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京都のにおい

「あ、京都のにおいがする」

数日前、京都の街を歩いているときに思った。お香と、八ツ橋みたいな甘い和菓子が混ざったような、そんなにおい。福岡に帰ってきた今でも思い出せる。

私は小3の頃から昨年5月までの約20年間、大阪で暮らしていた。でも学生時代に通っていた高校、大学は、それぞれ京都市内にある。

大阪から京都の、片道1時間半以上の通学は小旅行のようでも、慣れてしまえば日常になる。京都の友人もたくさんできたし、放課後はもちろん、定期券のおかげで休日も京都で遊ぶことが当たり前になった。社会人になって大阪の学校や企業に就職していた間も、京都が好きでよく足を運んだ。

今週、そんな思い出深い京都を久しぶりに訪れた。昨年の5月から福岡に住み始めて、7月に1日だけ京都に滞在したものの、そのときは散策も何もできなかった。今回も用事は1日だけだったけれど、せっかくだし長居したくて、ワーケーションの意味も込めて3泊4日の旅にした。

メインの予定が終わった翌日。友人と会う約束まで少し時間があったので、念願の京都散策をした。歩くのが好きな自分を信じ、五条駅から清水寺、八坂神社を通り、四条駅まで歩いてみることに。全部でだいたい1万歩くらいの道のりだ。

坂を登って息切れ状態の中で撮影

五条から緩やかな山登りを経て、たどり着いた清水寺。福岡は中国、韓国からの観光客の割合が多い気がするのだけれど、京都には世界各国から人が訪れているように見える。清水の舞台上に、さまざまな国籍の人がぎゅうぎゅうになって乗っている光景をみて、京都が世界中から注目を集める場所であることを実感した。

人の合間をかきわけて撮影。清水寺は格別や

人の多い二寧坂などのメイン通りを経由し、八坂神社へ。お参りをして正面の門から出て、喫茶室「ぎおん石」で休憩した。引っ越す前に行きそびれた、ずっと行きたかったお店。想像以上に渋かった。観光客でにぎわう街の喧騒から離れられる、居心地のいい場所。

旅のおともは金原ひとみさんのエッセイ

お店を出て、地下鉄の四条駅に向かってふたたび歩き出す。八坂神社の正面から四条駅までは、まっすぐの道のり。この通りは、関西に住んでいたときに最もよく歩いた道だから、特にワクワクした。

この道を歩いていると、大袈裟ではなく本当に「お店一軒一軒」レベルで、誰かとの思い出がよみがえるから驚く。いったい何往復しているのだろう。

そしてこの通りはお土産屋さんも多いからか、そこかしこから「京都のにおい」がふわっと漂ってくる。私には他にもなじみ深い街があるけれど「街のにおい」が思い浮かぶのは、京都だけかもしれない。

景色、におい、想起される過去。それらに夢中になりながら歩いていたせいで、四条駅に到着する頃「私は今からどこへ帰るんだっけ」と思った。1年前の私なら、併設されている烏丸駅の改札に向かい、阪急電車に乗って大阪へ帰っていた。今日帰るのは京都駅のホテル。明日帰るのは、福岡の家だ。

「今日四条らへん歩いてたら、自分がどこに住んでて、どこに帰るんか一瞬わからんくなってん」この日の夜に会った友人にそう話すと「高校、大学って毎日濃いやん。それを京都で過ごしてんから、さあやからしたら京都も立派な故郷やな」と言われた。

「また帰ってくるとき連絡してな」「いつでも帰ってきや」京都で会った友人たちは、なんの疑問もなく私にそう言う。

関西に、私の帰る家はもうない。それでもここに、私の帰る場所はあるんだと、久しぶりに訪れた京都で実感した。京都に住んだことは一度もないけれど、誰もが故郷に対して抱くような郷愁を、私はこの先ずっと京都に抱いてしまうのだと思う。

おまけ
最終日に大阪で見つけたミャクミャク

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