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外国人労働者政策の転換期を迎えて

自由人権協会 旗手 明

Mネット2022年6月号の特集は「外国人労働者政策の転換期を迎えて〜技能実習生&特定技能の見直しはどこへ」です。特集の総論記事を無料で転載します。特集の他の記事と購入方法についてはこのページの末尾をご覧ください。

2022年は技能実習法が施行されて5年目にあたり、制度見直しの時期となっている。すでに古川法務大臣が、年頭所感で技能実習&特定技能の制度見直しに向けて決意表明し、法務大臣勉強会も開催されている。2月15日には、経団連が「2030年に向けた外国人政策のあり方」という提言を発表し、日弁連も外国人労働者受入れ制度に関する意見書を4月27日に公表した。このほか、出入国在留管理庁と厚生労働省が、この1月から全国の実習生計約2千人を対象に、来日時の費用負担等に関する調査を初めて実施しており、その結果は制度見直しに反映させられることになる。

外国人労働者の概況

2021年の国際的な人流の停滞は、外国人労働者にも大きな影響を与えた。

厚生労働省の「外国人雇用状況の届出状況」(特別永住者、外交、公用は含まず)によれば、2021年10月末現在の外国人労働者数は、172.7万人と前年比でほぼ横ばいとなっており、近年の外国人労働者の増加傾向に急ブレーキがかかった。コロナ禍以前5年ほどの外国人労働者数は、労働力不足を背景に毎年20万人弱の増加をみせ、5年間で2倍を超える急増だったことからすれば大きな変化と言える。

外国人労働者数を在留資格別にみると、技能実習が最も多く35.2万人となっており、次いで永住者が34.5万人、「技術・人文知識・国際業務」が29.1万人、留学生のアルバイトが26.8万人などとなっている。

国籍別には、ベトナムが2020年に最多となり21年も45.3万人まで増加している。次いで中国の39.7万人、フィリピンの19.1万人、ブラジルの13.5万人などとなっている。

コロナ禍が及ぼした影響

次に、コロナ禍が及ぼした影響を、法務省の在留外国人統計や出入国管理統計から在留資格別にみてみよう。

表1 コロナ禍の在留外国人数の変動

国際的な人流の変化を最も反映する新規入国者数をみると、技能実習では2021年に2.3万人となっており、20年の8.4万人、19年の18.9万人から大幅に減少している。留学生も21年には1.2万人と、20年の5.0万人、19年の12.2万人から大幅に減少した。「技術・人文知識・国際業務」も、21年には2.5千人と、20年の19.7千人、19年の43.9千人から大きく減少した。

他方、在留外国人数でみると、在留資格ごとに異なる動きがみられる。

新たな入国がないと在留者数を維持できない留学生、技能実習生への影響が大きい。すなわち留学生は、コロナ禍以前の2019年末に34.6万人だったところ、21年末には20.8万人となり、13.8万人(▲39.9%)の減少となっている。技能実習生も、19年末の41.1万人から2年後には27.6万人と、13.5万人(▲32.8%)の減少である。

他方、コロナ禍対応の緊急措置で活用された「特定活動」は、19年末の6.5万人から2年後には12.4万人と、5.9万人(90.3%)の増加となった。また、コロナ禍のもと技能実習からの移行が多かった「特定技能」は、19年末の1.6千人から2年後には5.0万人まで増加した。また、留学生からの移行が多い「技術・人文知識・国際業務」も、卒業生の流入があって、19年末の27.2万人から2年後には27.5万人とわずかに増加した。

技能実習制度の現状

(1) 監理費の実態

技能実習機構が実施した「監理費等の費用に係るアンケート調査(2021年)によれば、技能実習生一人当たりの月額監理費は、技能実習1号では30,551円、同2号では29,096円、同3号では23,971円などとなっている。このほか、初期費用、不定期費用なども負担している。

表2 監理費等の費用に係るアンケート調査

この調査により、技能実習生を受け入れた実習実施者が、賃金以外でいかに大きな負担を負っているかが明らかとなった。こうした負担が、技能実習生の賃金にとって下方圧力となっているものと考えられる。

(2) 帰国後の就職状況

同機構が実施している「フォローアップ調査」(2020年度)によると、技能実習生の最大の送出し国であるベトナムでは、帰国後に「雇用され働いている」が12.5%「、雇用されて働くことが決まっている」が5.0%、「起業している」が10.8%となっている。これら3つを合計しても28.3%にしかならず、技能移転の意味がどこまで実現できているのか疑問を生じさせる結果となっている。

(3) 適正化に向けたベトナムの動き

同じくベトナムでは、2020年11月の法改正により、2022年1月から「契約に基づいて外国で働くベトナム人労働者に関する法律」が施行されている。在ベトナム日本大使館の仮訳によれば、同法では「労働者から収受されるサービス料の上限額」について、次のように定められている。

  • 契約期間12ヶ月毎に賃金1ヶ月分を超えない。

  • 36ヶ月以上の期間で外国に派遣する契約に合意した場合、サービス料は契約に基づく労働者の賃金の3ヶ月分を超えてはならない。

また、2021年3月には政府監査院が、労働者の海外派遣を担当する政府機関の取組みを調べた上で、手数料は当時、上限3600ドル(約40万円)と定められていたところ、海外労働管理局が「送出し機関の手数料徴収の監督ができておらず、長期間にわたって7千~8千ドルの高額な手数料を労働者に負わせる結果をもたらした」と結論づけ、責任者の処分を求めた。

