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火傷するくらいの情熱

数日前の深夜1時すぎ。私はベッドに寝ながら枕元にiPadを置いて、あるコンビの漫才を観てゲラゲラ笑っていた。

1時間ほど前「そろそろ寝るか」と思ってベッドに横になったはずだったのに。おかげで翌日は無事、寝不足となった。それもこれも、寝る前にちょっくら読もうと手にとった『復活力』のせいだ。

サンドウィッチマンといえば、国民から愛される芸人として定着している。もうすっかりテレビで活躍する姿に見慣れてしまって忘れてしまいそうになるけれど、彼らが一躍有名になったのは、2007年のM-1グランプリがきっかけだ。17年前の大会で、彼らは敗者復活からチャンピオンに輝いた。

2018年に文庫化された『復活力』は、2008年9月に刊行された『敗者復活』の内容がベースになっている。それぞれの幼少期、2人の出会い、高校時代、コンビを組むまでの経緯、安アパートに同居していた期間、そしてM-1、優勝して日々がどう変わったか。それらが2人の視点で語られている一冊だ。

特に、M-1本番のパートは臨場感がすごい。彼らがM-1で優勝したのは2007年12月だから、『敗者復活』はその直後に書かれていたものなのだろう。どの瞬間に何を考えていたのか、とにかく細かい描写で語られていく。

2人の興奮がまだ冷めていないことがよくわかる熱い文章のおかげで、私もその「敗者復活からの優勝」という劇的な瞬間に、どんどん没入してしまった。本の中で「M-1決勝でのネタ披露」の部分に差しかかった瞬間、たまらずアマプラを立ち上げ、2007年のM-1を見返してしまったというわけだ。

漫才がおもしろいのは当然として、2人のエピソード読んだ上で見る映像は、かつて見たものと全然違うように見えた。「こんな仕草をしてたけれど、心の中ではこう思ってた」「実はここでネタが飛んで頭が真っ白になった」とか。ただテレビを眺めているだけでは決してわからないドラマがあったんだと思うと、自分たちが見ている世界がいかに断片的かがよくわかる。

最近はM-1の後に映像としてアナザーストーリーも制作されているけれど、本人たちが当時の模様を言葉で綴る「本」という形だからこそ、再現できる臨場感もあるのかもしれない。

当時のM-1の映像を見届け、本も読み終えて、もう夜中何時かわからない中で、私は感動で涙が出そうになっていた。なんとなく本の裏表紙を見ると、帯いっぱいに担当編集者さんの思いが書かれているのに気づいた。

「M-1で勝ち上がっていく本書のクライマックスは、結果を知っているのに、手に汗握り、涙が出ます。10年の時を経て文庫にできて、本当にうれしいです」

一部を引用

帯を読んで、この本に大きく心を動かされた理由がよくわかった気がした。彼らのお笑いやM-1への情熱、そこで起きたドラマ、サンドウィッチマンの人柄。それらを多くの人に伝える一冊にしたいという、作り手の強い思いがあったんだろうと想像できた。

著者の熱量、本をつくる人の熱量。人の心を動かすには、火傷するくらいの情熱が必要なのかもしれない。この本に出会って、もともと「普通に好き」と思っていたサンドウィッチマンのことが、多分10倍は好きになった。

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