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『英作文基礎10題ドリル』リリース記念インタビュー:「語源」と「音」で英語がもっと楽しくなる!

2024年1月、mikanにおいて竹岡塾主宰であり、駿台予備学校英語科講師である竹岡広信(たけおか ひろのぶ)先生の著作『英作文基礎10題ドリル』(駿台文庫)がリリースされました。英作文およびスピーキング初学者向けのドリルである本書は、竹岡先生オリジナルの自然な英文をベースに、英作文の基礎を楽しく学べるテキストとなっております。今回はリリース記念インタビューとして竹岡先生をお招きし、英語講師となるに至った経緯や、先生の推し進める語源・英作文教育の重要性などをたっぷりと語っていただきました。

Profile
竹岡広信(たけおか ひろのぶ) / 予備校講師(英語科)
1961年、京都府亀岡市生まれ。駿台予備学校・学研プライムゼミ英語科講師。京都大学工学部・文学部(編入)卒業。人気漫画「ドラゴン桜」の英語教師のモデル。
著書に『改訂新版ドラゴン・イングリッシュ基本英文100』『改訂版 大学入学共通テスト 英語の点数が面白いほどとれる本』『決定版 竹岡広信の英作文が面白いほど書ける本』『必携 英単語 LEAP』『英作文基礎10題ドリル』などがある。

英語が嫌いだったから、英語の先生に!?

mikan まずは先生のご経歴からお伺いしたいのですが。学校教師ではなく、駿台予備学校の講師となったきっかけはなんだったのですか?

竹岡先生 工学エンジニアを目指して京都大学の工学部に進学したんですけど、卒業するまでほとんど教員になろうと思っていなかったんです。ただ実家で父が主宰していた「竹岡塾」でアルバイトはしていました。そんな時英語が嫌いだという生徒を受け持つことになったんですけど、実は当時僕も英語が嫌いでした。

mikan 英語が嫌いだったんですか?

竹岡先生 高校時代の先生が怖くて、大量の単語や熟語・構文の暗記をさせられてきたという経緯もあって。それなりに成績は良かったんだけど、根本的には好きではなかった。断然数学の方が好きで、日々数学しかしていなかったですね。それでとにかく、自分がやってきたように塾の生徒にもひたすら単語と構文の暗記をさせていたら、受験に落ちてしまったんです。その時受けたショックは大きかった。

mikan なるほど。

竹岡先生 そんな紆余曲折があって、最終的に工学部を卒業してから文学部に編入して、どうにか「楽しく学ぶ」方法を模索していったんです。それまではとにかく暗記!暗記!という苦行だったのが良くなかったのかなと。

mikan 今の教育方針にもそれは色濃くありますよね。その頃から教員は意識していたんですか?

竹岡先生 自分が辛かったからこそ、もっと楽しい学習法を伝えたいと思うようになったのかな。それから卒業時に教育実習をした母校に「採用してくれ」と言ったら「いらない」と言われて(笑)。それで駿台を受けることになったんです。正直受かるとは思っていなかったんだけど、なんとか合格することができましたね。もうこれで落ちたらパチプロで頑張ろうと思っていましたね(笑)

進化する「たけお科」学習!自分が受けたかった教育を

mikan 先生が20年前にご出演されたNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」を拝見したのですが、その当時の教え方と今の教え方で変化とかがあればお聞きしたいです。

竹岡先生 大きく変化しているね。圧倒的に変わったきっかけとなったのは、生徒に耳の悪い子や弱視の子がいたんですよ。だから板書ではなく全部プリントに変えて、そういう子が来た時には目の前で「今ここ、今ここ」って指し示してあげるようにしたんです。

mikan 確かにプリントであれば障がいを持っている子でも平等に学習ができますよね。

竹岡先生 そうだね。もうひとつは、みんな板書を書き写す速度が違うんですよ。僕は特に共通テストの授業を持っている場合が多くて、高校生から30代ぐらいの生徒が190から200名ぐらいいるんです。そうすると当然板書を書き写す速さは同じでない。あと、僕としても同じ内容の授業を何度も繰り返すわけで、その都度フルで板書をしながらクオリティとボリュームを維持するのは体力的・精神的に難しい部分もある。そういった理由で双方にとっての効率性を考えるならば、プリントを使うのが良いだろうと。本当は板書しながら、会話しながら進めていく方が楽しいし、力がつくんだけどね。

mikan それだけ先生の授業に生徒が集まっているということですよね。先生はいわゆる「カリスマ」と言われることも多いと思うんですけど、それについてどう感じていられますか?

