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猫好き、本好き。でも読んだ本を片っ端から忘れるので、忘れないように2021年から記録し…

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猫好き、本好き。でも読んだ本を片っ端から忘れるので、忘れないように2021年から記録し始めました。 どれも勝手な感想ばかり。おまけにネタバレありなので未読の方はご用心ください。

最近の記事

アリス・マンロー『イラクサ』小竹由美子訳、新潮社

さきごろ亡くなったカナダの作家、アリス・マンローの短編小説集。短編といえどもどの小説も長編の重みがあるという世間の評判どおりで、9つの短編を一気に読むのはたいへんな作業だった。9つを1冊にまとめないで3篇ずつぐらいで出版してもらいたい気がする。それぐらいの重厚さ。 マンローは「女は家にいて家族の世話をするのが当たり前」という時代の人で、実際彼女も作家になるという夢をもちながらも結婚して主婦をしていた時期が長かった。なので結婚生活を主婦の視線で(密かな性的出来事なども織り込み

    • 井坂洋子『はじめの穴 終わりの口』幻戯書房

      詩人井坂洋子の詩はドキリとするような凄みがある。その人のエッセイはどんなだろうと思って読んだ。思ったほどは過激でなく、凡人であるわたしでも充分共感できるものだった。でもやっぱり微妙に風変りで、魅力的だ。 スタイルとしては各章でまず詩を1篇引用し、その詩から思いついたことを思いつくままに綴るという感じで、文章にはきっちりとした構成はない。冒頭の詩の解釈らしい解釈も特にはない。そういうのもいい。引用した詩も有名大詩人(たいてい男性)ではなく、井坂がほんとに好きだったり面白いと思

      • クラーク『幼年期の終わり』池田真紀子訳、光文社

        ずっと気になっていた。SFの古典的傑作だというこの小説。なんで「幼年期の終わり」なのか。児童心理学みたいな不思議な題名だ。いつか読んでみないとねーと思ってはや数十年。やっと手に取ったかと思ったら、数ページ読んだあと家の中でしばらく行方不明になっていた。なかなか読めないものである。やっとベッドの隙間に発見して、今回めでたく読むことができました。 ところで、わたしはSFというジャンルにはちっとも興味がないので、(あ、もちろん『スローターハウス5』とか『夏への扉』はSFと呼ばれて

        • メイ・サートン『独り居の日記』武田尚子訳、みすず書房

          ものすごーく久しぶりに読むメイ・サートン。『夢見つつ深く植えよ』がよかったことは記憶しているが、その内容はほとんど覚えていない。さらには、昔つけていた読書記録によればわたしはサートンの本をけっこう読んでいたのだ(完全に忘れていた!)。『猫の紳士の物語』、『今かくあれど』、『82歳の日記』(これは死の前年の日記)を読んでいた。今回の『独り居の日記』は著者が50代のときのものだから、順番を無視して読んでいるわけだ。 以前読んでいたときは意識していなかったが、この人は若い頃にヴァ

        アリス・マンロー『イラクサ』小竹由美子訳、新潮社

        • 井坂洋子『はじめの穴 終わりの口』幻戯書房

        • クラーク『幼年期の終わり』池田真紀子訳、光文社

        • メイ・サートン『独り居の日記』武田尚子訳、みすず書房

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        記事

          石垣りん『詩の中の風景』中公文庫

          この本、よかったなぁ。思ったよりもずっとよかった。やっぱり石垣りんはいい。 著者が個人的に好きな詩を取り上げて、その解説、というよりも個人的な思い出を書き綴っている。取り上げる詩は秋谷豊、山崎栄治、藤原定など、詩人として現在はそれほど有名ではない人もけっこういる。派手な詩はない。難解で高尚(そう)な詩も全然ない。どれも詩人であり人間である石垣りんにとって大事な、すでに自分の血肉になった詩ばかりなのだろう。 2篇を書き写す(オリジナルは縦書き)。 「樹のしたで」  大木実

