証拠
母の日の今日、私が受け取ったものは夫の浮気の証拠だった。
ほぼ動かぬ証拠でありながら、半年前のものというなんとも、なんとも中途半端な証拠。
怒って泣き叫ぶには少し月日が経ち過ぎな気がするし、無かったことにするには、これまた微妙に腹立たしく、まだ生々しい時間経過のように感じる。
「半年前ってなによ、超微妙だよね。」
この男は常にこうだ。
何かにつけて、本来ならば大事件になることを絶妙に相手の力が抜けるタイミングでやってのける。
持って生まれた特技のようだが、こっちは毎度毎度たまったもんじゃない。
幼い子どもたちを抱えて一人でやっていくことを想像してみる。
大丈夫。
人生やる気になれば、なんとでもなる。
さて、どうしたものか。
どうしてやろうか。
結果、どうもしないことにした。
証拠は静かに取っておく。
人生何があるか分からない。
私だって、そのうち、何処かで石油王に見染められるかも知れない。
浮気なんてするのはクズ男だが、される方にも色々至らぬことがあるのだろうと思ってしまう。
きっと、私には何かが足りなかったのだろう。
「この間来てたお客さん、離婚調停中なんだけど、相手の浮気の証拠がなくって裁判が難航してるんだって。浮気されたらちゃんと、証拠を掴まなきゃダメだよって教えて貰っちゃった。笑」
妻が夫をチクリと刺す。
あら、緊張してる?
聞こえないふりをしてる肩に力が入っているようにも見える。
ギリギリ時効ということで。
今日はこの辺りにしておいてやろう。
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