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古代ギリシャ。その地で生きて暮らしていた一人の女性。

港を見下ろす小高い丘の上に、その女性は立っていた。港を見下ろし、何をするでもなく今日も一日が過ぎた。「今日も帰って来なかった……」明るい日差しと乾燥した土地。サンダルを履いた足は土埃にまみれていた。その女性は毎日その場所で誰かが帰るのを待っていた。身なりをかまわない、痩せた女。身に付けている服は汚れて傷んでおり、髪も乱れていた。元は美しい金髪だったようだが、今は見る影もない蓬髪。どうもその女は気がふれているらしかった。

その女性は、かつて裕福な家庭に生まれ、絵に描いたような幸せな生活を送っていた、若く美しい女性だった。両親と兄がいる。その女性はたった一人の兄を心から愛していた。

優しくて勇敢、その上賢くて外を歩くと誰もが振り向くような優れた容姿だった。一族の自慢の長子。そんな兄のことを、その女性はまるで恋人であるかのように慕っていた。

兄は成人し、兼ねてからの希望であった貿易船に乗り込んだ。遠い異国の地に商人の一人として赴き、長い船旅に出かけたのだ。

兄は長い船旅を終えて、数年後に故郷に帰って来るはずだった。貿易で異国の珍しい高価な品々を船に満載にして帰国する予定だった。ところが帰国する予定を過ぎても帰らない。帰国を心待ちにしていた、故郷で待つ家族たち。その家族たちに残酷な運命が知らされる。積み荷を船に乗せ、帰国する途中で嵐に遭い、船は難破。乗っていた人々は誰ひとり生き残らず、海の藻屑と消えた。

嘆き悲しむ、残された家族たち。遺体も遺品さえもなく、それでも遭難して亡くなったという事実を受け入れざるを得ない。深い悲しみとやりきれない気持ちと。そんな深い悲しみのうちに、年老いた両親は相次いで亡くなってしまう。

ひとり残されたその女性。あまりにも悲しみが深かった。孤独と絶望に苛まれた彼女は、いつしか正気を失っていった。兄は生きている。生きてこのふるさとの地に帰って来る。一族の期待を背負って旅立った兄。きっといつか帰るとそればかりを信じていた。そう一途に思い詰めていた。毎日、港を見下ろす丘の上に立ち、港に寄港する船を眺めていた。日がな一日眺めていても、何ヶ月も何年もその場所で港を見下ろしていても、兄が乗った船は港に帰って来ることはなかった。

その界隈では有名なキチガイ女だったその女性。汚れてボロボロの服をまとい、丘をさまよい歩くさまは、子どもらの恰好の標的になっていた。子どもたちは面白がって囃し立て、石を投げつけて来る。

ある日、いつも通り丘の上で港を見下ろしていたその女性は、足を滑らせて丘から滑り落ちて亡くなってしまう。あっけない最後だった。誰からも看取られることもなく、遺体が発見されたのは数日立ってからだった。

幸せだった少女時代。兄も両親も彼女を残して先に逝ってしまった。孤独と絶望のうちに心を病み、死ぬ直前まで死んでしまった兄が帰って来ると信じ込んでいた。そんな女性がようやくこの世での生を終えた。

帰って来る、きっといつか帰って来ると信じていた彼女は、もしかしたら気がふれていても幸せだったのかも知れない。自分の愛する兄は、心の中で生きていて、今も優しいほほえみを浮かべた表情で私に語りかけ、肩を抱いて頬にキスしてくれるのだから。今はここにいないけれど、きっといつか自分の元に帰って来るのだから。

天に召される彼女の魂を迎えてくれたのは、心の底から会いたいと帰りを待ち望んでいた兄だった。ようやっと会えた。待った甲斐があった。恋焦がれるように再会を待ち望んでいた2つの魂は、まばゆい光の中で一つに溶け合って行くように見えた。



創作とも言えぬ、中途半端な拙い文章で申し訳ないです。これ、以前ヒプノセラピーの誘導で見た、自分の前世の一つらしいです。気のふれた女はみけ子です。ただの想像?妄想?よく分かりません。自分の心の中に思い浮かんだことを、ひと綴りの文章にまとめてみただけのものです。

↑こちらもまた、催眠誘導で出て来た前世関係の妄想話です。ご興味があれば。

最後までお読みいただきありがとうございました。





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