【You did a good thing.】

オレのアメリカ留学はスムーズに始まった・・・訳ではない。
波乱とまで言わないが、渡米半年で2回の引越しをした。

引越し後はワンルームアパートで独り暮らし。
大学で知り合ったアメリカ人の友人、ダンが両親の家から家具や食器を運んでくれ、契約書にも連絡先として名前を書いてくれた。
ホストマザーやルームメイトはいなかったものの、プライベートな空間と時間が出来たおかげで逆に生活のリズムをつかみ、ダンやクラスメートと過ごす時間が増えて語学も上達し、留学生活も軌道に乗った。

日本人の友人二人がオレのアパートに遊びに来ていた夜のこと。
窓の外から女性の叫び声が聞こえてきた。
そして恫喝する男性の声が続く。

友人の静止を無視し、窓を開けると、それに気が付いた女性が
「ヘールプ!」と叫ぶ。
「Are you ok??」と叫んだ俺に、彼女は
「コール、9-1-1!!」
日本で言う、110番。
警察を呼んでくれと叫ぶ。
不思議だと思ったが、男性もどーぞ、警察呼んでくれ!と。

携帯電話のない時代。
直ぐに固定電話で911にかけ、警察か消防か?と聞かれ、
「Police!  女性が男性から暴力を受けている!」

警察が到着する前に誰かが玄関ドアをノックした。
のぞき窓の先には女性の姿が。

ドアを開けると、明らかに顔を殴られたと分かる女性が立っている
彼女を部屋に入れ直ぐにソファーなどを玄関ドアに移動し警察の到着を待つことにした。
しかし、彼女が殴られて歯がなくなったと聞き、再度911に電話し、今度は医療サポートが必要と説明。
先に救急車に乗った救急救命士たちが現れた。

細かいやり取りは理解できなかった。
顔の骨が折れている、歯が抜け落ちている、は聞き取れた。

やがて別の緊急救命士がやってきて、
彼女の歯が見つかったと。
すると、彼女の手当てをしていた救命士が
「Do you have milk?」と聞いてきた。

オレは、『???』と思いながらも、
冷蔵庫からミルクカートンを取り出し、ダンからもらったコーヒーカップにいれて彼に渡すと、彼はミルクの中に彼女の歯を入れた。
何故ミルクにいれて保存するのかは分からなかったが、それが現場での保存方法だったのだろう。

警察官とはどんなやり取りをしたのか全く覚えていない。

手当てをしていた救急救命士が帰り際に
「You did a good thing.」
と笑顔で言ったのはこの先も忘れることはないだろう。

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