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47歳、独身ですが何か問題でも?【第二話】

※こちらの作品は、カクヨム・エブリスタで掲載したものをブラッシュアップしたものとなります。

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第二話


逃亡

 時次は、三谷と音信不通(というか、都合のいい時ばかり電話してくるから嫌になり、一方的に時次が縁を切った)から、20年以上が経つ。

 急に非通知で電話しておきながら「俺、俺!俺だよ!わかる!?」と言う三谷のことを、時次は「俺俺詐欺みたいな奴だな」と思った。

 三谷は、相変わらず自己中な性格のまま、何も変わっていないなと、時次は思う。

 久しぶりに電話をかけておきながら、さっそく頼みごとか。調子がいいのは、昔から変わってない。時次は、やれやれと頭を抱える。

「なあ、頼む!一生の、本当に一生のお願い!お願いだからっ!俺をかくまってくれ!俺!ロマンス詐欺疑惑かけられてて、警察とマスコミから逃げてるんだ!」

「えっ、あんた。警察に捕まったんじゃなかったの?」

「警察に捕まったけど、隙をついて職務質問中に、そそくさと逃げてきたの!」

「わ、やば……」

 時次は、あまりのヤバさに絶句する。それにしても、三谷の一生のお願いって、今までどれだけあっただろうか。

 時次が知る限り、おそらく89回位は確認している。時次は、三谷の「一生のお願い」の数をノートに「正の字」で毎回記していた。

「よし、これで90回目の一生のお願いだな」と思った時次は、得意げな顔でノートに横線をスッと引く。

「えっ。トキちゃん怖っ!俺の一生のお願い、今までずっと数えていたのかよ!」

 受話器の奥から、三谷が大きな声で叫ぶ。それから三谷は「どうして、俺のこと着信拒否したんだよ。ずっと連絡取れなかったから、俺心配していたんだよ!」と、声を荒げた。

 興奮気味の三谷に対し、時次は落ち着いた口調でこう答える。

「あのさぁ。俺はいつもあんたのせいで、面倒なことに巻き込まれ続けてきたのよ。好きな人との恋路も、邪魔された。だから、もう縁切りたくて」

「じ、じゃあ!今回は、何で電話とったんだよ!」

「非通知だから」

「だってトキちゃん、非通知じゃないと電話でてくれないと思ったから……。というか、非通知の電話なんて、とっちゃダメだよ!もしかすると、怪しい詐欺だってあるかもしれないよ?」

 三谷には言われたくないと、心の底から時次は思った。

「と、とにかく。刻は一刻も争うんだよ。頼む、頼むってぇぇ!今、時ちゃんの家の前にいるの。マンションの前!おい!早く、部屋の番号!番号を早く教えてよ!」

 三谷の声に、時次は目を丸くする。

「はぁ?なんであんた!俺のマンションの場所知ってるの?!」

「小夏に聞いた!」

 あの小夏が?時次の表情が、たちまち曇る。

「はぁぁぁ?小夏って、あの小夏?」

「そう」

「電話かけたの?」

「うん、かけた!」

「あんた、昔あんなことがあったというのに、小夏によく電話かけられるよね……。その神経が俺には理解できないわ」

 小夏とは、時次の職場にいる女性だ。時次は過去、彼女を本気に好きになったことがある。

 あれは、時次が新卒で今の会社に入社した頃のこと。同期の立花小夏に、時次は一目惚れした。

 小夏はサラサラした黒髪と、小柄で整った顔立ち。清楚な彼女の雰囲気に、たちまち惹かれたのだ。女性慣れしていない時次は、ただ遠くから指を咥えて見ているだけ。

 見てるだけで満足だったが、いつかはお近づきになりたいと思っていた。そこで時次は、恋愛マスターの友人こと三谷に小夏との事を相談する。

「俺、小夏のこと知ってるわ。彼女とは幼馴染だから、協力するよ」

 まさかの偶然だが、どうやら小夏は三谷の幼馴染だったらしい。三谷によると、小夏とは小学校の頃に知り合ったそうだ。ところが小夏は、父の仕事の都合で転勤になり、中学の頃に引っ越しをしてしまう。家は離れたものの、2人は文通を続けていたらしい。

 ——そういえば、三谷から高校の時に「幼馴染と、文通してる」という話を、聞いたことがあるような。もしかしたら、あれが小夏だったのかもしれないな……。

 三谷に協力を依頼するも束の間、とんでもない事件が起こる。なんと三谷は、小夏と俺の仲を取り持ってくれる所か、年也自身が小夏と一夜を共にしてしまったのだ。

 信じられないのは、それだけではない。三谷は小夏をポイ捨てした後に、「なんか、小夏が悩んでるらしいから、トキちゃん相談のってあげたらいいんじゃない?病んでる女は、落としやすいって昔から言うからさ」と、言い放ったのだ。

