蒼色の月 #128 「第三回離婚調停③」
待合室に戻っても、私の怒りは治まらなかった。
いったい実の息子をなんだと思っているのか。
なぜ実の息子の将来を閉ざすようなことを、平気で出来るのか。
無いお金を出せと言っているわけではないのだ。
出せるお金はあるのに。
それが私にはどうしても許せない。
「先生…先ほどはすみませんでした…」
「なにがですか?」
「隣に先生がいてくださってるのに、私つい感情的になってあんなふうに一人で先走ってしまって…」
「そんなことないですよ。麗子さんの調停なんですから、麗子さんがおっしゃりたいことをおっしゃっていいんですよ」
「先生、私なにかまずいこと言っていませんでしたか?」
「大丈夫です。そんな心配は無用ですよ。ところで、麗子さん、もしよければですけどこの後対面でやりませんか?」
「…対面?」
「はい、旦那様と同室で対面でやりませんか?」
「それは…」
怖い。
夫の顔を見るのが怖い。
同じ空気を吸うのすら怖い。
なによりも怖い。
「先ほどの麗子さんのお話は、よくわかるし説得力がある。先ほどのように直接思いを、旦那様にぶつけてみてはどうでしょう。時間も短縮できますし、麗子さん自身の言葉で旦那様を説得できるかもしれません」
不倫を始めてから一年以上、ありとあらゆる理不尽なことをされ続け、傷付けられ続け私は、夫が怖くてしかたがない。
同席なんて考えただけでも、息ができなくなりそうだ。
しかし私よ。
今はそんなことを言っている場合か?
今やらないでいつやるんだ?
このままでは悠真の進学は無しになる。
母としてそれでいいのか?
後悔しないか?
いいから四の五の言わずにやりなさい。
私の中の私がそう言った。
「…はい、わかりました。私やってみます。先生がそうおっしゃるなら対面でお願いします」
思ってもいなかった夫との直接対決。
威勢よくやるといってはみたものの、膝の上に乗せた手が小刻みに震えている。
mikotoです。つたない記事を読んでいただきありがとうございます。これからも一生懸命書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!