見出し画像

雪化粧の日のピクニック【シロクマ文芸部】

「『雪化粧カボチャ』で作ったポタージュなの」
彼女はそう言いながら、保温ジャーからとろりとした黄色いスープを紙コップに注ぎ入れ、僕に渡す。
最初に雪化粧と言われたから、なんとなく白いスープのような気がしていたので眉がぴくっとして、それを彼女に見とがめられた。
「何?」
「いや」
僕は正直に言うことにした。
「雪化粧って最初に言ったから、なんとなく白いスープのイメージが浮かんじゃって。カボチャだから黄色いよね、普通」
彼女は黙った。怒ったのではなく、白いカボチャスープについて想像しているのが分かったので僕もスープを手に黙っていた。
「雪化粧ってカボチャは皮が白っぽいんだけど、中も白いカボチャがあったら素敵。そっちのほうが良いね」
そういうと彼女は自分の分のスープも紙コップに注いだ。

今日のデートは雪化粧の公園でのピクニック。
彼女の提案だ。
この街では、うっすらとでも雪が降り積もるのは珍しいことだ。
彼女は朝早く嬉しそうに「雪化粧の公園でピクニックしよう!」と連絡してきた。
寒そうだなと思ったけれど、僕は彼女の誘いや提案は断らないことに決めている。彼女のことが大好きだし、彼女はへんなわがままは言わない。基本、わがままな人じゃない。それどころか今まではいつもわがままを我慢し続けてきたのが分かるから、僕は彼女にわがままを言わせてあげたい。
というわけで彼女と雪化粧の公園で待ち合わせたのだが、彼女は白いモヘアの帽子をかぶり、それとおそろいのようなマフラーと手袋、ベージュのウールのコートを着て、大きめのピクニックバスケットを手にして立っていた。
色白で丸顔の彼女は雪だるまみたいで可愛かった。
怒るだろうなと思ってわざと「雪だるまみたいだね」口に出すと、案の定彼女は「ひどい~」と笑いながら抗議して僕の腕を軽く叩いた。
そのまま手をつかまえて、広い公園の奥の四阿 あずまやまで、転ばないように注意深く歩き、彼女の持ってきた食べ物を広げたのだ。
彼女は「名前で選んだけど、雪化粧カボチャじゃなくて、牛乳で白いスープを作れば良かった」と少ししょげている。
カボチャのスープの他には、今まで見たこともない白いオムレツ(ちいさめ・中はチキンライス)、カリフラワーのグラタン(ちいさめ・エビ入り)、具の色が見えない真っ白いサンドイッチ(中身はスモークサーモンと薄切りキュウリとクリームチーズ)などに、お菓子は白いマカロンと小さいカップに入ったブラマンジェ。白尽くしのメニューだった。ちょっと白すぎる、けどまあ良い。
僕は雪化粧カボチャのポタージュスープを口に入れる。温かくてとても美味しい。カボチャの甘味で心がくつろぐ。
「全部白い料理である必要なんかないよ。グラタンもあるからこっちのほうが良い。カボチャの名前も良い。」
僕は彼女に言う。
「君がそもそも白くて雪だるまだし」
彼女はふくれて頬が少し赤くなる。
「顔が丸いし」と自分で言う。
「そうそう」
笑いながら僕は立ち上がる。
「ちょっと待ってて」
四阿を出て、通路脇の雪を集める。たいして集まらない。
でもそれをきゅっと丸める。もう一つ、丸める。手袋を外して、小石と小枝を拾ってそれに押し込む。
「はい」
僕は手のひらの上に乗せた小さな雪だるまを彼女に差し出した。
「君の子分」
嬉しそうに受け取った君の笑顔が公園じゅうの雪を溶かしてしまう、と僕は思う。
そうだ、帰り道で、来る途中の雑貨屋で見かけたシマエナガのぬいぐるみをプレゼントしよう。今日の雪化粧ピクニックの記念に。
いや、白いオコジョのほうがいいかな。
どっちがいい?と聞いたら君はすごく迷うだろう。両方!ってわがままを言ってくれたら嬉しいのに。

(了)


*小牧幸助さんの企画に参加しています。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?