          石垣りん『詩の中の風景』中公文庫

          アガサ・クリスティ『三幕殺人事件』中村妙子訳、新潮文庫

          クリスティの推理小説は安心して読める。間違いなく面白いし、不快な描写もないから。春のせわしない気分の合間に読むにはぴったり。それに大戦間期の作品が多いから、当時のイギリスの雰囲気がよく伝わるのも魅力なのだ。 翻訳は中村妙子さん。こちらも安心して読めるけれど、「~ですわ」「~しましてよ」などの女言葉がいまとなってはかなり古めかしい。ほかの翻訳者のものも読んでみようかな。田村隆一訳とかどんなだろう。 解説によれば、クリスティの推理小説の共通点のひとつに「若い恋人たちを見守る」

          アガサ・クリスティ『三幕殺人事件』中村妙子訳、新潮文庫

          岸本佐知子ほか『「罪と罰」を読まない』文藝春秋

          著者を「ほか」としてしまったが、正確には岸本佐知子、三浦しをん、吉田篤弘、吉田浩美。この4人がある日、『罪と罰』を読まないで、それがどんな本か推理しようという変な企画を思いついた。そんなの無理でしょと思うけれど、これほど有名な小説だとまったく読まなくても、たとえば主人公はラスコーリニコフという名前だとか、ソーニャという女性が出るらしいとか、金貸しの老婆を殺す話だなど、何らかの情報が耳に入っているものだ。そこから想像を広げていく。でもやっぱり無理っぽい気がするが…。 お助けの

          岸本佐知子ほか『「罪と罰」を読まない』文藝春秋

          青山南『本は眺めたり触ったりが楽しい』筑摩書房

          久しぶりにすごく楽しいエッセイ本を読んだ。内容は、本をめぐるあれこれ。具体的な作品名もあちこちに出る。後書きによると雑誌のコラムをまとめたものらしい。十数行ごとの短い文章が並び、間に数行の空白がある。短い断章がなんとなくつながっている感じだが、この空白がとてもいい効果を出していて、「そうだよねー」と思いながら、のんびりと読み進むことができた。 本を読むスピードの話。拾い読みの効用。ダイジェストとオリジナルの関係(そもそもオリジナルとは何か)。カバーをかける人、取る人。ひとつ

          青山南『本は眺めたり触ったりが楽しい』筑摩書房

          ジョイス・キャロル・オーツ『ジャック・オブ・スペード』栩木玲子訳、河出書房新社

          品のあるホラー小説を書く作家アンドリュー・J・ラッシュには、実は心に秘めた暴力性があり、最近では家族にも黙って匿名作家「ジャック・オブ・スペード」としてもホラー小説を書いている。こちらの方は、マッチョで、品性がなく、やたらと残虐に人が殺されるのだ。あるときラッシュが近所に住む素人作家の老婆に「自分のアイディアを盗んだ」と訴えられたのをきっかけに、彼の中で「ジャック・オブ・スペード」の声が大きくなっていく…。つまりこれはジキルとハイドのような人間の二面性を描いた小説なのだ。

          ジョイス・キャロル・オーツ『ジャック・オブ・スペード』栩木玲子訳、河出書房新社

          丸谷才一『輝く日の宮』講談社

          贅沢な小説だなぁと読み終わって嘆息した。日本文学の若手研究者である主人公の安佐子と、その恋人で有能なビジネスマンの長良の恋愛が中心になっている小説だ。安佐子の研究ネタである『源氏物語』がこの恋愛にだんだん重なってくる。安佐子は紫式部に、長良は藤原道長に、さらには光源氏に…。 『源氏物語』の数々の巻の中で、かつて存在していたらしいのだが、どういうものだったかわかっていない巻、「輝く日の宮」。研究者の安佐子はこの謎の巻について大胆な主張をする。学会では権威のある学者たちから冷笑

