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書けん日記:7 着想と情熱 そして計画性の死

某日のテキスト作業の打ち合わせ、提出のさい――
T氏「このパートのテキストは書き終わったみたいだな。どれ。……ん? ん?」
T氏「テキストは最後まである。……が。なんぞ、このラストのメモは」
不肖「ああ。そちらは。次のパートの伏線をですね、別の視点から描写して」
T氏「ボツ」
不肖「えっ。でもー。次のパートのネタ、いきなり過ぎて。やっぱ伏線」
T氏「ここにガンプラがある。あるとしよう。あるんだ。このテキストがそれだとする」
不肖「私、子供の頃ガンプラ買えなかったんですよ。諸処の事情で」
T氏「そういうのはチラシの裏n o t eにでも書いてろ」
T氏「で。この、テキストの状態をガンプラとすると、だ」
不肖「はい」
T氏「もうじきガンダムが完成するわー、って段階で。『あっ、そうだ(唐突)』って。いきなりフルアーマーガンダムに改造しようとしていらんことして、乗っける装甲とかビーム作ってて本体のガンダム置き去り。チラシの下になっててガンダム行方不明。知らずに踏んづけて死亡」
不肖「あー。あー、あーあー それな」
T氏「そりゃ完成しないわー。ガンプラもテキストも」
不肖「正論は。時には暴言よりも人を傷つける――」
不肖「あっ、そうだ それで思い出しました。私、昔ですね……がきのころに」
T氏「それな 次の日記」

かくして――
今回の書けん日記は「思いつき」「情熱」と言う名の、計画性の破壊者。
過ちと破滅へのロードマップのお話を。
テキストを書くとき。
お話を。物語を書くときには、アイディアとか思いつき、何らかの発想というのはそのお話の根幹となる、重要な要素……なのですが。
ある程度、お話の筋書きが固まり、プロット化され。
「さあ。あとは書くだけだぞ」となったら……ある種の「思いつき」や「情熱」は封印する必要がある、と。その作品を終わらせて、次の作品を手掛けるときにまた開放するまで、獄から出してはいけない、と。この歳になってようやく、様々の失態や火傷を経て思う私……ですが。

……やっちゃうんですよねえ。つい。冒頭の、T氏との打ち合わせのときのように。

自分で作って、自分で組み立てたお話の筋書き、プロットなのに――
書いていると不安になってきて。否。書いているうちに、たぶん最悪なことに『飽き』のような感情がその中途の作品に対して感じてしまう、のだと思う。そして……やらかす。
「この流れなら。こんな要素があったほうがいいんじゃないだろうか」
「ここで、伏線を強固にするためのシーン セリフ、キャラクターが必要では」
……とか。自分が面白いと思う「思いつき」に「情熱」を傾けてしまって。
そして。執筆作業は脇道にそれて、本編に戻れないまま。そして脇道の方も、本編なくしては育たない寄生のつる植物のような存在故に、途中で枯死して……全ては、無為になる。
今まで何度、どれくらいやらかしてきたか。
そんな、テキスト書きの失敗。創作の、計画性の自己破壊。
何度も失敗して、火傷して。わかってはいても、わかっているつもりでも――やってしまう。
その原因は「思いつき」そして「情熱」。
創作には不可欠のその2つの熱量が、創作自体を破壊、塵灰に帰してしまうこの皮肉。
私の中の、その失敗は――その萌芽は、はるか昔。

私が子供の頃。まだ10歳にもなっていない頃だったと記憶している。
まだ「おたく」にもなっていないが、少し暗かったところのある児童の私は、ある日。たぶん親戚の叔父さんかだれかから、クリスマスのプレゼントで戦車のプラモデルをもらったことがある。
忘れもしない。箱絵の、美麗、壮麗、勇猛そして無機質な鋼鉄の暴力装置、戦車。
そして、目に焼き付いて離れない赤と青の二つの星。
不朽の名作、タミヤの『タイガー戦車』である。

