらの商品を利用したほうがよい」と発言しているのを聞いて、納得したからです。

株式の割合を引き上げる

――そこからどんなふうに変更したんですか。

みずき:企業型DCの口座で運用する分についてはすべて先進国株インデックスファンドで運用することにし、預け替えを行いました。

ネット証券での運用法についても見直すことにしました。当時は投信の積み立てをはじめたばかりで、手元にある金融資産の大部分は預金のままです。投資に回しているリスク資産の割合は小さいので、ネット証券で積み立てている分も株式の比率を60%から85%に引き上げました。

――短期間のうちに色んなチャレンジをしましたね。

みずき:いえ、じつは投資をはじめるまでのハードルは高かったです…。本を読んでも、わからない用語がたくさん出てきて、正直、自分ひとりではわからないことがたくさんありました。

わからない用語を書き出しておいて、アウトドアの会のメンバーにメールで質問したり、次に会があるときに聞いたりと、すぐに教えてくれる人がいる環境にあったので、とても恵まれていたと思います。セミナーやおすすめ本なども、情報を共有化できるソフトウエアを使って、みんなで情報共有できるようにしていましたから。

現在の運用状況

――今はどのような運用をしていますか。

みずき:2020年1月に「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2019」の結果を見て、2020年2月から新規で積み立てる商品を「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」に変更しました。

2024年からの新NISAも、"オルカン"をつみたて投資枠で10万円、成長投資枠で15万円積み立てています。2015年から積み立ててきた投資信託は、そのまま保有しています。

――投信ブロガーが選ぶ!FOYは個人投資家など有志が手弁当で行っているイベントですね。投信の積み立て以外にも、投資はされていますか。

みずき:株式やETF(上場投資信託)も購入しています。例えば、VT(バンガード・トータル・ワールド・ストックETF)は下がったタイミングでスポット購入しています。

そのほか、個別株にも少しずつ投資しています。もともと個別株投資にも興味がありました。「コツコツ投資家がコツコツ集まる夕べ・女子部(→現在休止中)」という交流会に参加した時に、「まずは仕事やプライベートで興味・関心が持てるものや、応援したい企業を少額から買って、勉強しながら、コツコツ買い増してみては」と言われ、そういう観点で選んでいます。

日本株はイオンやカヤックなど3社の株を保有しています。購入してから、配当や株主優待を受け取りつつ、長期で保有しています。米国企業では半導体のNVIDIAの株式を保有しています。

対面取引口座を開設し、IPO(新規上場株)を申し込んだことも。こちらは購入したものは初値で売ってしまいました。

みずきさん【2024年の状況】
◆積み立て
NISA口座(つみたて投資枠・成長投資枠)

・eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)

◆スポット購入(特定口座)
・VT(バンガード・トータル・ワールド・ストックETF)
・日本株(イオンなど3社)
・米国株(NVIDIA)

◆保有(特定口座)
・日本株式インデックスe
・外国株式インデックスe
・eMAXIS新興国株式インデックス
・eMAXIS日本債券インデックスファンド
・ニッセイ外国債券インデックスファンド

みずき:2015年にお話をしたときは、投資を始めて半年ということもあって、金融資産全体でみたら、リスク資産の割合は8%程度でした。今は、安全資産(現預金)が48%、リスク資産(企業型DC含む)は52%になっています。

金融資産全体では安全資産(預金など)とリスク資産の割合は52%:48%。
円グラフはリスク資産の内訳(2024年2月6日時点)


――資産配分は企業型DCを含めたものですか。

みずき:そうです。

――リスク資産が全金融資産の半分を占めるほどになったのですね。

みずき:2015年にお話した時は、見様見真似で、投資という道を歩き始めたばかりでした。当時のリスク資産は金融資産全体からみたら8%程度ですから、たいした比率ではないのですが、それまで預金100%でしたから、最初はドキドキでした。

資産配分については、そこまでこだわりはありません。当初、預金の比率が高かったので、積み立てる分の株式比率を高めていったら、結果的にこうなったという感じです。きっちり方針を立てるというよりは、ゆるゆるやっています。

――投資を始めるきっかけにもなった企業型DCについては、その後、どう運用していますか。

みずき:2021年3月からマッチング拠出ができるようになったので、自分でも上乗せして拠出しています。現在は先進国株式100%で積み立てをしています。昨年末(2023年12月)に確認したところ、加入してからの運用利回りは年率9.08%。資産も3.5倍くらいにふえました。定期預金100%のままだったら、こんなにふえていないですよね…。