          丸谷才一『輝く日の宮』講談社

          西加奈子『通天閣』ちくま文庫

          織田作之助賞大賞受賞とのこと。なんとなく大阪に興味があって買った本である。薄いし、バッグに入れて電車で読むのに最適だ。ところが読み始めて困った。ちっとも面白くないのだ。 二人の語り手が交互に自分の生活を綴っている。ひとりは離婚した中年男。工場で働いている。ひとりは恋人と離れてしまった若い女。水商売に片足を入れている。どちらも貧乏。そのわびしい生活がリアルに描写される。水商売の下品さ、あほらしさ。痰を吐いたり、ゲロを吐いたりまで。 ほんとに面白くないし、楽しくないので読むの

          西加奈子『通天閣』ちくま文庫

          平野啓一郎『ある男』文春文庫

          映画を見てから原作を読んだ。両者にいろいろ違いがあるのは当たり前だが、原作がやや情報過多なのに対して、映画は部分的に変えながらうまくまとめていると思った。 とても面白い内容である。殺人者の息子である男が、生きるのが辛くて別人と戸籍を交換し、その人となって別の人生を生きる。出身や家族や悩みなどの情報も自分のものとする。なるほど、今の人生をキャンセルして、乗り換えたいと思うこともあるのかもしれない。主人公は事件を調べる弁護士の城戸だが、彼は在日三世で日本に帰化しているので、これ

          平野啓一郎『ある男』文春文庫

          J. M. クッツェー『モラルの話』くぼたのぞみ訳、人文書院

          「モラルの話」ってどういう意味だろう? ちょっと構えながら読み始めたら、最初の短編「犬」はわりと軽めだった。ある家の前を通るたびに大声で吠えかかる犬がいる。飼い主に話をするがまったく聞く耳を持たない。犬はきっとこちらの恐怖の匂いをかぎつけているのだろうと主人公は思う。こういう体験をした人は多いだろう。こうして人を恐怖させていると知りながら、平気でいられる人間がいる。 そのあとは年を取った女がこの先どのように暮らすかという話が多かった。エリザベス・コステロ(クッツェーの作品に

          J. M. クッツェー『モラルの話』くぼたのぞみ訳、人文書院

          岸政彦『にがにが日記』新潮社

          岸さんが仕事や飲み会で超多忙な日々の合間に書いた日記。想像したまんまの日常だ。張り切って仕事したり、来る仕事をどんどん引き受けてしまって鬱状態になったり、好きな仲間と徹夜に近い飲み方をしたり、猫を猫かわいがりしたり、死んだ猫のことを思い出しては泣いたり、ライブで演奏したり、奥さんとだべったり散歩したり飲んだり。ところがそのうちコロナで自粛ということになり、あの岸さんでも一日家に籠るようになる(驚き)。でもそのうちちょっと抜けだしたりする。そして最後は「おはぎ日記」。22歳で認

          岸政彦『にがにが日記』新潮社

          谷崎潤一郎『台所太平記』中公文庫

          谷崎家で雇っていた代々の「女中」さんを題材にしたフィクションである。この女中さんたちがみな個性的でパワフルなのである。雇われている身でありながら、けっしておとなしくはしていない。主人である磊吉(谷崎自身)もたじたじだ。文章もコミカルだし、マンガのような挿絵もおかしい。(この挿絵、磊吉はなぜかいつもウサギの着ぐるみ(?)をかぶっている。)これを読むと、文豪谷崎潤一郎のイメージがかなり変わるかもしれない。 女中さんたちの性格だけでなく、容貌や体つきも細かく観察しているのは、やっ

          谷崎潤一郎『台所太平記』中公文庫

          トニ・モリスン『青い眼がほしい』大社俶子訳、早川書房

          トニ・モリスンの『タール・ベイビー』に感心して、この第1作も読んでみたら、これがまた素晴らしかった。『タール・ベイビー』は登場人物の設定が新鮮で、まったく新しい黒人文学が登場したなと思ったが、それに比べて第1作である『青い眼が欲しい』は何人かの黒人の群像劇で、それぞれの人がどのように不幸だったのか、それぞれの物語を書いている。と言うと、従来の黒人文学ではないかと思うだろうが、構成、文体、描写がさすがトニ・モリスン、なのだ。 登場人物の中では「わたし」という少女が一番幼く、一

          トニ・モリスン『青い眼がほしい』大社俶子訳、早川書房