正直、幼児に等しい子供には手に余る、大型のプラモデル。高難易度の模型ではあると思う。
だが。それを手にした小児の私は。タイガー戦車を我が物にした私は。
歓喜雀躍なる、楽しさを詰め込んだような熟語があるが。まさにそれ。
箱を手にぴょんぴょんはねて喜んでいたのを覚えている。
こんなかっこいいものをもらえたのが嬉しくて。すごく大きなお兄さんになれた気がして。これを作ったら、自分も強くなれる気がして。
そして――箱を開け、中の包装を破いて。ランナーに繋がれた無数の部品に、目を。
そんな私に、タイガー戦車をくれた叔父さんは。
「これな。説明書。組み立て説明書。絵で書いてあるからお前でもわかるやろ」
「これのな。上から順番。イチから順番。このとおりに、いらんことせんと。このとおりに、順番で作っていけばおまえでも戦車が作れるわ。ええな。この通りにやぞ」
と。メートル原器の前に出しても恥ずかしくないほどの真っ直ぐなど正論を私に言ってくれていた。もし叔父さんを怒らせたりしたらこの戦車を取り上げられるかもしれない、という恐怖と疑心から、姑息な小児の私は、叔父さんにうなずき言うことを聞いていた。

……が。
タイガー戦車を。ランナー(部品がついた枠のことです)から、もちろんニッパーなど無い小児は、爪切りで部品を切り離し、あるいは指でもぎ取って。
最初はそれらを、説明書通りに組み立てていた。小児の私は、もぎ取った部品を、付属の接着剤で部品をねとねと、指紋だらけにしながらも――車体部分を組み立て。転輪をはめて。
そして…………。
見てしまった。他の部品を。説明書の、その先を。
『他を作って組み立ててもいいんだ』という「思いつき」。
そして『カッコいいものを早く作りたい』という「情熱」。
それらが、私のタイガー戦車に……災厄として、降りかかるのに時間はいらなかった。

私のタイガー戦車に何が起こったか――
図解は、私の話を聞いたT氏が失笑しつつ、ご厚意で用意してくださったものだ。

私の「思いつき」と「情熱」が目を覚まさなかった場合――正しい形での、タイガー戦車の砲塔の組み立ては、次記のようにして行われる。
概ね、タイガー戦車の砲塔はこのように、左右に分割された砲塔パーツで、主砲の土台となる部品(ピンク)を挟み、そこで固定する。

このとき、橙色の部分に土台の赤い軸を通し、ここを接着しないことで。戦車砲を上下にスイングすることが出来て「やったーカッコいいー」になる。

次に、防盾(黄土色)と大砲(紫色)を土台に接着。

そう……。

こうなる。

これで、タイガー戦車のキモであり、戦車としての存在意義の一つである「砲を備えた旋回砲塔」が完成する。
――説明書通りに作っていれば。

だが……「思いつき」の「情熱」に囚われた小児の私は。
説明書の手順を無視し、先に作りたい、カッコいい砲塔を作りたい!という熱情に囚われていた私は、まず……
砲身を基部に接着、防盾と駐退機まで先に、全部接着してしまい。

そして……砲塔を。分割されていたそれを、接着――

……。

……………。

…………………。

ウワァアアアアン はいらないよお……。大砲が、砲塔にはまらないよう。

――かくして。
私のタイガー戦車は、肝心要の砲塔が組み立て不能状態に陥り。その失態の原因に気づいても、もはやどうしようもない小児の私は。悲観にくれて泣き叫んでも……もはや、タイガー戦車はソビエト戦車の122ミリ砲が直撃したかのようにバラバラで放置され――クリスマスは、失意と悲観にくれていった……。

と、まあ。私。
昔から、同じような失敗を繰り返していました。趣味でも、仕事でも。人生でも。
恥の多い生涯、まだまだ続きます。

T氏「Achtung Panzer!戦車、注意! 大好きなくせに、お前の不注意ときたら」
不肖「私の戦車好きは、その幼児期のトラウマが原因かもしれませんね」
T氏「テキストが書けなくて失敗して それで仕事好きになってくれればいいのに」
不肖「アイター」


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