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落花のまやかし【タケノコ×歩行者b× ミモザ コラボ】

今回はタケノコさん・歩行者bさん・ミモザの三人で「落花」をテーマにした詩や自由律俳句・俳句などを作り、それをもとにした文章を書きあってみました。
これはタケノコさんの詩から発想した短い物語です
まずタケノコさんの詩はこちらです↓

詩:落花の美学

桜の散り際にはつい死をダブらせる
しかし
花が散った後には新しい芽が息吹くことを忘れてはならない
散り際に死だけダブらせ美を感じてはよくない
花が散るのは新たな生のはじまりでもあるから
桜の散り際に死そして生をダブらせる
それが落花の美学

タケノコさん


「あと何回、桜を見られるかしら…
私、桜の下で桜が散るように死にたいな…」
彼女が桜の散る道を一緒に歩きながら、桜を見上げてそうつぶやいたので僕は腹を立てて立ち止まった。
とんでもない。
「何を言うんだよ。死んじゃダメだよ!
桜の花が散った後は、いせいよく葉が伸びるじゃないか。
みずみずしい生命力に満ちた葉桜の季節がやってくるんだ」
気色ばむ僕に彼女は高い声を上げて笑った。
「いやねえ。ちょっと西行の世界に浸ってただけじゃないの」
そういってスカートを翻し、落花の中を走り出した。
へんな調子を付けて西行の歌を口にする。
「願わくば~花のもとにて春しなん~」
むきになったことが恥ずかしくなり、すぐに彼女を追いかけられずに立ち尽くす僕は、でも。ほんとうだろうか、ほんとうに彼女は死と遠いところにいるだろうかと落花のせいで不安になってしまう。
早く追いかけなくちゃ。彼女が落花の向こうの世界に連れていかれてしまう。ほら花吹雪が僕の目をつぶそうとする。早く、早く、早く彼女をつかまえなくては…
僕はどんどん遠くなる彼女を追いかけて走り出したがまるで夢の中にいるように足が進まないのだった。
「願わくば~」
彼女の声が遠くなる。
だんだん鳥の囀りのようになってきらめいて遠くなる。
代わりに耳元をかすめる花びらがささやく。
あれはまやかしよ…あなたの彼女じゃないわ…
騙されちゃ駄目よ…黒鳥よ…
何を信じたらいいのだ?
僕はうずくまる。
しばらくして立ち上がり、落花の中をやっと走り出す。
花のあとの芽吹きを信じて。

(了)


*タケノコさんのコラボ作品はこちらです

*歩行者bさんのコラボ作品はこちらです


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