あと、2015年から従業員持株会にも入っています。100株単位で証券口座に移管でき、現在は自社株400株を移管しました。

投資にどのくらいの時間を充てているか

――ゆるゆるでも、続けられているのは素晴らしいです。今、投資に充てる時間はどれくらいですか。

みずき:ほぼ時間はかけていないです。半年に一度、6月末と12月末に資産の棚卸をしているくらいです。そういう商品を保有していて、どのくらいの金額になっているかを書き出してみるくらいです。

――商品のこだわり、基準はありますか。

みずき:一生懸命に勉強して知識をアップデートしていくタイプの真面目な投資家ではないので、「一般的にいいと言われているものはなんなのだろう」と思って、情報をみるようにしています。

例えば、先ほどの「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 」はサイトがあって、順位や得票数がみられます。それ以外にも、みなさんが「何かがいいと思って(この投信に)投票したのか」というコメントが載っているので、そうしたものは参考にしています。

友人との対話、お金の使い方

――アウトドアの会は今でも参加されているんですか。

みずき:以前は定期的に開催されていましたが、コロナになってからは集まれなくなってしまいました。ただ、その時に知り合ったうちのひとりと、6年くらい一緒に暮らしてます。

――えっ~!! それは驚きました。

みずき:考えてみたら、投資の勉強会などがご縁だったかな、と。

――家族やお友だちとお金の話をすることはありますか。

みずき:友人や会社の同僚とは投資について話す機会はまったくないですね。唯一「やってる?」みたいに気軽に話ができるのは「ふるさと納税」くらいでしょうか。

2015年からふるさと納税は継続。
毎年9月は恒例の桃。実家と自宅に届く

投資してよかったこと

――ゴールはどこにおいていますか。投資をしてきてよかったと思いますか。

みずき:私は具体的な目標額は決めていないです。ただ(前回取材を受けた)9年前を振り返ると、会社を辞めようとか、転職をしようかと思っても、当時の経済状況だと心許ないな、と感じていた気がします。

そういう意味では、今はキャリアを考える上で、自分が「何をやりたいか」というところに軸足を置いて、お金の部分はあまり不安に感じずに、行動できる状況になったと思います。すぐに会社をやめたいわけではありませんが(笑)。

あと、40代になって、健康維持や身体のメンテナンスにお金をかけるようになりました。筋トレしたり、定期的に歯の検診に通うようにしたり…。お金があっても、どこかに行ける体力や健康がないと意味がないですから。健康を意識した時に、躊躇なくお金をかけられるようになったは、投資をしてきてよかったことのひとつかもしれません。

編集後記

9年ぶりにお会いしたみずきさんは管理職となり、よりしっかりした印象に。また9年後に、お会いして続きをうかがいたいです。

一歩だけでも行動してみる
みずきさんは趣味のアウトドアの会に参加したところ、企業型DCを含む、投資の勉強会もやっていた、という偶然が重なり、投資を始めることができました。ただ、偶然ではありますが、ご本人が「会に参加する」「企業型DC口座にログインして商品を預け替える」といった一歩を踏み出したことがいまの着実な資産形成につながっています。最初の一歩を踏み出すこと、大事ですね。

最初はマネでもいい
そうはいっても、何から始めたらよいか、わからない人も多いでしょう。
そんな時はまずは経験者の人たちのマネから入ってもよいと思います。ただ、なぜそういう運用をしているのか、なぜその商品を選んだのか、といった背景を含めて理解できるとよいですね。そして、少しずつ勉強や経験を重ねるうちに自分なりの投資方針なども固まっていくのではないでしょうか。マガジン「コツコツ投資家さんインタビューまとめ」では、様々な投資家さんを取り挙げているので、参考にしてみてください。

税優遇のある制度では期待リターンの高い商品を割り振る
確定拠出年金(企業型DCやiDeCo)は原則60歳まで受け取れないため、多くの人は長期運用になります。また、運用益も非課税なので効率的な運用ができます。金融資産全体で考えた時、これから先10年、20年と長期間運用できるのであれば、DC口座では期待リターンの高いもの、具体的には株式(DCの場合には株式に投資する投資信託)で運用するのが合理的だと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました! noteの「スキ」ボタンをクリックしていただけると嬉しいです。今後もコツコツ投資家さんへのインタビューを続けていく予定です。ご意見・感想などがありましたら、お寄せください。取り入れていきたいと思います。

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