竹岡先生 どうだろう。僕は未だに英語が苦手だと思っていて、そのことを誰に言っても「先生そんなの謙遜ですよ」って言われるんだけど。そう思うのは、自分が別に特別なことやってきたわけじゃないと思っているから。僕が書いている教材も、自分が英語に苦労していた時に欲しかったものを書いているに過ぎないんだよね。どこまで行っても「苦手だから楽しみ方を見つけた」っていう考えでいるから、カリスマって言われるのは複雑な心境ですよね。

遠回りこそ近道!mikan学習のススメ

mikan また番組中からのお話なんですけど、先生がおっしゃっていた「1つのことを深く考えることは、遠回りこそ近道」という言葉が印象的です。mikanは、大量に単語がポンポンと出てきて、サクサクと覚えていくのがコンセプトのひとつでもあるんですが、よく考えたら先生のお考えと正反対なものだなと思いまして(苦笑)。その違いについて先生として率直にどう思われますか?

竹岡先生 孔子が言ったのかな。「好きな者が勝つ。しかし好きな者より楽しんでいる者が勝つ」と。結局勉強というのは楽しくなかったら伸びない。僕も高校の時まさにそうで、無理矢理やらされていると考えることが嫌になるんです。だからmikanの使い方について「単語を最初にきっちり覚えた上で、英文を楽しく読む」という前提をユーザーへ明確に伝えるとさらにいいんじゃないかな。

mikan なるほど。ただ大量に単語を覚えるツールではなくて、あくまでも英文を楽しく読めるようになるためのツールであると。

竹岡先生 そう。あと使い方を教えてあげると効果があると思う。例えば一度mikanで問題を解いた上で、次は反復する。苦手な単語の洗い出しと、その反射訓練に使うといいよとか。英単語ってある心理学者が言うには、23回別の場面で触れると覚えるらしいんですよ。いろんなバージョンでインプットしておくと、それらがパターンとして思い出す手掛かりになる。

mikan なるほど。同じ英単語でも様々な文脈の設問があるといいと。

竹岡先生 そもそも2種類の人間がいて、1つは元々語学的な能力が高いタイプで、耳から入ってインプットしたらそれで覚えられるという人。彼らはどんな方法でも学習できるし、ある意味丸暗記だって全く問題ないと思う。対してそうじゃない人は、別の方法を使わなければならないんです。その点で、mikanは覚えられる人はそのまま使えばいいし、覚えられない人は復習として使う。こういった使い方を示してあげると効果的なんじゃないかなと思います。

mikan ありがとうございます。とても参考になります。

「語源」と「音」で英語は楽しくなる!

mikan 最近、学校現場以外だと竹岡先生が推奨されている語源学習が主流となって、そういったコンセプトの書籍も書店に増えてきている印象があるのですが、そういった現状を竹岡先生はどのようにお考えですか?

竹岡先生 僕は嬉しいよ。以前『ドラゴン桜』を監修した際に出版した『ドラゴン・イングリッシュ基本英文100』(講談社)の巻末にも、語源学習の重要性を書いたんだよね。約20年前だよ。それが今やもういろんな先生が語源の話をし出したし、いろんな語源系の単語集も出版され始めた。ちょっとは僕もやった甲斐があったなと思うね。

mikan 先生が語源の学習に力を入れ始めたきっかけはなんだったのですか?

