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蒼色の月 #136 「アパート探し②」

悠真と話をした翌日、私は和也くんのお母さんと話をした。

「うちはね、こんな良い物件押さえていた方がいいって、旦那ともそういう話になって。取り敢えず仮押さえしようと思ってるの。悠真くんのところはどうする?和也も悠真くんが同じアパートなら、心強いって言ってるから良かったら一緒に手続きしない?」

東京に行ってまで、地元の友達とつるまなくても。
私もそんな思いがないわけではない。
しかし2ヶ月後、知り合いの一人もいない都会に我が子を一人送り出す親としては、できるものならそうしてやりたいと思った。

「そうだね。悠真も和也くんと一緒のアパートだったら最高だって言ってるよ。それでも高いならうちは無理だけど。相場より安いんだから仮押さえする価値あると思う」と私。

「先輩ママに聞いたんだけど、こういう良い物件はすぐ埋まるから合格してからじゃ遅いよって」と和也ママ。

そうか、ここは思い切って仮押さえかな。

「ところで、悠真くんパパはなんて言ってる?」

そうだった。
こういうことは普通、夫婦で話し合うんだった。

「……あ、うん。うちの旦那もいいなって言ってる」

秘密を持つと、自動的に望まぬ嘘が増えていく。

「じゃあ決まりだね。うちは明日にでも不動産に電話するよ」と和也ママ。

「わかった。うちも早いうちにするね」

なるほど、夫がお金を出すのだから夫にもこのことを報告する義務がたぶん、私にはある。
勝手にことを進めて、夫の機嫌を損ねたらまたなにを言い出すかわからない人だから。
ここは下手に出て夫に相談し、あとは契約が成立して悠真がそのアパートで新生活を始められれば万々歳だ。
先日離婚調停が終わっため、結城弁護士との契約はその時点で一旦終わったことになる。解決金も支払った。
夫にアパートのことを話すには、自力でやらなくてはならないのだ。
……怖い。
この間の離婚調停では夫を論破した私。
しかし、まだまだ夫が怖かった。
今考えるに、夫が私に行ったパワハラ、モラハラが恐怖心を植え付けた要因ではあったが。家族の貯金を握られている以上、私たち親子の行く末は夫の気分一つでどうにでもされてしまうということが一番怖かったのだと、今は思う。
しかし、今は怖いなんて言っていられない。
私は夫にメールをした。



mikotoです。つたない記事を読んでいただきありがとうございます。これからも一生懸命書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!