見出し画像

ビジョンとの乖離がエネルギーを生む「創造的緊張」/日常で役立つコーチング心理学#3

こんにちは。コーチのすぐです。普段はデジタルプロダクトのデザイナーをしながら、人の可能性に向き合うプロコーチとして活動し、滑らかで本質的変容とは何かを探求しています。

前回は、人が変われないメカニズムを洗い出す「免疫マップ」について解説しました。

今回は、組織学習の第一人者であるピーターセンゲが著書「学習する組織」の中で提唱された「創造的緊張(クリエイティブテンション)」について解説します。




創造的緊張とは?


創造的緊張(クリエイティブテンション)とは、ビジョン(理想の姿)を描くことで、現実とのギャップが生まれ、その乖離を創造的エネルギー源と捉える考え方です。

例えば、ゴムのバンドを引き伸ばし、下を現実と捉え、上をビジョンと捉えれば、その間には緊張が生まれます。これが創造的緊張です。

創造的緊張(クリエイティブ・テンション):玉川大学通信より


私たちは緊張が生まれれば、必然的にそれを解消したくなります。

よって、ビジョンが達成できるかではなく、ビジョンと現実を比較した上で、今何をしていくか?と捉えることが大切です。気づきを得た上で行動を生み出し、初めて人は成長し変化していけるのです。

「問題はどんなビジョンかではない。ビジョンがどのように機能するかだ」

学習する組織(P211)より


コーチングに見るビジョンを明確にする問い

コーチングの問いかけによくあるのが、制約を外して理想を聞く問いです。例えば、

「もし何の制約もなかったとしたら?」
「もし100億円あったら?」
「何でも叶う魔法のステッキがあったら?」

というように、制約を外して理想を聞く問いかけをすることで、ビジョンを思い描き、今の現実と比べて気づきを得て、行動に落とし込むことができます。シンプルですが、とてもパワフルな問いです。

人に語ることで、それがありありとイメージされ解像度があがるため、自分の頭でぼやっと考えるのではなく、好奇心を寄せて聞いてくれるコーチや上司、家族や友人の存在はとても貴重な存在となるでしょう。

しかし、理想を思い描く上で、陥ってしまう課題もあります。

創造的緊張の落とし穴

著者のピーターセンゲは、創造的緊張が生まれた時に、取りうるアクションとして、以下の2つがあると述べています。

1. 現実をビションに引き上げる
2. ビジョンを現実に引き下げる

この時に、「創造的緊張」と誤解されるものを「感情的緊張」とセンゲは区別しています。

ゴムを引っ張った時に、ビジョンではなく、現実に引き戻されるのが多くの人に起きている現象です。

組織コンサルタントのロバートフリッツは、心から望むものを想像する時、ほとんどの人にそれを制限する否定的な思考に「自分は無力である」「自分には価値がない」という2種類の思い込みがあることに気づきました。

(彼は、音楽家、作曲家、作家、映画製作者、そして世界有数企業に対する組織コンサルタントでもあります)


このような否定的な心情が、ビジョンへの行動を妨げるのです。これが「感情的緊張」です。

つまり、ビジョンを思い描き、そのギャップを埋める努力をする代わりに、否定的な無意識な心情に逆に引っ張られると、クリエイティブテンションを活用できない状況になります。

「創造的緊張(クリエイティブ・テンション):玉川大学通信」の図を活用


このような無意識な思い込みは、誰にでも起こりうると考えています。例えば、5歳くらいの子供に将来何になりたい?と聞くと

「スーパーヒーローになりたい」
「スポーツ選手になりたい」
「Youtuberになりたい」

というような言葉が返ってきそうです。私たちはその回答に微笑み、応援することができるでしょう。

しかし、20歳ぐらいの青年が

「一流の経営者になりたい」
「現代の魔法使いになりたい」
「スターウォーズのジェダイマスターのようになりたい」

と言ったとしましょう。

もちろんそれを心から応援する人もいそうですが、

「いやいや、まずは社会に出てから語ろうよ」
「働いた経験もないのにそんなこといってんじゃねーよ」
「魔法とかフォースとか言ってないで、まずは人の役に立とうね」

というような声が聞こえてきそうです(これは書き手である僕の頭の中に潜む妨害者の声であり、フォースの暗黒面なのです)


真実を語り、それでも進んでいく

このように、僕らは社会で生きていくうちに、無意識な思い込みが形成されます。ですが、これは一概に悪いとも言えなそうです。生きていくうちで、何かから自分を守る上では大切な声でもあるとも捉えられるからです。

しかし、自分のビジョンに向かう上では、この無意識の思い込みを自覚した上で、それでも自分が歩みたい人生を自覚的に選択し、一歩ずつ一歩ずつ進んでいく必要があるのではないかと思います。

ピーターセンゲも、この「創造的緊張」と「感情的緊張」の対立構造に対処する戦略としては、拍子抜けするほどシンプルな「真実を語ること」だと述べています。

要するに、ディケンズが言いたいのは、どんなに盲目的で偏見に満ちた人間であっても、人生にはつねに真実を見るという選択肢があるということだ。そして、その選択肢に応じる勇気があれば、自分自身を根本的に変える力を得られることだ。もっと古典的な宗教の教えで表現すれば、真実を通してのみ私たちは恩寵に至るのである。

学習する組織(P222)より

ビジョンを思い描き、より具体的に改善目標を定め、それを留めるブレーキや信念を炙り出すには、前回解説した「免疫マップ」を活用するのもおすすめです。

改善目標と阻害行動を書き出し、その裏に潜む強力な固定概念を洗い出すことができる強力なツールです。


ビジョンがなかなか見えなかったり、人間関係や自分の中で葛藤がある場合は、コーチの存在を頼ってみるのもよいでしょう。

一度きりの人生だからこそ、あなたの生きたがっている願いが、人生という旅を通して紡がれますように。



Twitterでは、日々コーチングに関する学びをシェアしています!

今後も日常で役立つコーチングにまつわる背景理論や心理学をお届けするので、記事のいいねやシェアをしていただけると嬉しいです。

過去の記事がまとまっているマガジン


コーチングを受けてみたい方は、こちら


いただいたサポートは健やかな生活と、人生の探求の道に使わせていただき、noteでその記録をお届けします。