竹岡先生 1番最初は20代の半ばに、生徒から“triumph(勝利)“と“valid(有効)“という単語が覚えられないっていう相談がきたんです。それで“valid“については「ごめん、わからないから丸暗記してくれ」と言って、“triumph“に関しては「ちょっと待ってくれ」と。その生徒がめちゃめちゃ探求心が旺盛な子で、“trio(トリオ、三人組)“の“tri“はラテン語の“L.tres(3)“が語源であるのに、別に“triumph(勝利)“の意味に3は関係ないじゃないか、と言うんです。

mikan なるほど確かに。

竹岡先生 それで1ヶ月ぐらい調べてみたんですけど、語源的に少し微妙な部分もあるんですが、どうやら日本の「万歳!万歳!万歳!」と同じように英語圏でも勝利の雄たけびは3回らしく、そのあたりに源流がある単語らしいぞと。それをその生徒に教えたら、すごく喜んでくれて、その子はその後京大入試実戦模試で全国トップになったんですけどね。

mikan 生徒の疑問に答えてあげられた体験があって、語源を学び始めたんですね。

竹岡先生 今だったら“valid(有効)“も“value(価値)“と同じで、語源である“val“の持つ「強い」とか「価値がある」というコアイメージの連想で説明できちゃうんだけど、当時はそれができなかった。だからそれ以来全ての単語を、語源で説明できるようになってやろうと思って、20代の半ばぐらいから1日10個ぐらい勉強したんですよ。僕は英語は苦手なんだけど真面目だからね。するとそれが面白くて、もう40年近く続けて他の人が敵わない量の語源を学んできたわけです。だからそこに関しては誰にも負けない自信はある。

mikan 一見遠回りに見えるけど、単語同士のつながりが見えてくると一気に学びの効率が上がりますよね。

竹岡先生 そうそう。さらにその上で大切なのは音なんだよね。例えば赤ちゃんを指す“baby”の音である「バーバー」って、「よくわからないことを言う」という意味なんですよ。だから、何を言っているかわからない「野蛮人」のことを“barbarian”と呼ぶ。転じて野蛮人の住んでいる「不毛な地」を“barren”、「勇ましく恐れを知らない」という形容詞は“brave”と表す。

mikan なるほど。確かにスペリングは違えど音と意味はつながっていますね。

竹岡先生 単語ってつい文字をイメージしがちだけど、そもそも音である言語をスペリングで表しているに過ぎない。それが分かると言語というものの本質や面白さが見えてくると思うんですよね。

“spring“を、どう訳しますか?

mikan 他にも生徒たちが興味を持ってくれるものとか、授業で面白がってもらえるものってありますか?

竹岡先生 「なんでそうなるの?」っていうことだね。例えば僕が中学生の時にずっと不思議だったのが、音楽用語で“piano(弱く)”っていう言葉があるけど、何で楽器の「ピアノ」がそう名付けられているかってこと。よく調べてみると、ピアノが開発された当時の正式名称は「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」なんだよね。強い音も、弱い音も弾けるチェンバロという意味になるんだけど、よく使われる語のために削られて削られて「ピアノ」になった。

mikan かなり省略されちゃっていますね(笑)

竹岡先生 ふざけるなよ(笑)とも思ったけど、よく使うものは脱落するというのは日本語も同じなんだよね。例えば「気持ち悪い」が若者言葉で「きもい」になるでしょ?若者たちが「気持ち悪い」とか「だるい」とかばっかり言っているってことになるんだけどね(笑)。他にも、なぜ「春」のことを“spring“で表しているかって話をよくするんだけどね。

mikan 確かに、どうしてなんだろう。

竹岡先生 「スプ」って破裂音が含まれているから音が強い印象があるよね。そう考えると短距離を全力で力走する“sprint“とか、散水機である“sprinkler“とか、全部爆発するようなイメージがある。そこで「春」を考えると、イギリスは緯度が高く寒冷地でもあるので、冬はいわば生命が死んだ状態。それが芽吹きの春になったらエネルギーが爆発するわけだよ。だから“spring“なの。

mikan なるほど!面白い!

