【江川くん(もちろん仮名)】

小学校6年生の夏休み。
町内会のラジオ体操でみんなが集まっていると同じ6年生の江川くんの姿が見えた。
互いに「おはよー!」

江川くんの後ろに頭一つ出た丸坊主の見知らぬ男の子が立っている。
オレの視線を察した江川くん、
「KenGくん、この子最近引っ越してきた吉田川くん、5年生。
あだ名は、吉田・と・も・だ・ち・くん!」

「あっそぉ~。 ラジオ体操終わったら一緒に遊ぶ?」
シンプルな時代だった。

子供にとって引越しはそれまでの人生において一大事となるイベントの一つ。
慣れ親しんだ土地を離れ、大好きな友達に今生の別れを告げ、知らない土地で会った事もない子供たちと友人関係を築いていかなければならない。

引越しがいじめのきっかけになることも珍しくない。

そんな不安でいっぱいだった吉田川くんを、当時ガキ大将・・・大ガキだったオレに、『吉田川ともだちくん』と紹介した江川くん。

なんて優しい奴なんだ。

学年は違うが、夏休み早々同じ町内会で遊び仲間も出来、新しい小学校の始業式も頼もしい兄貴分たちと一緒に登校する吉田川くん。
朝送り出したお母さんも安心したのではないかな。

江川くんについてもう一つエピソードがある。
彼は小学校に上がる前、事故で片方の目が見えなくなっていた。
見た目にはわからない。
江川くんはそんなことも笑って話す。
江川くんといえば笑顔しか浮かばない。
でも本人は内心辛かったろう。

19歳の時、何かのイベント後、町内会館で飲み会が設けられた。
そこで江川くんのお母さんに会う。

オレたちが住んでいた地域は未来を行っており、19歳は大人だった。

その席で江川くんのお母さんから、彼は高校卒業後すぐに介護の道に進んだと聞く。当時のオレには聞き慣れない『介護』という言葉。
『江川くんと介護』違和感などない。
オレはお母さんに『吉田川ともだちくん』のエピソードを伝える。

泡たっぷりでシャワシャワとした麦茶をたらふく飲み、座りながらもメリーゴーランド状態だったオレ。
しかし、オレの話を驚いて聞き、その後満面の笑顔を浮かべたお母さんの姿ははっきり覚えている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?