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クラーク『幼年期の終わり』池田真紀子訳、光文社


ずっと気になっていた。SFの古典的傑作だというこの小説。なんで「幼年期の終わり」なのか。児童心理学みたいな不思議な題名だ。いつか読んでみないとねーと思ってはや数十年。やっと手に取ったかと思ったら、数ページ読んだあと家の中でしばらく行方不明になっていた。なかなか読めないものである。やっとベッドの隙間に発見して、今回めでたく読むことができました。

ところで、わたしはSFというジャンルにはちっとも興味がないので、(あ、もちろん『スローターハウス5』とか『夏への扉』はSFと呼ばれているかもしれないけれど大好きだ。普通の文学としても充分以上に面白いから。)正直なことを告白すると、『幼年期の終わり』を読んでもそれほど感銘を受けなかった。純粋なSFファンはたぶんそこに描かれる未来世界の詳細がいかに斬新かに注目するのではないか。わたしはそういうことにあんまり興味が持てない。科学マインドというものがないのである。

この小説は、核戦争やら動物虐待やらを続けている人類の星、地球に「オーヴァーロ―ド」と呼ばれる高度な文明の異星人たちが訪れ、人類をどんどん文化的にしてしまう。もう戦争も犯罪もなくなり、地球はまったく平和な星になるのだ。結構なことだが、そうなると人類はどんどん鈍くなってしまう。芸術なども衰えるらしい。(ここらで芸術がキーワードになるのかなと思ったがそうではなかった。)

未来社会を想像するのは難しいだろうな。作家が頑張って想像したことなど10年もたてば古くなってしまう。この小説も、工場はロボットが動かしているというのはよいとしても、そこで人間がやるのは「意思決定やあらたな事業の立案」だというのだが、そういうことさえもAIがやってしまいそうな昨今である。それと、作者はこの時代は世界中が英語をしゃべっていると当然のように書いているけれど、今の英語帝国主義みたいな状況がそんなに続くと思っているなんて、単純すぎないか。

さて、そんな風に始まるこの小説だが、やがて「オーヴァーロード」にも彼らなりの事情があり、実は彼らよりもさらに高度な異星人に使われる存在らしいとわかる。まぁ、あらすじをばらすのはここまでぐらいにしよう。最後は地球は消えてしまうのだ(あ、言ってしまった)。

どうもよくわからないのだけど、この小説のどこが傑作と評価されているのだろうか。それともうひとつわからなかったのは、「幼年期」と呼ばれているのは具体的にどの時期なのか。オーヴァーロードに管理されていた時代か、それともそのあと地球の消滅までの短い時代なの? ああ、こんな感想を書いているわたしはやっぱり科学的なSFには向かない人間なんだろうなと思う。どうもすみません。ここらですごすごと退散しよう。



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