連載小説 砂上の楼閣1
『計画』1
「もう!誰よこれ!」
札幌大通の地下駐車場で、松永清香(きよか)は毒づいた。
停めていた愛車アウディの右前方タイヤに五寸釘が打ち付けてあった。
明らかに誰かが意図的にやったと思われる。
「困ったな。タイヤ交換なんてやったことないし。」
雪国なので、夏タイヤと冬用スタッドレスの履き替えはある。
しかし大概は、ディーラーやガソリンスタンドに任せるのが一般的だ。
昔のようにジャッキー片手に自分で交換することは、今はほとんどない。
『これは酷いですね。』
気付くとパンクしたタイヤの前で男が、しゃがみ込んでいる。
『スペア、積んでます?』
スペア?ああ、交換用のタイヤのことか。たぶん、リアのどこかに……。
『後ろ、開けて下さい。』
呆れた様に男はボディの後方を指差した。
ややムカついたが、状況が状況だけに素直に従うことにした。
男は手際良く後方からタイヤを探し出し、いつの間にか工具のようなものも用意してある。
『良かった。最近はスペア積まない人も増えたから。』
そう言いながら、あっという間に交換作業を終えた。
『これ積んどくんで、後で修理して貰って。』
パンクしたタイヤを後方に積みながら、男はそう言った。
「有難う御座いました。何から何まで。」
『災難でしたね。それじゃ。』
名前を聞く間もなく、男は消え去ってしまった。
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