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蒼色の月 #131 「離婚調停不成立①」

「旦那さん、お子さんと進学の約束をされたというのは本当なんですか?」調停委員が再度聞く。
調停委員の顔つきから、裁判所側ではそこが大事な点らしい。

「旦那さん?」と調停委員。

真っ赤な顔で私を睨む夫。

「先生はなんと聞いてるんですか?」
調停委員は夫の弁護士にそう尋ねた。

「え?私ですか?私はですね。えーと…」

「なんと聞いてらっしゃるんですか?」再度調停委員。

「えーとですね。その件についてはですね。えーと…」

「聞いていないんですか?」

「はい…その…あの…」

それはそうだ。
夫は自分の弁護士の電話にも、出ないと弁護士本人が言っていたのだから。

「旦那さん?」
あきれ顔の調停委員。

早く認めればいいのに、夫は頑として「はい」と言わない。

「夫が認めないのであれば、ここで録音を聞いて頂いてもいいですが…」
しびれを切らした私がそう言った。

「え?今ですか?」と調停委員。

「はい。息子にとって、この進学費用問題は将来を左右する一大事なんです。しかももう時間がありません。今日はっきりしてもらわないと、間に合わないんです。夫が子供たちに約束したにも関わらず、それを認めないのなら、この音源を聞いて頂くしか私にできることはありません」

「しかしなあ…時間が」と調停委員。

「夫が子供たちに、進学していいと言っている部分がすぐ聞けるようにしてきましたんで、2分もあれば充分です」

私はそう言って、ICレコーダーのボタンに手をかけた。

「旦那さん、どうしますか?」と調停委員。

「……」
弁護士の助け舟もないまま黙る夫。

「旦那さん、お子さんと約束されたんであれば、お子さんも一生懸命受験勉強を頑張っていらっしゃるわけだし、約束は守られたほうがいいですよね」
と調停委員。

双方弁護士に、私、そして二人の調停委員、皆が夫に注目した。
しばらく続く沈黙。
夫がやっと重い口を開く。

「…はい」

「よろしいんですね?」と調停委員。

「…はい。わかりました」

やった。
夫が進学費用を出すと言った。
今まで散々拒否してきた夫が。
やっと、やっと、進学費用を出すと言った。

しかし、私の攻撃はここでは終わらないのだ。




mikotoです。つたない記事を読んでいただきありがとうございます。これからも一生懸命書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!