見出し画像

小さな小さなオルゴール

家にはおしゃれ座敷童子の檸檬れもんちゃんがいる。とても小さくて、少し使った後の鉛筆ぐらいの大きさだ。
ある日、その檸檬ちゃんが私にプレゼントよと言って小さな小さなリボンのかかった箱を渡してくれた。
「プレゼント?ありがとう!」
私はとても嬉しかった。でも 手の上に乗せられたものは老眼の私にはよく見えないほど小さい。 私は遠慮がちにたずねた。
「それでこれは何?」 檸檬ちゃんは気を悪くする様子もなく 得意そうになった 。
「それはね オルゴールよ。私が詰めてきた、とっても素敵な小さな世界の音楽が入っているの」
なんて素敵なものだろうと私は思った。しかし私の手ではそのプレゼントのリボンを解くこともできない。オルゴールのネジを巻くこともきっとできないだろう。 壊してしまうかもしれない。どうしようか?檸檬ちゃんに出してもらってネジを巻いてもらって蓋を開けてもらうしかないのだろうか?
私は嬉しいのと 困ったのとで戸惑った顔をして、しばらく黙ってそんなことを考えていると、さすが 座敷童子の檸檬ちゃんは私が何に困っているか お見通しだったようだ。
「口開けて」と私に言った
「え? 口?」
「あーんして」と檸檬ちゃんが言うので 私は檸檬ちゃんの前に顔を寄せて口を開けた。
檸檬ちゃんはそこに、手にしているミモザの花の一粒を千切って放り込んだ。
酸っぱい。ミモザじゃない。檸檬だ。檸檬味の小さなドロップだ。
すっいすっぱいすっぱい…
頭の中を酸っぱいという言葉でいっぱいにして私はその酸っぱさに耐えた。目をぎゅっと閉じて耐えた。
やがて酸っぱさが去ったとき、私は檸檬ちゃんと同じ大きさになって、檸檬ちゃんの目の前に立っていた。
「はい」
檸檬ちゃんは改めて私にプレゼントの箱を渡してくる。
「ありがとう」
私も改めてお礼をいって受け取る。
「開けていい?」
「もちろん」
私は黄色いリボンを解き、箱を開ける。中から四角いオルゴールが現れた。堅そうな木の真四角な小箱の蓋に細かい模様が彫られている。
底をみると小さなネジがある。私はそれをギリギリと巻いた。そして、そおっと蓋を開いた。

檸檬ちゃんの住む小さな世界の美しく小さな音色を聴いているうちに、いつしか私は元の大きさに戻り、檸檬ちゃんはいなくなっていた。私の前には小さな小さなオルゴールがぽつんと置かれていた。
私はそれをピンセットで用心深くつまみ上げて指輪の箱に入れて引き出しの中にしまった。
またいつか檸檬ちゃんと一緒に聴こう。あの美しい音を。

(了)


*山根あきらさんの企画に参加します

*座敷童の檸檬ちゃん


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?