竹岡先生 日本人に「春」と聞いて何をイメージするか尋ねると、ほとんどが「桜」と答えると思うけど、英米人に聞いたら“energy”と答える。だから「spring=春」という理解は、語源的な視点で見ると違うんだよね。

mikan 確かにこんな授業であればみんな興味を持ちますよね。

竹岡先生 僕自身が「なんで?」と不思議に思ったことを勉強してきた中で、「英語は言語なのだな」という実感を得られたんだよね。それは英語を学ぶ上でとても大きいんです。

mikan 高校生の時に先生自身がわからなかったことを調べ続けた30年間だったんですね。

「なぜ英語を学びたいか」が大切

mikan mikanのユーザーは学生さんも多いのですが、大人の方も半分ぐらいは占めているんですけど、そういった大人の学び直しってどうしたら良いでしょうか?

竹岡先生 社会人が英語を学ぶ時には、「何をするため」という目標があった方が良いと思いますね。例えば近い目標として英検の合格を目指すことであったり。

mikan 試験に合格するというのは分かりやすい目標ですよね。

竹岡先生 それでなぜTOEICやTOEFLを勧めないのかというと、300点レベルの人も990点レベルの人も同じ試験内容だからなんだよね。やっぱりハードルが高すぎると嫌になる。その点、英検は同じ語彙レベルでやってくれるから、取り組みやすいと思うんですよ。

mikan 自分のレベルに合わせて目標設定できるのはモチベーションにつながりますよね。

竹岡先生 もしくは最近は海外の人とやりとりできるチャットを使いながら、話す訓練をするとかね。僕もよくイギリス人とかと話す機会があるんだけど、歳をとったら分かったことで、向こうは我々の流暢さには期待しておらず、内容を聞きたいんですよ。そこさえ分かれば慌てなくて済む。ついみんな緊張して慌てちゃうんだけど、ゆっくり喋ればいいんだよ。

『英作文基礎10題ドリル』で、英語をもっと自由に

mikan 流暢な英語を聞きたいのではなくて、シンプルにコミュニケーションをとりたい。そう聞くとハードルが下がりますね。

竹岡先生 そうなんです。例えば海外旅行で英語を話せるようになる程度であれば、そこまで難しいことじゃないと思う。では一方でなぜ僕が英作文を重視しているかというと、英語を自由に使えるようになるためには英作文力を身につけるのが一番良いと思っているからなんだよね。

mikan 英語を自由に使う、ですか?

竹岡先生 例えば京大の試験にもこんな問題があって、「私利私欲で動くと後で痛い目に遭う」という文を英訳しなさいと。この時にまず日本語の段階で、例えば「人が後で助けてくれると思って人を助けたら、後で失望するよ」という変換が瞬間的にできるかというのが重要なんです。

mikan 英訳をする前に、まず英語にしやすいように日本語を分解、変換できるかということですかね。

竹岡先生 そう。英会話で習う一部の表現を使えるとかではなくて、言いたいことを一瞬で言い換えられる。それが「英語を話せる」ということなんじゃないのかな。そのためにどうしたら良いのか考えたら、英作文こそが最も有効な学習方法だと思うんだよね。当然それには単語力も必要となる。

mikan そういう意味でも英検に取り組むのは良いですね。 

竹岡先生 まずは目先の英検合格を目標にスタートして、英作文を身につけながら実際に会話をしてみる。そうすればしっかり話せるようになるんですよ。今回リリースされた『英作文基礎10題ドリル』では英作文の基本を徹底したい人、ミスをなくしたい人、表現の幅を広げたい人に向けた問題が豊富に収録されています。mikanで単語を覚えつつ、並行してテキストをベースにライティングしていくと効果的なんじゃないかと思いますね。

mikan 英検対策としては有効に活用いただけると思いますので、今後はmikanとしてもライティング、スピーキングの機能も拡充も考えていけたらと思っています!
今回は貴重なお話とアドバイスをありがとうございました!

竹岡先生が実践する教育の原点には、自分が英語学習に悩んだ思い出と、その中で見つけた「楽しみ」がある。英語教育の第一線で活躍され続けてもなお、「当時の自分が学びたかったことをやっているだけなんです」とおっしゃる謙虚なお姿と、常に場を明るくリラックスさせてくれるような、サービス精神溢れるお人柄が印象的でした。最後に先生の著書にサインまでいただき、終始和やかで学びの多いインタビューを終えました。竹岡先生、本当にありがとうございました!


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