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新聞紙とリカちゃん人形

子どもの頃、身体の弱かった祖母のおつかいでよく
お豆腐を買いに行っていました。

「かおちゃん、お豆腐買うて来てくれる?」

祖母にこう言われると、いつもの小さな子ども用の
カゴを取りに行きます。祖母はいつもそこに小さく
折りたたんだ新聞紙を敷いてくれました。

「どれだけ買ってくればいいん?」

祖母の想いがわからないので必ず確認をします。
するといつもこう言っていました。

「1丁買ってきてね。」
「お駄賃にカプリコを買って来ていいからね」

渡されたお金を落とさないようにポケットにしま
い込みます。あとはまっすぐ歩いて10分ほどの
ところにあるお店に行くだけです。

(このおつかいは何度も経験があるのでサッサと
 行って来よう。)

わたしは小さなピンクのカゴを右腕にひっかけ家の
外に出ました。いつもの橋を渡ったらお店はもうす
ぐそこにあります。

田舎なので人に会うコトもありませんでした。
しかし、この日は橋を渡った頃から笑い声のような
ものが聴こえていました。

(一体誰だろう?)

それでもジブンには「お豆腐を買ってこなくてはい
けない」という使命があります。少し気になりなが
らも、足早に歩いていました。角を曲がったその時
でした。

目の前に女の子たちが一列になって歩いていたので
す。皆リカちゃん人形を両手で胸の高さで持ってい
ました。

先頭にいたのは同級生の美奈ちゃんでした。すぐ目
の前にある同級生の家に遊びに行くようでした。

(ジブンには関係ない。)
(わたしはおつかいを頼まれてるんだ。)

そんなことを思いながらさらに歩いていたトキでし
た。

「かおちゃん、
 そのカゴの中には何が入っとるん?」

美奈ちゃんは、皆を引き連れてわたしの近くにやっ
てきました。そして、カゴの中を覗き込み、新聞紙
を指さして言ったのです。

「なに?この汚いカゴに新聞紙・・・。」
「うちらは今からリカちゃんごっこして遊ぶんじゃ
 けど。」
「かおちゃんは人形なんか持ってないけん代わりに
 新聞紙入れて遊びよーるんじゃ!!」

わたしはすかさず言い返しました。

「おばあちゃんに頼まれたけん、お豆腐を買いに行
 きよーるんよ。」
「リカちゃん人形くらい持っとる!!」
「わたしには遊んどる暇はないんよ!」

これでいいと思っていました。
けど美奈ちゃんも黙っていません。

「リカちゃん持ってないけんそう言いよるんじゃろ
 !」

わたしは悲しくなりました。身体が不自由でジブン
で歩けない祖母の代わりに困ってる祖母のためにこ
うしておつかいに行って、なぜこんな酷いことを言
われなくてはならないのか。

美奈ちゃんがこんなことを言っている間、ついて歩
いてきていた女の子たちは黙っていました。

わたしはもう一度言いました。

「わたしは頼まれてるから、おつかいに行くね。」
「さようなら。」

こんなところで言い合いをしていても解決はしませ
ん。それより大切なのはお婆ちゃんからのおつかい
です。

わたしは気持ちを取り直し、右腕にかけた小さなピ
ンクのかごの中に目をやりました。そしてまた歩き
はじめました。

お店につくと、おばちゃんが出てきて必要なモノを
聞いてくれます。

「お豆腐を1丁ください。」
「それからカプリコを1つください。」

おばちゃんは水にひたされているお豆腐を取り分
け、カゴに入れてくれます。そして少し高いとこ
ろにぶら下げてあるカプリコを一つだけ取ってく
れます。

カプリコには種類があって、わたしはいつもピン
ク色をした包みに入っているイチゴのカプリコを
お願いしていました。

間違えないように、高いところにあるイチゴのカ
プリコをちゃんと指さします。

(今日のおつかいはこれで完了!)

あとはポッケに入れて持ってきたお金で会計を済ま
せるだけです。いつものようにお金を差し出すと、
おばちゃんが清算をしてくれます。

「いつもありがとう。」
「気をつけてかえりんさいね。」

おばちゃんの声に励まされ、元来た道を帰ります。
美奈ちゃんにイジワルを言われた場所を通り抜け、
自宅に戻ります。

「おばあちゃん、ただいま!!」
「お豆腐とイチゴのカプリコ買ってきたよ!!!」

どんなトキも強い味方だった大好きなお婆ちゃんの
顔を見ると涙が出てきました。

「どうしたん?何かあったん?」

祖母はシンパイをして尋ねてきました。
わたしは一部始終を祖母に訴えました。
すると祖母はこういったのです。

「かおは良い子じゃけぇ、何も悪いコトはしてない
 。」
「かおは優しい子じゃけぇ、お婆ちゃんを助けるた
 めにおつかいに行ってくれた。」
「お婆ちゃんと一緒にイチゴのカプリコを食べよう。」

わたしは持ち手のところだけ包み紙を残しカプリコ
を開けました。薄いピンク色のチョコレート部分が
見えます。すると少しだけ元気が出てきました。

「ハイッ!!お婆ちゃん!!!」

お駄賃として買うカプリコですが、最初の一口はお
婆ちゃんが食べると決めていました。

ベッドに横になるお婆ちゃんに差し出すと、いつも
嬉しそうに笑顔で食べてくれました。その笑顔を見
ると、おつかいであった嫌な出来事なんか全部吹き
飛びました。

「かおも食べんさい。」

祖母に促され、わたしもカプリコにかじりつきます
。それでもまだカプリコは残っています。

当然、大好きなお婆ちゃんにもっと食べて欲しい。
わたしはまたお婆ちゃんの口元に持っていきます。

こうしていつもかわりばんこに仲良く食べるのがマ
イルールでした。

イジワルな美奈ちゃんが同級生たちを一列に並べて
歩いていた光景。小さなピンクの子ども用のカゴを
腕に引っ掛けていたジブン。その中に小さく畳み込
まれていた新聞紙。

わたしは忘れることがありません。

新聞紙はお豆腐を入れた時に濡れるから祖母が気を
きかせてくれていたものでした。大好きだった祖母
のその思いをバカにされたような悔しさもあったの
かもしれません。


↑ 当時使っていた子ども用のカゴ イメージ図

 

~かおのことが気になるあなたへ~

分かりやすそうに見えて、なにか掴みどころがない
と言われるわたし。他のnoteも手にとってみてくだ
さいね。そこにヒントがあるかもしれません。
大切にしてきたベースとなる考え方などお話してい
ます。どうぞこちらもご覧くださいね。


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