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蒼色の月 #127 「第三回離婚調停②」

いよいよ、3回目の調停の開始時刻。
まずは夫側が調停室に呼ばれた。
私は相手方待合室で呼ばれるのを待つ。

「麗子さん、ところで、長男さんのセンター試験はいかがでしたか?」と結城弁護士。

「はい。おかげさまで、まずまずの出来だったと本人が言っています」

「そうでしたか。それは良かった。まずは安心ですね」

「はい。だから私はどうしても、夫から進学費用を出してもらわないといけないんです」

「わかっています。私も最善を尽くしますから」
結城弁護士の凛とした目が光る。

それにしても長い…

通常片方の所要時間は、20分から30分なのだが小一時間経っても終らないようだ。
どうしたのだろう…
嫌な予感しかしなかった。

夫のことだから、息子の進学費用なんか出したくないと言ってごねているのか。心配で胸が苦しい。
一時間が過ぎる頃、やっとこちらの番が来た。
私と結城弁護士が着席するやいなや、調停委員が言った。

「奥さん、先に旦那さんからいろいろとお話を伺ったんですけどね」

「はい…」どきどきと胸が鳴る。

「旦那さんがね、奥さんが旦那さんの言う通り、この調停で離婚するなら貯金からご長男の進学費用を出してもいいとおっしゃってるんですよ」

は?
まさかの交換条件?
自分が有責配偶者なのに?
悠真に進学してもいいと、はっきり約束したのに?
旦那さんの言う通り離婚したら?

「なんなんですか。その勝手極まりない言い分は。断じて私は離婚は致しません」と私。

「いや、しかし…」調停委員が言った。

「よくお考えになってください。妻子がいるのにも関わらず、夫が不倫騒動を起こし。その不倫相手と一緒になりたいから離婚してくれなんて。なんでそんな身勝手な夫の要求に、私が従わなくてはならないんですか?夫が有責配偶者なんですよ」と私。

「でも旦那さんは…不倫なんてしてないっておっしゃっているんですよ」
と調停委員。

「よくそんな嘘がつけるものです。はばかりながら申し上げますが、不倫してますか?とこんな場で聞かれて、自分が不利になるってわかっててはいしています、なんて答える人がいるものでしょうか。していないと答えるのが当たり前ですよね。夫は間違いなく不倫をしています。不倫の証拠もありますから」と私。

「調停というのはね、証拠とかどうとかじゃなくて、お二人の話合いのお手伝いをするだけですから…」

私の剣幕に少々たじろいだ様子の調停委員がそう言った。

「でしたら夫に伝えてください。私はあなたの勝手な都合で離婚は致しません。ですが長男悠真の進学費用は、あなたが持っている家族の貯金から全額出してくださいと」

こそこそと、二人の調停委員が耳打ちでなにか話をしている。

「では、奥さん一旦待合室に戻っていただけますか」
調停委員がそう言った。

私は怒りで震えた。

mikotoです。つたない記事を読んでいただきありがとうございます。これからも一生懸命書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!