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解約体験にこそ企業姿勢が現れる

先日1つのサブスクを解約したのですが、その手続きの体験が良くなかったので、なぜそうなってしまったのかをモデリングして考えたいと思います。

サブスク解約で感じたこと

自分が解約したのは衣料品のサブスク。そもそもサブスク契約をしようと思ったのは服の買い方が変化したからでした。

まずコロナ禍を経てネットで服を買う機会がかなり増えました。というのも多くのECサイトは簡単な身長と体重を入力するだけで、適正サイズを教えてくれる機能が提供されたからです。

https://zozo.jp/multisize/

これにより自分のサイズ選びの失敗がぐっと減って「ネットで選んだほうがラクだ」と心境が変化していきました。

とはいえ、たまに服選びで失敗します。商品が届いてから「あれ、違う」と感じることもあり、実際に来てみないとわからない着心地や素材の質感を写真だけで把握するのは不可能なので、サイズ選びで失敗はなくとも着た感じや着心地で違和感を覚える失敗は起きていました。

そんな経験から、以前より気軽に服を変更できる服のサブスクが便利ではないかと感じていましたが、以前に調べたときは月額料金が高いイメージがあって敬遠していたのです。しかし最近、改めて調べてみると月額料金が意外と安い。

「あれ、これ良いんじゃない?」と思ってとりあえず契約してみました。

しかしこの安易な契約が大失敗で、契約したサービスが自分の使い方では全く合わず、契約したその日にもう解約しようと思ってしまったのです。

解約したいと思った一番の理由は結構高い。例えば配送料やアイテムの保持期間など、そういった要素が絡んでくると、サブスクの表示料金よりも実際には高くなってしまいます。その状況で服一着にかかるコストは、自分がこれまでかけていた服のコストより高くついてしまうことがサービス利用して初めて気づいたのです。

これは自分のサービス利用するケースなので、便利に使っている人もいることも理解できます。まぁ、自分はこのサービスの顧客じゃなかったというだけです。もっと検討してから判断すればよかったなと反省しています。

というわけで、明確に自分に不要なサービスであることが早期にわかったのが不幸中の幸いで、そこから「解約しよう」と動き出します。


解約体験はなぜ大切にされないのか?

さて、いざ解約となると契約と同じくらいサクッとできることを期待してしまうわけですが、これがそうはいきませんでした。正直「もう、面倒くさい!」って感じで手続きをして、やっと解約できたというイメージです。

煩わしさを感じた理由が、手続きを1つ進めるたびに引き留められるからです。解約のための情報入力を進める度にクーポンやら特別プランの提示やらが表示されます。しかし解約の決意が固まった自分には余計なお世話でしかない。複数回の引き留めを振り切ってようやく解約できました。

個人的にはこの解約体験を通じて、このサブスクの印象は悪くなりました。

契約時のスマートさに感動したからこそ、簡単に解約させない企業姿勢に「これは嫌がらせなのか?」と感じてしまうわけです。この解約体験の設計は100%サービサー側の都合によるものがわかってしまうので、かなり白けました。

そして解約体験が悪いと2度と同じサービスを使いたいとは思いません。

間違ってもこのサービスを周囲には薦めないし、逆にやめた方がいいとアドバイスするかもしれません。これは改めて考えると非常にもったいないと思います。

サービサーはなぜ解約体験を悪くするのか?

ここまでユーザー目線でサブスクの解約体験について説明してきましたが、解約体験をモデリングするためにサービサーの立場からも解約体験が悪くなる理由について考えてみます。

サービスは「カスタマーセントリック」であるべきだと考えています。だからこそ多くの企業は契約体験をよりスマートに快適にしようと努力をしています。それならば解約体験を良くするためには、手続きの簡素化や利用者側に沿ったサポートを充実させて、利用者が円満に解約できるよう努力すべきです。

当然そんなことはサービサー側もわかっていることです。それをしないのは、あえて解約させづらい体験設計をしているからです。なぜ解約体験になるとカスタマーセントリックを徹底できないのか?