このほか、2022年4月14日には、次期の駐日ベトナム大使として内定していた外務省次官が、コロナ禍における特別帰国便のチケットを高値に設定する便宜を図り、賄賂を受け取ったという収賄容疑で逮捕された。

多額の借金を背負って働きにきている技能実習生のためにも、送出し国側による改善への取組みに期待したい。

特定技能は解決策になるか

(1) 在留資格「特定技能」とは

技能の修得を目的とする技能実習や勉学を目的としている留学生のように、本来「労働力」として想定すべきでないものとは異なり、特定技能は、正面から人手不足に対応する政策として2019年4月にスタートした。その意味では画期的なものといえる。

特定技能には、通算5年までとされ、その後は帰国しないといけない特定技能1号と、在留期間を更新できる特定技能2号との二つがある。ただ、特定技能2号は、今年4月に初めて1人認められたばかりである。

特定技能1号は、技能実習よりは技能レベルが上と想定されている。そのレベルを確認するため、技能試験と日本語試験に合格することが必要となる。しかし、技能実習を3年間良好に修了した実習生は、例外的に無試験で特定技能1号に移れるようになっている。また、特定技能1号では、技能実習と同様、家族滞在が認められないが、特定技能2号は家族滞在が可能となる。1号・2号とも、同一業務内での転職の自由が認められる。

(2) 特定技能の現状

現在、特定技能1号は、農業、介護、建設、飲食料品製造など、人手不足が認められる14分野(業種)に認められている。技能実習で認められる職種と重なるところも多い。他方、特定技能2号は、いまのところ建設と造船・舶用にしか認められていない。

当初、5年間で35万人弱の受入れが想定されていたが、はじめの1年間は4千人ほどにとどまった。その後、コロナ禍の影響で帰国困難となった元技能実習生が流入して、昨年12月末には5万人近くまで増えてきた。そのため、8割ほどが技能実習ルートになっている。

最も多いのは飲食料品製造で1.8万人、次いで農業(6.2千人)、介護(5.2千人)、建設(4.9千人)などとなっている。国別では、ベトナムが3.2万人と6割を超えており、フィリピンが4.6千人、インドネシアが3.9千人、中国が3.7千人などとなっている。

特定技能は、当面は増加傾向が続くと思われるが、コロナ禍により供給源である技能実習生の新規入国が急減しているため、近い将来その影響が及んで増加傾向に急ブレーキがかかると想定される。

(3)特定技能は解決策になるか

技能実習制度の問題点が広く知られるようになり、これを克服する制度として特定技能に注目が集まっている。技能実習を廃止して特定技能に一本化すべきだとする論調もかなりみられる。

しかし、コロナ禍が明らかにしたことは、技能実習のように在留期間に上限が設けられている在留資格での外国人労働者の受入れ、いわゆるローテーション政策の脆弱性である。この政策では、国際的な人流が滞ると、すぐに困難な状況が生まれてしまう。その点では、特定技能1号は、ローテーション政策である点で技能実習と変わりはない。

また、賃金面をみた場合、技能実習生は、ほぼ地域別の最低賃金に張り付いている。2021年度の賃金構造基本統計調査によれば、技能実習生の所定内賃金が164.1千円のところ、特定技能1号は194.9千円と2割弱高くなっている。しかし、決して賃金水準が高いとは言えず、働きにくるのは所得水準の低い国からに偏りがちになる。そのため、経済発展などにより送出し国の所得水準が上がれば、遠くない将来、日本には目を向けなくなる可能性も高い。例えば、10年前に技能実習生の7~8割を占めていた中国は、所得が急増した結果、現在では2割を切るまでに減少しており、特定技能では1割を切っている。

さらに、一定期間後に帰国してしまう技能実習生や特定技能1号外国人などは、長期に企業を担ってくれる人材とはならず、人的投資の動機が働かないため生産性の向上にもつながりづらい。その結果、外国人労働者にとっても、望んだ熟練形成には結びつきにくく、労使双方にとって合理的でない状態となっている。

他方、特定技能2号は、要求される技能レベルも高く、工程を管理する班長レベルの実務経験も必要とされるなど、在留資格取得のハードルは高く、おいそれと増やせる状況ではない。

したがって、特定技能がそのまま解決策になると考えることは困難といえよう。

まとめに代えて

では、どうすればよいのか。一言でいえば、従来のローテーション(循環)型から、在留期間の更新が可能で期間の上限がない定住型に転換していくことがポイントとなる。つまり、外国人労働者が望めば、日本で長期に働くことができ、家族形成もでき、ひいては永住にもつながるようにしていくことだ。

そうすれば、パンデミックへの脆弱性がだいぶ緩和される。また、転職の自由を実質的に実現すれば、権利主張もしやすくなり、人権侵害が表面化されその克服にもつながる。さらに、在留が一定期間以上となった場合に、職種や業種による縛りをなくす制度にすれば、より健全に労働市場が機能することとなり、労働条件の水準も確保できることになる。

このような大きな転換(レジーム・チェインジ)を実現するには何が必要か。例えばドイツは、2000年代半ばに、移民国家という認識をもって大きな政策転換を行い、社会統合政策(共生政策)を政府の責任において大胆に実施している。すでに300~400万人の外国ルーツの人たちが暮らす日本社会を、まずは「移民社会」として自己認識することが肝要である。その上にたって、新たな構想を練れば、共生社会への途が拓けてくるはずだ。

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