 こいつは、生粋の屑だ。時次は思った。三谷のことを、ほんの一時でも信じたことを、時次は激しく後悔している。

 時次はその後、衝動的に通販で呪いの藁人形セットを購入した。あの時の藁人形は、結局クローゼットの中に保管されたままだ。度胸のない時次は、結局藁人形を購入しても、丑三つ時に呪うこともできなかった。

 時次は、小夏の恋愛相談へ応じるようになる。小夏は、ポイ捨てした三谷に未練を抱いていた。小夏は話を聞いてもらってすっかり傷が癒えたのか、他の男性と職場恋愛し、結婚する。

「いいから、早く!早く!トキちゃん!早く部屋に入れてよ!」

 インターホンの画面で、三谷は叫び続けている。

「頼むから、大声で人の名前を呼ばないでくれない?」

 近所迷惑になると困るので、仕方なく時次は部屋に三谷を入れる。

年也は、時次のマンションの一室に上がり込むなり、時次の肩をゆさゆさとゆする。

「ねぇ、何かないの!?お腹空いた!ご飯ある?」

「ないよ」

「絶対嘘!用意周到な時ちゃんだから、冷蔵庫になんかあるでしょ?」

「うわ……。ちょっと何を勝手に……」

三谷は、勝手に冷蔵庫を開け始める。そして、冷蔵庫のものを勝手に取り出しては、「うめー!」と、むしゃむしゃと音を立てて食べ始めた。

「あー!明日の為にとっておいたプリンとかー、あと、そのビールは株主優待でもらったもので、大事に取ってあったのに……」

 時次の言葉を無視し、三谷はガツガツとご飯を食べ、ビールを飲み始める。

「なぁ、なんであんた今日テレビに出てるんだよ。しかも、ロマンス詐欺って。三谷、何をやったんだよ」

「ああん?」

 迷惑そうな表情で、三谷はこう答えた。

「久しぶりに会っても、どうしてトシちゃんはブツブツうるさいの?俺、お腹すいているの。警察に捕まってて、好きなご飯も食べられなかったし……。それに俺、何も悪いことしてないから」

「どういうこと?」

 時次は、目を丸くして三谷に尋ねた。三谷は、むしゃむしゃご飯をほおばりながら、話を続ける。

「実は業界の人から、うちの娘のスポンサーを紹介されたんだよね」

 三谷は、これまでの経緯についてペラペラと話し始めた。三谷によると、娘のスポンサーを業界のお偉いさんから紹介されたらしい。娘のキララは、お陰様で有名企業のCMに出れたそうだ。

 その後、スポンサーの女社長と三谷が色々あったらしい。なんでも、三谷のことを凄く気に入ったのだそうだ。女社長は、三谷に外車、高級マンションを買い与えるようになる。受け取りを拒否しても、強引に買い与えてくるそうだ。

「俺も、こんな事ばかりしてはダメだと思って。女社長に、もう何もいらないです。この関係も、もう辞めませんかって、言ったんだ」

「へぇ、偉いじゃん」

 三谷なら、ヘラヘラとした顔で受け取ると思った。意外だった。三谷は青ざめた表情で、さらに話を続けた。

「そしたら、女社長が逆ギレしたのよ。週刊誌に、俺のことをロマンス詐欺だと嘘の情報流したの。週刊誌は、俺が娘のために女社長へ枕営業をしているとかいう話になっちゃって。

俺、本当に何もしていないんだ。本当に、女社長からモノを貰っていただけ」

 三谷はそう言って、がくっと肩を落とした。落ち込む三谷に対し、時次は「奥さんは?」と質問する。すると「会っていないから、わからない」と、しらばっくれた。

「はぁ?自分の奥さんでしょ?」

「うるせーよ!」

 ぶっきらぼうに三谷が言った途端、胸をギュッと抱えて苦しそうにうずくまり始めた。

「お、おい。どうしたんだよ」

 突然、三谷は体を震わせながら、ポケットから小瓶を取り出す。小瓶から数粒の錠剤を出し、口に放り入れた。時次は、三谷に水を差し出した。

「あ、ありがとう」

 三谷は言うと、ゴクッと一気に飲み干み、ハァハァと息を荒げる。三谷の体は、震えている。三谷の様子がおかしい。

「なあ、お前。まさかそれ、やばいクスリじゃないよな?」

「馬鹿野郎。トキちゃんが思ってるような、やばいクスリじゃないから安心しろって。病院から処方されてる薬を飲んでるだけさ」

 三谷が飲んでいたクスリは、怪しいクスリ(=覚醒剤)では無いようだ。時次が三谷に「なぜ、薬を飲んでいるの?」を質問すると、渋い表情で三谷は答えた。

「実は俺、余命あと一週間みたい。この前、医者に宣告されたんだ」

 寂しそうな表情で、ポツリと三谷が答えた。

【続く】



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