これは一言でいえば両者のニーズや行動が「対立している」からです。

まずサービスを利用する時の契約体験は「サービスを使いたい」と考える利用者と「サービスを有料で使ってもらいたい」と考えるサービサーのニーズがマッチしています。

しかし、サービスをやめる時の解約体験は「サービスの利用停止したい」と考える利用者と「サービスを継続してもらいたい」と考えるとサービサーの間でニーズが対立しています。

対立構造によって、解約体験が悪くなってしまうわけです。


体験によりベクトルが違う

良い解約体験は可能

それではサービサーは良い解約体験を提供することは不可能なのかと言われれば、そんなことはありません。実際に優れた解約体験を提供しているサービサーも存在しています。

例えばNetflixはあっさり解約することが可能です。公式サイトでもちゃんと簡単に解約できますと説明しています。

Netflixの手続きはとっても簡単。面倒な契約や拘束は一切ありません。たった数回のクリックで、オンラインで簡単にキャンセルできます。キャンセル料金は一切なく、アカウントの開始やキャンセルはいつでも可能です。

https://www.netflix.com/jp/

このことからも「解約体験が良い企業と悪い企業が存在している」と考えることができそうです。

解約体験をモデリングする

どの企業も自社サービスを解約してほしくないと考えている一方で、解約をするユーザーを引き止めずに、むしろスマートな解約体験を設計する企業が存在している。

解約体験に対する企業姿勢の違いを分析してみると、この動機がわかりそうですので、解約体験の設計で企業姿勢が対立している構造をモデリングしていきます。

今回は、この対立構造を表現するのに便利なTOCクラウドを使いました。

整理したTOCクラウドの結果はこちらです。

TOCクラウドによる対立構造のモデリング

図の見方は、このようになります。

  • 共通目的:一番左の2つの矢印が入ってくるボックス

  • 要望  :共通目的に向かう矢印が出ている2つのボックス

  • 行動  :要望に向かう矢印が出ている2つのボックス

上の行動が解約体験を大事にするUXデザインです。下の行動は体験よりも解約自体を防ぐUXデザインとなっています。この2つはどちらを優先しているかによってとるべき行動が違っていて、対立しています。

そして、この行動の差が解約体験の違いとなって表れています。

行動して違う解約体験を提供している理由は、それぞれの要望が違うからです。どちらの解約体験でも共通目的は「企業として存続する」ことになりますが「お客様を大事にする」か「利益確保を大事にする」かで、解約体験のUXデザインが大きく変わるのです。

つまり、目的を達成するための行動が真逆であることが対立構造として表現されています。なお、これは目的達成のために両者ともに大切だと思っているため、どちらの行動が間違っているわけではありません。

厄介なのは、両者ともに間違っていないからこそ対立が問題構造として表れてくることになります。

解約体験の対立構造が起きる理由とは?

この対立構造として表れている違いは、顧客満足度か利益確保のどちらを重視しているかということであり、これによって解約体験も異なることが分かりました。

まず利益がなければ企業は存在できないため利益確保を重視するのは理解できます。では顧客を第一に考える企業は存続できるのでしょうか。

もちろん顧客を大切にすることも重要です。なぜなら利益は顧客を大切にした結果として得られるものだからです。

顧客満足度を意識するのは、利益を意識するよりも長期的な目線でビジネスを考えていることになります。

このお客様を大事にする姿勢は再契約してもらえるための配慮です。解約体験を良くするのは、次もサービスを使う機会がある時に自分たちのサービスを選んでもらいたいからですし、サービサーとしても自社サービスに自信があるからこそでしょう。また解約体験がスマートであれば、解約者によるネガティヴキャンペーンを予防する効果もあります。

つまり解約体験を良くするのは長期視点で考えれば、騎乗存続のためには非常に優先度が高い取り組みです。そう考えると、多くのサービサーは良い解約体験を提供すべきだと思っているはずです。

しかし、目先の利益がないと事業が継続できなくなるので、そんな悠長なことを言ってられません。

利益が大事となれば解約は絶対に避けたいわけです。

だから再契約やネガティブキャンペーンの影響といった長期的な可能性は考えずに、目の前の利益確保のためのUXデザインを優先させます。そこに顧客が気持ちよく解約体験してもらうかの配慮は重要にならないわけです。

このことから、解約体験による企業姿勢の差は経営体力に関係しているかもしれないなと推察できます。企業として余裕があれば、解約体験を良くすることができるが、そんな余裕がなければ解約体験を良くするところまで手が回らないわけです。

このジレンマを解決できるのか?

今回はモデリングによって、解約体験の差から読み取れる対立構造を明らかにしてきました。

「これだけわかっても、この問題はどう解決したらいいの?」ってなりそうですが、問題の多くは現状把握できないところにあるので、今回のように構造化ができれば解決策を考えることができます。

ということで解決策については、別記事でまとめたいと思います。ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

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